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第2章 神子の旅立ち編
新たな旅立ち
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「その顔なら、問題なさそうだね。じゃあ、早速働いてもらおうか。実を言うと、手が足りなくて困っていたんだ」
グロウの元へ引き返し、自分にできることをさせてくれと懇願すると、先ほどとは打って変わってあっさり話が進んだ。まるで、こうなることを予期していたかのようである。
「やっぱり、ローゼ様に何か言いましたね?」
「さぁ、何のことだろうね?」
仕組まれていたようで腑に落ちないが、グロウは知らん顔をしている。
「それよりも、仕事の話だ」
これ以上追及したところで答えは返ってこないだろう。諦めたサラは、グロウの言葉に耳を傾けた。
「光の女神の加護を受ける国は、ルクシア王国だけじゃない。闇の女神の加護を受ける国もまた然り。その中には、光と闇が協力関係なところもある。レイリア王国とは当分まともな話し合いができそうにないからね。外堀から埋めていった方がいいだろう。世界を守るためにも、光と闇が協力関係にあるのはいいことだ。この機会に、ルクシア王国も繋がりをつくっておこうじゃないか。その交渉を、君にもやってもらうよ」
思いもよらぬ内容に、サラは自分の耳を疑った。
確かに自分に自信を持てとは言われたが、国と国の交渉ごとに直接関わるなど考えてもみなかった。
開いた口が塞がらないサラをよそに、話は進んでいく。
「世界が崩壊するかもしれないという話を聞いて、ここ数ヶ月いくつかの国とは交渉を進めてきた。あと一押しというところもある。最後の仕上げを、君に頼みたいんだよ」
「えっと、あの‥‥‥さすがにそれは。私の自信がどうのという話ではなく、いくら神子といえど交渉の席に着けるものでしょうか? 私は、貴族出身でもありませんし‥‥‥」
神子は、王族にも引けを取らない身分ではある。ただし、代々国を守ってきた王族とは異なり、神子に神子の家系などというものはない。偶然に生まれるものだ。
その一方で、単なる偶然ではあるのだろうが、貴族家系の中には神子が多く生まれる血筋もある。一般市民である自分より、貴族出身の神子の方がいいのではないか。その方が、交渉するうえで有利なのではないかと、そんなことを思った。
それを見透かしたように、グロウはにっこりといい笑顔を浮かべる。
「大丈夫。君は光の神子の中でも最高位の神子だからね。他の神子たちが口を揃えて言ってるんだ、間違いないよ。だから、相手に払う敬意としては十分さ。君にその自覚はないみたいだけどね」
自分が最高位の神子――そう言われて、ローゼとの会話を思い出す。
神子同士なら、相手の力を見極めることができる。ただ、自分自身のことは分からないのが難点だ。
こうも皆に指摘されれば、さすがのサラも認めざるを得ない。自分がそれほど周囲に影響を与える存在であることをようやく理解し始めた。
それにね、とグロウは続ける。
「身分も大事かもしれないけど、それよりも私は人柄で君を選んだ。国の代表を任せるなら、君がいい」
ここまで言われて、引き下がれるわけがない。神子としてではなく、サラというひとりの人間にここまでの信頼を寄せてくれるのなら、それに応えたい。
「承知いたしました。お引き受けいたします」
その返答に満足げに頷くと、グロウはてきぱきと準備を進めていく。
「レイリア王国関連の国だと、君の名前と特徴でばれる可能性もあるからね。君には、ルクシア様を信仰している国を回ってもらうよ」
レイリア王国では死んだものとして扱われているため、妥当な判断ではあった。サラという名前自体は珍しくもないが、名前を聞いて調べる人間がいないとも限らない。
そのため、サラは渦中にあるフォートレインとは真逆の方角にある、光の女神を信仰する国々を廻る旅に出ることとなった。
グロウの元へ引き返し、自分にできることをさせてくれと懇願すると、先ほどとは打って変わってあっさり話が進んだ。まるで、こうなることを予期していたかのようである。
「やっぱり、ローゼ様に何か言いましたね?」
「さぁ、何のことだろうね?」
仕組まれていたようで腑に落ちないが、グロウは知らん顔をしている。
「それよりも、仕事の話だ」
これ以上追及したところで答えは返ってこないだろう。諦めたサラは、グロウの言葉に耳を傾けた。
「光の女神の加護を受ける国は、ルクシア王国だけじゃない。闇の女神の加護を受ける国もまた然り。その中には、光と闇が協力関係なところもある。レイリア王国とは当分まともな話し合いができそうにないからね。外堀から埋めていった方がいいだろう。世界を守るためにも、光と闇が協力関係にあるのはいいことだ。この機会に、ルクシア王国も繋がりをつくっておこうじゃないか。その交渉を、君にもやってもらうよ」
思いもよらぬ内容に、サラは自分の耳を疑った。
確かに自分に自信を持てとは言われたが、国と国の交渉ごとに直接関わるなど考えてもみなかった。
開いた口が塞がらないサラをよそに、話は進んでいく。
「世界が崩壊するかもしれないという話を聞いて、ここ数ヶ月いくつかの国とは交渉を進めてきた。あと一押しというところもある。最後の仕上げを、君に頼みたいんだよ」
「えっと、あの‥‥‥さすがにそれは。私の自信がどうのという話ではなく、いくら神子といえど交渉の席に着けるものでしょうか? 私は、貴族出身でもありませんし‥‥‥」
神子は、王族にも引けを取らない身分ではある。ただし、代々国を守ってきた王族とは異なり、神子に神子の家系などというものはない。偶然に生まれるものだ。
その一方で、単なる偶然ではあるのだろうが、貴族家系の中には神子が多く生まれる血筋もある。一般市民である自分より、貴族出身の神子の方がいいのではないか。その方が、交渉するうえで有利なのではないかと、そんなことを思った。
それを見透かしたように、グロウはにっこりといい笑顔を浮かべる。
「大丈夫。君は光の神子の中でも最高位の神子だからね。他の神子たちが口を揃えて言ってるんだ、間違いないよ。だから、相手に払う敬意としては十分さ。君にその自覚はないみたいだけどね」
自分が最高位の神子――そう言われて、ローゼとの会話を思い出す。
神子同士なら、相手の力を見極めることができる。ただ、自分自身のことは分からないのが難点だ。
こうも皆に指摘されれば、さすがのサラも認めざるを得ない。自分がそれほど周囲に影響を与える存在であることをようやく理解し始めた。
それにね、とグロウは続ける。
「身分も大事かもしれないけど、それよりも私は人柄で君を選んだ。国の代表を任せるなら、君がいい」
ここまで言われて、引き下がれるわけがない。神子としてではなく、サラというひとりの人間にここまでの信頼を寄せてくれるのなら、それに応えたい。
「承知いたしました。お引き受けいたします」
その返答に満足げに頷くと、グロウはてきぱきと準備を進めていく。
「レイリア王国関連の国だと、君の名前と特徴でばれる可能性もあるからね。君には、ルクシア様を信仰している国を回ってもらうよ」
レイリア王国では死んだものとして扱われているため、妥当な判断ではあった。サラという名前自体は珍しくもないが、名前を聞いて調べる人間がいないとも限らない。
そのため、サラは渦中にあるフォートレインとは真逆の方角にある、光の女神を信仰する国々を廻る旅に出ることとなった。
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