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第1幕 真紅の薔薇の乙女
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完全にアヴェリアが自分の婚約者だと信じて疑わなかったフォリオは、信じられないと言わんばかりに目を見開いた。
「で、でも、父上は、これから長い付き合いになる公爵家の令嬢だと……」
「陛下のお言葉に間違いはありませんわ。でも、それが婚約者という意味ではありません」
「それじゃあ……」
「私は、預言者として、フォリオ殿下と長い付き合いになる、という話です。私に課された預言者としての使命は、殿下に深く関わることですから」
スッ、と優雅な仕草で紅茶を嗜みながら、アヴェリアは答えた。
その後も何やら説明してくれていたが、フォリオの耳にその内容は入ってこない。
(アヴェリアは、僕の婚約者じゃない……)
それが、あまりにもショックだった。じわり、と目に涙が浮かぶ。
(いや、まだ諦めるのは早い!)
はっ、とフォリオは名案を思いつく。今からでも、父上にお願いすれば可能性はある。
「アヴェリア嬢、君に婚約者はいるの?」
「いいえ、おりませんが」
その言葉を聞いて、フォリオは立ち上がる。
「申し訳ない、急用を思い出した。またすぐに会いに来るから、今日のところはこの辺で失礼させてもらうよ」
「ええ、お気をつけて」
「今日は、とても楽しかったよ。必ず、またすぐに会いにくるからね!!」
アヴェリアにそう伝え、早速父上に会わねばと、従者たちを急かしながら王宮へ急いだ。
嵐のように去っていったフォリオのことを思い出しながら、アヴェリアは口の端を歪ませる。
「ふふ、面白い方」
後片付けを終えたセバスチャンが、アヴェリアに尋ねる。
「如何でしたか、殿下は?」
「とても面白い方でしたわ。退屈しなさそうでよかった」
「左様でございますか」
「ええ。私の人生を賭ける相手としては、楽しませてもらえそうよ」
そう語るアヴェリアに、セバスチャンは寂しそうな微笑みを向ける。
「あら、セバスチャン。私が預言者でなければ、なんてことは言わないでちょうだいね。この力のお陰で、私はこれから楽しませてもらうんだから」
「ええ、承知いたしました」
預言者の力と、その代償。
夢で未来の出来事を予知することができる代わりに、使命を託されている。
その使命からは逃れられず、使命遂行のために全力を尽くすように、神の見えない枷がつけられている。
そして、使命を果たした預言者はーー
「お嬢様、風が冷たくなってまいりました。お屋敷へ戻りましょう。温かい蜂蜜ミルクもご用意いたします」
「そうね、お願いするわ」
代償のことなど忘れさせてくれそうなフォリオの存在が、アヴェリアには嬉しくてたまらなかった。
今頃彼は、国王と何か話し込んでいるだろう。そして、一蹴されるはずだ。
今日の出来事は、すべて予知の通りに進んでいたのだから。
「で、でも、父上は、これから長い付き合いになる公爵家の令嬢だと……」
「陛下のお言葉に間違いはありませんわ。でも、それが婚約者という意味ではありません」
「それじゃあ……」
「私は、預言者として、フォリオ殿下と長い付き合いになる、という話です。私に課された預言者としての使命は、殿下に深く関わることですから」
スッ、と優雅な仕草で紅茶を嗜みながら、アヴェリアは答えた。
その後も何やら説明してくれていたが、フォリオの耳にその内容は入ってこない。
(アヴェリアは、僕の婚約者じゃない……)
それが、あまりにもショックだった。じわり、と目に涙が浮かぶ。
(いや、まだ諦めるのは早い!)
はっ、とフォリオは名案を思いつく。今からでも、父上にお願いすれば可能性はある。
「アヴェリア嬢、君に婚約者はいるの?」
「いいえ、おりませんが」
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「ええ、お気をつけて」
「今日は、とても楽しかったよ。必ず、またすぐに会いにくるからね!!」
アヴェリアにそう伝え、早速父上に会わねばと、従者たちを急かしながら王宮へ急いだ。
嵐のように去っていったフォリオのことを思い出しながら、アヴェリアは口の端を歪ませる。
「ふふ、面白い方」
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「如何でしたか、殿下は?」
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「ええ。私の人生を賭ける相手としては、楽しませてもらえそうよ」
そう語るアヴェリアに、セバスチャンは寂しそうな微笑みを向ける。
「あら、セバスチャン。私が預言者でなければ、なんてことは言わないでちょうだいね。この力のお陰で、私はこれから楽しませてもらうんだから」
「ええ、承知いたしました」
預言者の力と、その代償。
夢で未来の出来事を予知することができる代わりに、使命を託されている。
その使命からは逃れられず、使命遂行のために全力を尽くすように、神の見えない枷がつけられている。
そして、使命を果たした預言者はーー
「お嬢様、風が冷たくなってまいりました。お屋敷へ戻りましょう。温かい蜂蜜ミルクもご用意いたします」
「そうね、お願いするわ」
代償のことなど忘れさせてくれそうなフォリオの存在が、アヴェリアには嬉しくてたまらなかった。
今頃彼は、国王と何か話し込んでいるだろう。そして、一蹴されるはずだ。
今日の出来事は、すべて予知の通りに進んでいたのだから。
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