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第1幕 真紅の薔薇の乙女
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「アヴェリア嬢との婚約は認められない」
父に相談しに行ったフォリオのお願いは、バッサリと切り捨てられた。
「な、なぜですか!? アヴェリア嬢には、まだ婚約者がいないと聞きました。僕では駄目なんですか?」
「お前だから駄目というわけではない。アヴェリア嬢は、誰とも婚約はしないだろう」
はぁ、と国王が重いため息をつく。
「公爵家に行く前に説明したはずだ。おそらく、アヴェリア嬢も事情を話してくれただろう」
そういえば、二人とも何か話していた気がする、とフォリオは思い返す。
呆れたように、今度はきちんと聞くようにと前置きして、国王は再度説明した。
「最初に言っておくが、アヴェリア嬢が婚約できないのは、お前の存在があるからだ」
またも、フォリオは稲妻に撃たれたような衝撃を受けた。
婚約したいと望んだ相手が、自分のせいで婚約できない?
また自分の世界に入り込みそうだった息子に対し、国王は咳払いする。
「そ、それはどういうことでしょうか?」
はっ、と我に返ったフォリオは、真剣に父の話に耳を傾ける。
「預言者には、それぞれ使命が与えられていることは知っているな?」
その言葉に、フォリオは頷く。
それぞれの時代を生きてきた預言者たちは、皆さまざまな使命をもって生きてきた。
「アヴェリア嬢に与えられた使命は、この国の王太子の運命の相手を見つけること、だそうだ」
「僕の運命の相手はアヴェリア嬢です!」
「ただ一度会っただけの相手に対して、何と軽率な……もう二度と、軽々しくアヴェリア嬢が運命の相手だなどと言ってはならんぞ」
少し間を空けてから、国王は口を開いた。
「使命を果たした預言者は、予知の力を失って死ぬさだめなのだ」
その言葉を理解するのに、時間を要した。
「僕が、アヴェリア嬢と結ばれれば、その瞬間、彼女は……」
「そういうことだ。だから、あの子がお前と結婚することはないし、他に婚約者もつくらないだろう」
頭の中が真っ白になる。
一目惚れした美しいあの少女は、自分のせいで死ななければならない運命なのだ。
もしフォリオが王太子でなければ、結婚しないという道も選べただろう。だが、跡継ぎが必要であることも考えると、それはできない。
仮に、他の誰かに王位継承権を譲ったとしても、預言者の使命には神の枷がつけられている。何としてでも、使命を遂行させられるようにアヴェリアは動くだろう。
「今日はもう休みなさい。これは誰のせいでもない。仕方のないことなのだ」
早くも失恋した息子に優しく声をかけると、国王は退室を促した。
あまりに落胆するその姿を見るのは、とても痛々しかった。
父に相談しに行ったフォリオのお願いは、バッサリと切り捨てられた。
「な、なぜですか!? アヴェリア嬢には、まだ婚約者がいないと聞きました。僕では駄目なんですか?」
「お前だから駄目というわけではない。アヴェリア嬢は、誰とも婚約はしないだろう」
はぁ、と国王が重いため息をつく。
「公爵家に行く前に説明したはずだ。おそらく、アヴェリア嬢も事情を話してくれただろう」
そういえば、二人とも何か話していた気がする、とフォリオは思い返す。
呆れたように、今度はきちんと聞くようにと前置きして、国王は再度説明した。
「最初に言っておくが、アヴェリア嬢が婚約できないのは、お前の存在があるからだ」
またも、フォリオは稲妻に撃たれたような衝撃を受けた。
婚約したいと望んだ相手が、自分のせいで婚約できない?
また自分の世界に入り込みそうだった息子に対し、国王は咳払いする。
「そ、それはどういうことでしょうか?」
はっ、と我に返ったフォリオは、真剣に父の話に耳を傾ける。
「預言者には、それぞれ使命が与えられていることは知っているな?」
その言葉に、フォリオは頷く。
それぞれの時代を生きてきた預言者たちは、皆さまざまな使命をもって生きてきた。
「アヴェリア嬢に与えられた使命は、この国の王太子の運命の相手を見つけること、だそうだ」
「僕の運命の相手はアヴェリア嬢です!」
「ただ一度会っただけの相手に対して、何と軽率な……もう二度と、軽々しくアヴェリア嬢が運命の相手だなどと言ってはならんぞ」
少し間を空けてから、国王は口を開いた。
「使命を果たした預言者は、予知の力を失って死ぬさだめなのだ」
その言葉を理解するのに、時間を要した。
「僕が、アヴェリア嬢と結ばれれば、その瞬間、彼女は……」
「そういうことだ。だから、あの子がお前と結婚することはないし、他に婚約者もつくらないだろう」
頭の中が真っ白になる。
一目惚れした美しいあの少女は、自分のせいで死ななければならない運命なのだ。
もしフォリオが王太子でなければ、結婚しないという道も選べただろう。だが、跡継ぎが必要であることも考えると、それはできない。
仮に、他の誰かに王位継承権を譲ったとしても、預言者の使命には神の枷がつけられている。何としてでも、使命を遂行させられるようにアヴェリアは動くだろう。
「今日はもう休みなさい。これは誰のせいでもない。仕方のないことなのだ」
早くも失恋した息子に優しく声をかけると、国王は退室を促した。
あまりに落胆するその姿を見るのは、とても痛々しかった。
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