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第1幕 真紅の薔薇の乙女
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「無礼をお許しくださいませ、殿下。お怪我はございませんか?」
幸いにして転ぶことはなかったものの、まさかアヴェリアに抱きとめられることになるとは。
フォリオは、恥ずかしさと、思いのほか逞しい彼女の腕の中で顔を赤らめるしかなかった。
せっかく準備してきた薔薇の花束も駄目になってしまった。しかし、飛び散った花びらがアヴェリアの上から降り注ぎ、幻想的な雰囲気を生み出している。
これまたしばらく見惚れていたフォリオだったが、慌ててアヴェリアの腕から離れ、謝罪した。
「申し訳ない、アヴェリア嬢! 君のおかげで、転ばずに済んだよ」
「殿下にお怪我がないのなら、問題ありませんわ」
「君の方こそ、怪我は? 僕を支えた時に腕は痛めていないかい? それに、薔薇の棘でも刺さっていたら……」
「ご心配には及びません。こう見えて、身体は鍛えておりますので。それに、薔薇の花の棘は、殿下が丁寧に取り除いて下さっていたではありませんか」
地面に落ちた薔薇を一本拾い、彼女は香りを嗅ぐ。その薔薇に、棘はひとつたりとも残っていなかった。僕が、そうしてくれと頼んでいたのだが、すっかり忘れていた。
「すまない……君へのプレゼントだったのだけれど……」
「ありがとうございます。殿下のお気持ち、確かに受け取りましたわ」
本当に同じ歳なのかと疑いたくなるほどアヴェリアは落ち着いていて、無事だった薔薇の花を集めるようにセバスチャンに命じた。
そして、フォリオが持ってきた薔薇の花は、本数こそ減ってしまったものの、白い丸テーブルの上で、フラワーアレンジメントとして華々しく生まれ変わることとなった。
色々あったものの、ようやく二人でテーブルにつくことができた。
「改めまして、ようこそいらっしゃいました。私は、ブラウローゼ公爵家のアヴェリアと申します。よろしくお願いいたします」
「僕は、フォリオ・ファシアス。君に会えるのを楽しみにしていたよ」
想像よりも遥かに魅力的なアヴェリアを前に、フォリオは完全に舞い上がっていた。
「私も楽しみにしておりました。これから長い付き合いになると思いますので、どうぞ仲良くしてくださいませ」
「もちろん、君の婚約者として相応しい男になれるよう、頑張るよ」
そう意気込んだフォリオに対し、アヴェリアは首を傾げた。
「殿下、何か勘違いしておりませんこと?」
「え?」
次に彼女の口から出てきた言葉に、フォリオは言葉を失った。
「私は、殿下の婚約者ではありませんよ」
幸いにして転ぶことはなかったものの、まさかアヴェリアに抱きとめられることになるとは。
フォリオは、恥ずかしさと、思いのほか逞しい彼女の腕の中で顔を赤らめるしかなかった。
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これまたしばらく見惚れていたフォリオだったが、慌ててアヴェリアの腕から離れ、謝罪した。
「申し訳ない、アヴェリア嬢! 君のおかげで、転ばずに済んだよ」
「殿下にお怪我がないのなら、問題ありませんわ」
「君の方こそ、怪我は? 僕を支えた時に腕は痛めていないかい? それに、薔薇の棘でも刺さっていたら……」
「ご心配には及びません。こう見えて、身体は鍛えておりますので。それに、薔薇の花の棘は、殿下が丁寧に取り除いて下さっていたではありませんか」
地面に落ちた薔薇を一本拾い、彼女は香りを嗅ぐ。その薔薇に、棘はひとつたりとも残っていなかった。僕が、そうしてくれと頼んでいたのだが、すっかり忘れていた。
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「ありがとうございます。殿下のお気持ち、確かに受け取りましたわ」
本当に同じ歳なのかと疑いたくなるほどアヴェリアは落ち着いていて、無事だった薔薇の花を集めるようにセバスチャンに命じた。
そして、フォリオが持ってきた薔薇の花は、本数こそ減ってしまったものの、白い丸テーブルの上で、フラワーアレンジメントとして華々しく生まれ変わることとなった。
色々あったものの、ようやく二人でテーブルにつくことができた。
「改めまして、ようこそいらっしゃいました。私は、ブラウローゼ公爵家のアヴェリアと申します。よろしくお願いいたします」
「僕は、フォリオ・ファシアス。君に会えるのを楽しみにしていたよ」
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「私も楽しみにしておりました。これから長い付き合いになると思いますので、どうぞ仲良くしてくださいませ」
「もちろん、君の婚約者として相応しい男になれるよう、頑張るよ」
そう意気込んだフォリオに対し、アヴェリアは首を傾げた。
「殿下、何か勘違いしておりませんこと?」
「え?」
次に彼女の口から出てきた言葉に、フォリオは言葉を失った。
「私は、殿下の婚約者ではありませんよ」
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