神に愛された宮廷魔導士

桜花シキ

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第6章 宮廷魔導士編

39 魔王(レイ王国)

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 一難去ってまた一難。
 やっと魔界の門が閉じ、レイディアントが戻ってきたレイ王国。その喜びも束の間。今度は世界を飲み込まんとするほど巨大な、レイ王国に出現したものとは比べ物にならない大きさの魔界の門が、空を黒く塗りつぶしていた。

 ああ、彼女が心配していたのはこのことだったのか、とレイディアントは空を見上げながら思った。

(もし、もしもの話ですが……魔獣よりも強い存在が現れて、世界を滅ぼすほどの脅威に晒されることがあれば、殿下はどうされますか?)

 彼女には、先の未来が見えていたのかもしれない。こうなることも、ずっと前から分かっていたのではないだろうか。
 その時は、レイディアントも戦うと迷いなく答えた。その言葉に、ルナシアが安心していた理由を知った気がした。

(ラディがここまで守ってきた国を、壊されるわけにはいかないからね) 

 双子の弟ラディウス。少し見ない間に、立派な国王としてレイ王国を治めるまでに成長した。
 魔界の門が開かなければ、今頃その座にはレイディアントがついていたことだろう。そうなるものだと思って、レイディアントも、ラディウスも準備してきた。
 だが、レイディアントがホロウであったばかりに、当初の予定は覆された。兄は被害を食い止めるために戦地に赴き、弟は思いもよらず国王となって国を守ることになった。

 レイディアントが厳しい状況に置かれていたことは周知の事実だが、それ以上に苦しい戦いをくぐり抜けてきたのはラディウスの方だと、兄は常々思っていた。
 魔法都市として栄えたこの王国では、魔力の強いものが崇拝される傾向にある。ルナシアがすぐに受け入れてもらえたのも、そのところが大きい。
 だが、王族でありながらも魔力の少ないラディウスは、昔から肩身の狭い思いをしてきた。兄と比べられ、心無い言葉を浴びせられたこともあった。
 それなのに、弟は兄のことを尊敬し、とても慕っていた。それは、国民がラディウスのことを王と認めてからも変わらない。

 昔は皆、レイディアントのことをもてはやし、今でも英雄扱いしてくるが、本当に凄いのはラディウスなんだと、レイディアントはずっと思い続けている。
 どんな苦境にあろうと絶望せず、どうすれば少しでも状況がよくなるか考え続け、実行した。
 どんな仕打ちを受けても復讐に囚われず、寛大な心で受け入れた。
 その純粋で強い心は、どんなに強い魔力をもっているより稀有なものであるとレイディアントは思う。

 改めて、空を見上げる。
 ホロウの力をもってしても、どこまで戦えるだろうかと弱音を吐きたくなる自分がいた。
 だが、そんな時は決まって弟の顔が浮かぶ。レイ王国の魔界の門を食い止めている時もそうだった。
 いつだって、ラディは自分の心の支えだ。
 
 それにーー

「今度は、共に戦えますね」

 今は隣に立って戦うことができる。この状況でも、嬉しそうにそう語るラディウスを見ていると、不可能はないような気がしてくるから不思議だ。

「ああ、今度は一緒だ」

 今までの戦いでも、ずっと心の支えにはしていたが、隣にいてくれるというのは何とも心強いものだ。
 まだもうしばらく、ラディウスの治める国が見てみたい。そこで一緒に生きていきたい。
 僕たち二人でならできるだろう? そんな自信がどこからともなく湧いてくる。

 さぁ、ホロウとして生を受けたのも何かの縁。全力をもってお相手しようじゃないか。
 空から降ってくる魔獣たちに向けて、レイディアントは挨拶がわりに光の砲弾を投げつけた。


 
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