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第6章 宮廷魔導士編
39 魔王(青と赤)
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史上最強のホロウと謳われるルナシアの力をもってしても、魔王はそう簡単に倒せる相手ではなかった。
時間が巻き戻る以前の世界でギャロッドが魔王を見たのは、すでに世界が崩壊しかかった時だった。
あの時も、こんな戦いが繰り広げられていたのだろうかと、城下町の魔獣たちを相手に走り回りながらギャロッドは思う。
あの日、ルナシアが敵わなかった相手。同じくディーンも歯が立たなかった。
長年自分の心の中に秘めていた彼への嫉妬心。今でこそ薄れてはいるが、今更仲良くやっていこうと思えるほど素直な性格ではなかった。しかし、同じ職についている限り、顔を合わせる機会がなくなることはないだろう。
腐れ縁。親友どころか、友人とも呼べない間柄。顔を合わせれば言い争ってばかりだが、ギャロッドにとってはそれくらいの関係がこの先も続けばいいのだと納得していた。
(まぁ、この場を無事に切り抜けられればの話だが)
チッ、と舌打ちして、追従してくる魔物たちを炎で一掃する。
避難する人々、無我夢中で戦う騎士や魔導士たち。王族すらも、戦いの場に直接立っている。
エルメラド王国のみならず、全世界が力を合わせた総力戦だ。
だが、凄まじい爆音と光が炸裂する最前線ーー魔王と直接対峙している部隊は、まだ魔王に致命的なダメージを与えられずにいる。
(全力をもってしても、あの耐久力とは……正真正銘のバケモノだな)
ギャロッドは、未だ顔色ひとつ変わらない魔王を遠目から見て、顔を顰めた。
しばらく見ていると、魔王の動きが変わったことに気がつく。
自分の行動を制限してくる魔導士たちが煩わしくなったのか、魔王はルナシアの周囲にいる人間を先に狙い始めた。
宮廷魔導士たちの魔力の消耗が激しいのは、側から見ていても明らかだった。
ディーンは、魔力切れ寸前の魔導士たちを一旦後退させ、その魔導士たちの分まで支援を開始した。
ルナシアはともかくとして、ディーンも時代が違えばホロウの称号を戴いていたかもしれない人間である。自分も魔力は相当使っているはずなのに、仲間の分までサポートする余力が残っているのは流石といったところか。
しかし、それも長くは保たないだろう。
時間が巻き戻る前の世界で、ディーンはどんな最期を迎えたのか。ギャロッドは、ふとそんなことを思った。
宮廷魔導士のリーダーとして、前線から退くことはあり得ない。ならば、仲間や国民たちを守り、散っていったのか。
今はまだ、目の前で激戦を繰り広げている腐れ縁の存在。
気がつけば、自然とギャロッドの足はディーンの元へと向いていた。
◇◇◇◇
「なかなか削れませんね……!」
ルナシアの攻撃をもってしても、まだまだ魔王が倒れる気配はない。ディーンは仲間たちの分まで戦いながら、歯を食いしばった。
「大丈夫ですか、ディーン様!!」
「こちらのことは気にせず、ルナシアさんは魔王に集中してください!!」
主戦力であるルナシアが潰れれば、勝機はない。まともに渡り合えるのは彼女くらいのものだ。
少しでもルナシアが戦いやすいように、ディーンは全力を振り絞る。だが、徐々に限界が見え始めていた。
(まだ……まだです。ここで私が倒れては、ルナシアさんが……)
だんだんと朦朧としてくる頭。気力だけで持ち堪えているようなものだった。
そんな状態で、魔王の攻撃が自分の方に向いていることに気づくのが遅れてしまったのは無理もない。
気がついた時には、すでに反撃できないところまで魔王の闇魔法の刃が迫っていた。
「しまっ……!?」
その時、激しい炎が目の前をかすめ、間一髪、闇魔法の刃を焼き払った。
何が起きたか分からないまま、ディーンは体勢を崩し、その場に倒れ込む。
「宮廷魔導士のリーダーともあろう人間が、呑気に尻もちをついている姿が拝めるとはな」
自分が無事であると認識するとともに、聞き慣れた声が耳に届く。
「相変わらず、その憎まれ口はどうにかならないのですか……でも、助かりました」
愉快そうに口の端を歪ませるギャロッドに見下ろされながら、ディーンはやれやれと疲れた笑みを浮かべる。
どうやら、ギャロッドが炎魔法で助けてくれたようだ。どういう風の吹き回しかと思いながらも、ディーンは礼を述べる。
「まだ働けるだろう。休むには早いぞ」
「言われずとも、分かっていますよ」
少し躊躇ったのち、ギャロッドは手を差し伸べた。
それを驚いたように見つめてから、ディーンはその手をとって立ち上がる。
