ここからは私の独壇場です

桜花シキ

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第1幕 真紅の薔薇の乙女

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 ーー時は遡り、十年前。

 世界屈指の大国といわれるファシアス王国。
 その国の王太子フォリオ・ファシアスは、これまでになく緊張していた。

「ぼ、僕の格好はおかしくないだろうか?」

 姿見の前でくるくると何度も自分の格好を確認する。新品の白い礼服に身を包み、柔らかな金髪は、丁寧に後ろでひとつに結えてある。
 まだ五歳のこの子どもこそ、ファシアス王国の未来の国王である。

「大丈夫ですよ、フォリオ様。いつも通り、可愛らしゅうございます」
「今日は、可愛いでは駄目なんだ! だ、だって今日は……」

 乳母の言葉に、フォリオは綺麗な青い瞳を潤ませる。
 今日は、自分の婚約者になる少女に初めて会う日なのだ。

「そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ。王太子として、しっかりなさってください」
「う、うん。そうだな、僕がこの調子では、アヴェリア嬢に笑われてしまう」

 アヴェリア・ブラウローゼ。それが、フォリオの婚約者の名前だ。
 父である国王からは、「これから長い付き合いになる公爵家の令嬢に会いに行くこと」と、命じられている。
 長い付き合い……つまるところ、婚約者ということだろう。

 どのような少女なのかは噂でしか知らないが、大層美しく、「真紅の薔薇の乙女」と呼ぶ者もいるのだと聞いていた。
 そこまで評判の少女が自分の婚約者となるのだから、彼が緊張するのも無理はなかった。
 珍しく早起きしたフォリオは、長い間こうして自分の見た目が変でないかを確認し続けている。

 そうこうしているうちに、出発の時刻だと声がかけられる。
 ドキドキと高鳴る胸を抑えながら、フォリオは馬車に乗り込んだ。


 ーーが、あれほど粗相をしないようにと気を遣ってきたというのに、到着して早々、彼はやらかした。

「無礼をお許しくださいませ、殿下。お怪我はございませんか?」

 出会って早々、転びかけたフォリオを抱きかかえるように支えていたのは、アヴェリア嬢、その人だったのだから。
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