ここからは私の独壇場です

桜花シキ

文字の大きさ
上 下
6 / 94
第1幕 真紅の薔薇の乙女

5

しおりを挟む
「アヴェリア嬢との婚約は認められない」

 父に相談しに行ったフォリオのお願いは、バッサリと切り捨てられた。

「な、なぜですか!? アヴェリア嬢には、まだ婚約者がいないと聞きました。僕では駄目なんですか?」
「お前だから駄目というわけではない。アヴェリア嬢は、誰とも婚約はしないだろう」

 はぁ、と国王が重いため息をつく。

「公爵家に行く前に説明したはずだ。おそらく、アヴェリア嬢も事情を話してくれただろう」

 そういえば、二人とも何か話していた気がする、とフォリオは思い返す。
 呆れたように、今度はきちんと聞くようにと前置きして、国王は再度説明した。

「最初に言っておくが、アヴェリア嬢が婚約できないのは、お前の存在があるからだ」

 またも、フォリオは稲妻に撃たれたような衝撃を受けた。
 婚約したいと望んだ相手が、自分のせいで婚約できない?
 また自分の世界に入り込みそうだった息子に対し、国王は咳払いする。

「そ、それはどういうことでしょうか?」

 はっ、と我に返ったフォリオは、真剣に父の話に耳を傾ける。

「預言者には、それぞれ使命が与えられていることは知っているな?」

 その言葉に、フォリオは頷く。
 それぞれの時代を生きてきた預言者たちは、皆さまざまな使命をもって生きてきた。

「アヴェリア嬢に与えられた使命は、この国の王太子の運命の相手を見つけること、だそうだ」
「僕の運命の相手はアヴェリア嬢です!」
「ただ一度会っただけの相手に対して、何と軽率な……もう二度と、軽々しくアヴェリア嬢が運命の相手だなどと言ってはならんぞ」

 少し間を空けてから、国王は口を開いた。

「使命を果たした預言者は、予知の力を失って死ぬさだめなのだ」

 その言葉を理解するのに、時間を要した。

「僕が、アヴェリア嬢と結ばれれば、その瞬間、彼女は……」
「そういうことだ。だから、あの子がお前と結婚することはないし、他に婚約者もつくらないだろう」

 頭の中が真っ白になる。
 一目惚れした美しいあの少女は、自分のせいで死ななければならない運命なのだ。
 もしフォリオが王太子でなければ、結婚しないという道も選べただろう。だが、跡継ぎが必要であることも考えると、それはできない。
 仮に、他の誰かに王位継承権を譲ったとしても、預言者の使命には神の枷がつけられている。何としてでも、使命を遂行させられるようにアヴェリアは動くだろう。

「今日はもう休みなさい。これは誰のせいでもない。仕方のないことなのだ」

 早くも失恋した息子に優しく声をかけると、国王は退室を促した。
 あまりに落胆するその姿を見るのは、とても痛々しかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

処理中です...