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第2章 神子の旅立ち編
神子騎士ノア
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レイリア王国を出発してから、ノアの案内をもとに人気のない道を進んでいた。
どれほど歩いただろうか。日も傾き、辺りが薄暗くなってきた頃、サラの体調を気遣ってか無理は禁物だとノアは足を止めた。
「サラ様、野営は平気ですか?」
「うん。神子の仕事で地方を転々としてる時は、よくしていたから」
その返答に頷き、ノアはてきぱきと荷を解き始める。サラも何か手伝おうとしたが、あまりの手際のよさに余計なことをするのも憚られた。
こぢんまりとした簡易テントの中で夜風を遮りながら、即席のスープと携帯食を口にする。温かなスープが体に染みわたってゆく。それが緊張をほぐしたのか、道中あまり会話をしなかった二人の口を開かせた。
「ノアさんは、私の護衛をすることに抵抗はなかったの?」
「ノア、と呼び捨てで結構です。そうですね、このお話を頂いた時には、即決でした」
「それは、どうして?」
「私が適任だと思ったからです。騎士としてサラ様を守ることも、神子としてこの身を差し出すこともできますので」
特に表情を崩すことなく、ノアはそう言い切った。
フェリシアのことをとても慕っているという話は、マキディエルから聞いた。サラの護衛を迷いなく引き受けたのも、それがフェリシアのためになることだからだ。
「神子っていったら、守られる側じゃない? それなのに、騎士にもなろうと思ったのは何か理由があったの?」
闇の神子であるノアは、本来ならば自身が守られる側の人間だ。だが、ノアはフェリシアの騎士として仕えてもいる。
サラの問いに、ノアはしばらく黙っていた。言いたくないことだったのだろうかとサラが焦り始めた頃、ノアはようやく口を開いた。表情が変わらないため分かりづらいが、ただ理由を考えていただけだったらしい。
「幼い頃、母に読んでもらった絵本の中に、国のために自ら剣をとった姫の話があったのです」
「つまり、その姫様に憧れて?」
「私自身がその姫のようになろうと思ったわけではありません。私には、その絵本の姫にフェリシア様が重なって見えたのです」
国のために自ら剣をとった姫と、世界のために平和を訴える王女。確かにその在り方は似ていた。
「国民の希望として、どんな困難にも諦めず立ち向かった姫。しかし、彼女は決して独りで戦っていたわけではないのです。彼女を支える騎士たちの姿が、常にその傍らにありました。フェリシア様に出会った時、私はあのお方の支えとなることを決めたのです。私が神子であったのは偶然に過ぎませんが、神子という立場であったからこそ、フェリシア様のことをよく知る機会を得られたとも言えますね」
フェリシアの持つカリスマ性なのか、マキディエルといい、ノアといい、彼女のことを慕う人間は多岐にわたる。
その一方で、光と闇、その中立の神子としての立場は脆くもあった。独りで立ち向かうにはあまりにも大きなもの。絵本の中の姫がそうであったように、フェリシアにも彼女のことを傍で支える者たちの存在は必要不可欠だった。
「フェリシア様は色々な人たちに慕われているのね」
「はい。しかし、敵も多いお方です。そんな中、光の神子でありながらフェリシア様のお考えに理解を示していただけたサラ様には、本当に感謝しているのです。貴方のことは、必ずや無事に送り届けることをお約束いたします」
彼女のサラへの献身は、あくまでもフェリシアのためだ。フェリシアに協力している限りは、身を賭しても尽くしてくれるだろう。
だが、ルクシア王国に戻ってからどうなるかは分からない。サラ自身は、世界から争いをなくすというフェリシアの考えに賛同しているが、光の神子としての立場もある。
もし、フェリシアの考えに沿うことができなくなった時にどうなるのか。そんなことを考えずにはいられないのだった。
どれほど歩いただろうか。日も傾き、辺りが薄暗くなってきた頃、サラの体調を気遣ってか無理は禁物だとノアは足を止めた。
「サラ様、野営は平気ですか?」
「うん。神子の仕事で地方を転々としてる時は、よくしていたから」
その返答に頷き、ノアはてきぱきと荷を解き始める。サラも何か手伝おうとしたが、あまりの手際のよさに余計なことをするのも憚られた。
こぢんまりとした簡易テントの中で夜風を遮りながら、即席のスープと携帯食を口にする。温かなスープが体に染みわたってゆく。それが緊張をほぐしたのか、道中あまり会話をしなかった二人の口を開かせた。
「ノアさんは、私の護衛をすることに抵抗はなかったの?」
「ノア、と呼び捨てで結構です。そうですね、このお話を頂いた時には、即決でした」
「それは、どうして?」
「私が適任だと思ったからです。騎士としてサラ様を守ることも、神子としてこの身を差し出すこともできますので」
特に表情を崩すことなく、ノアはそう言い切った。
フェリシアのことをとても慕っているという話は、マキディエルから聞いた。サラの護衛を迷いなく引き受けたのも、それがフェリシアのためになることだからだ。
「神子っていったら、守られる側じゃない? それなのに、騎士にもなろうと思ったのは何か理由があったの?」
闇の神子であるノアは、本来ならば自身が守られる側の人間だ。だが、ノアはフェリシアの騎士として仕えてもいる。
サラの問いに、ノアはしばらく黙っていた。言いたくないことだったのだろうかとサラが焦り始めた頃、ノアはようやく口を開いた。表情が変わらないため分かりづらいが、ただ理由を考えていただけだったらしい。
「幼い頃、母に読んでもらった絵本の中に、国のために自ら剣をとった姫の話があったのです」
「つまり、その姫様に憧れて?」
「私自身がその姫のようになろうと思ったわけではありません。私には、その絵本の姫にフェリシア様が重なって見えたのです」
国のために自ら剣をとった姫と、世界のために平和を訴える王女。確かにその在り方は似ていた。
「国民の希望として、どんな困難にも諦めず立ち向かった姫。しかし、彼女は決して独りで戦っていたわけではないのです。彼女を支える騎士たちの姿が、常にその傍らにありました。フェリシア様に出会った時、私はあのお方の支えとなることを決めたのです。私が神子であったのは偶然に過ぎませんが、神子という立場であったからこそ、フェリシア様のことをよく知る機会を得られたとも言えますね」
フェリシアの持つカリスマ性なのか、マキディエルといい、ノアといい、彼女のことを慕う人間は多岐にわたる。
その一方で、光と闇、その中立の神子としての立場は脆くもあった。独りで立ち向かうにはあまりにも大きなもの。絵本の中の姫がそうであったように、フェリシアにも彼女のことを傍で支える者たちの存在は必要不可欠だった。
「フェリシア様は色々な人たちに慕われているのね」
「はい。しかし、敵も多いお方です。そんな中、光の神子でありながらフェリシア様のお考えに理解を示していただけたサラ様には、本当に感謝しているのです。貴方のことは、必ずや無事に送り届けることをお約束いたします」
彼女のサラへの献身は、あくまでもフェリシアのためだ。フェリシアに協力している限りは、身を賭しても尽くしてくれるだろう。
だが、ルクシア王国に戻ってからどうなるかは分からない。サラ自身は、世界から争いをなくすというフェリシアの考えに賛同しているが、光の神子としての立場もある。
もし、フェリシアの考えに沿うことができなくなった時にどうなるのか。そんなことを考えずにはいられないのだった。
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コメントありがとうございます。
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