「あなたこそ、その辺で呑気に寝ないように」
「フン……誰が」
二人らしいやり取りで、お互いに「生きろ」と伝える。
この関係性は、一生変わることはないだろう。この世界が続く限り。
時間が巻き戻る以前の世界でギャロッドが魔王を見たのは、すでに世界が崩壊しかかった時だった。
あの時も、こんな戦いが繰り広げられていたのだろうかと、城下町の魔獣たちを相手に走り回りながらギャロッドは思う。
あの日、ルナシアが敵わなかった相手。同じくディーンも歯が立たなかった。
長年自分の心の中に秘めていた彼への嫉妬心。今でこそ薄れてはいるが、今更仲良くやっていこうと思えるほど素直な性格ではなかった。しかし、同じ職についている限り、顔を合わせる機会がなくなることはないだろう。
腐れ縁。親友どころか、友人とも呼べない間柄。顔を合わせれば言い争ってばかりだが、ギャロッドにとってはそれくらいの関係がこの先も続けばいいのだと納得していた。
(まぁ、この場を無事に切り抜けられればの話だが)
チッ、と舌打ちして、追従してくる魔物たちを炎で一掃する。
避難する人々、無我夢中で戦う騎士や魔導士たち。王族すらも、戦いの場に直接立っている。
エルメラド王国のみならず、全世界が力を合わせた総力戦だ。
だが、凄まじい爆音と光が炸裂する最前線ーー魔王と直接対峙している部隊は、まだ魔王に致命的なダメージを与えられずにいる。
(全力をもってしても、あの耐久力とは……正真正銘のバケモノだな)
ギャロッドは、未だ顔色ひとつ変わらない魔王を遠目から見て、顔を顰めた。
しばらく見ていると、魔王の動きが変わったことに気がつく。
自分の行動を制限してくる魔導士たちが煩わしくなったのか、魔王はルナシアの周囲にいる人間を先に狙い始めた。
宮廷魔導士たちの魔力の消耗が激しいのは、側から見ていても明らかだった。
ディーンは、魔力切れ寸前の魔導士たちを一旦後退させ、その魔導士たちの分まで支援を開始した。
ルナシアはともかくとして、ディーンも時代が違えばホロウの称号を戴いていたかもしれない人間である。自分も魔力は相当使っているはずなのに、仲間の分までサポートする余力が残っているのは流石といったところか。
しかし、それも長くは保たないだろう。
時間が巻き戻る前の世界で、ディーンはどんな最期を迎えたのか。ギャロッドは、ふとそんなことを思った。
宮廷魔導士のリーダーとして、前線から退くことはあり得ない。ならば、仲間や国民たちを守り、散っていったのか。
今はまだ、目の前で激戦を繰り広げている腐れ縁の存在。
気がつけば、自然とギャロッドの足はディーンの元へと向いていた。
◇◇◇◇
「なかなか削れませんね……!」
ルナシアの攻撃をもってしても、まだまだ魔王が倒れる気配はない。ディーンは仲間たちの分まで戦いながら、歯を食いしばった。
「大丈夫ですか、ディーン様!!」
「こちらのことは気にせず、ルナシアさんは魔王に集中してください!!」
主戦力であるルナシアが潰れれば、勝機はない。まともに渡り合えるのは彼女くらいのものだ。
少しでもルナシアが戦いやすいように、ディーンは全力を振り絞る。だが、徐々に限界が見え始めていた。
(まだ……まだです。ここで私が倒れては、ルナシアさんが……)
だんだんと朦朧としてくる頭。気力だけで持ち堪えているようなものだった。
そんな状態で、魔王の攻撃が自分の方に向いていることに気づくのが遅れてしまったのは無理もない。
気がついた時には、すでに反撃できないところまで魔王の闇魔法の刃が迫っていた。
「しまっ……!?」
その時、激しい炎が目の前をかすめ、間一髪、闇魔法の刃を焼き払った。
何が起きたか分からないまま、ディーンは体勢を崩し、その場に倒れ込む。
「宮廷魔導士のリーダーともあろう人間が、呑気に尻もちをついている姿が拝めるとはな」
自分が無事であると認識するとともに、聞き慣れた声が耳に届く。
「相変わらず、その憎まれ口はどうにかならないのですか……でも、助かりました」
愉快そうに口の端を歪ませるギャロッドに見下ろされながら、ディーンはやれやれと疲れた笑みを浮かべる。
どうやら、ギャロッドが炎魔法で助けてくれたようだ。どういう風の吹き回しかと思いながらも、ディーンは礼を述べる。
「まだ働けるだろう。休むには早いぞ」
「言われずとも、分かっていますよ」
少し躊躇ったのち、ギャロッドは手を差し伸べた。
それを驚いたように見つめてから、ディーンはその手をとって立ち上がる。
「あなたこそ、その辺で呑気に寝ないように」
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