2 / 94
第1幕 真紅の薔薇の乙女
1
しおりを挟む
ーー時は遡り、十年前。
世界屈指の大国といわれるファシアス王国。
その国の王太子フォリオ・ファシアスは、これまでになく緊張していた。
「ぼ、僕の格好はおかしくないだろうか?」
姿見の前でくるくると何度も自分の格好を確認する。新品の白い礼服に身を包み、柔らかな金髪は、丁寧に後ろでひとつに結えてある。
まだ五歳のこの子どもこそ、ファシアス王国の未来の国王である。
「大丈夫ですよ、フォリオ様。いつも通り、可愛らしゅうございます」
「今日は、可愛いでは駄目なんだ! だ、だって今日は……」
乳母の言葉に、フォリオは綺麗な青い瞳を潤ませる。
今日は、自分の婚約者になる少女に初めて会う日なのだ。
「そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ。王太子として、しっかりなさってください」
「う、うん。そうだな、僕がこの調子では、アヴェリア嬢に笑われてしまう」
アヴェリア・ブラウローゼ。それが、フォリオの婚約者の名前だ。
父である国王からは、「これから長い付き合いになる公爵家の令嬢に会いに行くこと」と、命じられている。
長い付き合い……つまるところ、婚約者ということだろう。
どのような少女なのかは噂でしか知らないが、大層美しく、「真紅の薔薇の乙女」と呼ぶ者もいるのだと聞いていた。
そこまで評判の少女が自分の婚約者となるのだから、彼が緊張するのも無理はなかった。
珍しく早起きしたフォリオは、長い間こうして自分の見た目が変でないかを確認し続けている。
そうこうしているうちに、出発の時刻だと声がかけられる。
ドキドキと高鳴る胸を抑えながら、フォリオは馬車に乗り込んだ。
ーーが、あれほど粗相をしないようにと気を遣ってきたというのに、到着して早々、彼はやらかした。
「無礼をお許しくださいませ、殿下。お怪我はございませんか?」
出会って早々、転びかけたフォリオを抱きかかえるように支えていたのは、アヴェリア嬢、その人だったのだから。
世界屈指の大国といわれるファシアス王国。
その国の王太子フォリオ・ファシアスは、これまでになく緊張していた。
「ぼ、僕の格好はおかしくないだろうか?」
姿見の前でくるくると何度も自分の格好を確認する。新品の白い礼服に身を包み、柔らかな金髪は、丁寧に後ろでひとつに結えてある。
まだ五歳のこの子どもこそ、ファシアス王国の未来の国王である。
「大丈夫ですよ、フォリオ様。いつも通り、可愛らしゅうございます」
「今日は、可愛いでは駄目なんだ! だ、だって今日は……」
乳母の言葉に、フォリオは綺麗な青い瞳を潤ませる。
今日は、自分の婚約者になる少女に初めて会う日なのだ。
「そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ。王太子として、しっかりなさってください」
「う、うん。そうだな、僕がこの調子では、アヴェリア嬢に笑われてしまう」
アヴェリア・ブラウローゼ。それが、フォリオの婚約者の名前だ。
父である国王からは、「これから長い付き合いになる公爵家の令嬢に会いに行くこと」と、命じられている。
長い付き合い……つまるところ、婚約者ということだろう。
どのような少女なのかは噂でしか知らないが、大層美しく、「真紅の薔薇の乙女」と呼ぶ者もいるのだと聞いていた。
そこまで評判の少女が自分の婚約者となるのだから、彼が緊張するのも無理はなかった。
珍しく早起きしたフォリオは、長い間こうして自分の見た目が変でないかを確認し続けている。
そうこうしているうちに、出発の時刻だと声がかけられる。
ドキドキと高鳴る胸を抑えながら、フォリオは馬車に乗り込んだ。
ーーが、あれほど粗相をしないようにと気を遣ってきたというのに、到着して早々、彼はやらかした。
「無礼をお許しくださいませ、殿下。お怪我はございませんか?」
出会って早々、転びかけたフォリオを抱きかかえるように支えていたのは、アヴェリア嬢、その人だったのだから。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

今日は私の結婚式
豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。
彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでのこと。
……やっぱり、ダメだったんだ。
周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中
※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

出て行ってほしいと旦那様から言われたのでその通りにしたら、今になって後悔の手紙がもたらされました
新野乃花(大舟)
恋愛
コルト第一王子と婚約者の関係にあったエミリア。しかし彼女はある日、コルトが自分の家出を望んでいる事を知ってしまう。エミリアはそれを叶える形で、静かに屋敷を去って家出をしてしまう…。コルトは最初こそその状況に喜ぶのだったが、エミリアの事を可愛がっていた国王の逆鱗に触れるところとなり、急いでエミリアを呼び戻すべく行動するのであったが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる