神に愛された宮廷魔導士

桜花シキ

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第6章 宮廷魔導士編

37 覚悟(グランディール視点)

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 魔王出現までのタイムリミットが刻まれ始めた。

「リト、先日の魔人出現について、どう考える?」
「以前の世界では、魔人は魔王出現の前兆だった。今回も、そう捉えるのが妥当だろう」

 人払いを済ませ、自室でリトランデと話し合っていた。空気は重々しく、お互いの表情は硬い。

「宮廷魔導士も、宮廷騎士も、準備は着々と進めている。もちろん、皆が魔王出現のことを知っているわけではないけどな」

 騎士団を預かる身として、リトランデは魔人出現の報告を受けてすぐに動いた。直接それとは言っていないものの、対魔王戦に向けて本格的な訓練を開始したのだ。ファブラス伯爵家から、優秀な闇魔法の使い手を呼んだのも、そのためである。

「魔人はなぁ、その強さもさることながら、やっぱり人型っていうのが……皆、自分と似たような姿をした相手には躊躇する。対人戦闘の練習は日頃からしているとはいえ、やりずらさを感じている騎士も一定数はいるようだ」
「最初は、ただの魔力の塊でできた獣だった。それが、本物の生物を操る魔物に変化し、更には自ら人間の形へと進化していった……そして、最終形態が魔王だといえるだろう」

 魔王は、ただの黒い人型である魔人ともまた違う。見た目だけならば、姿をしていた。
 魔王とは、いったい何なのだろうか。なぜ、この世界を襲うのだろうか。

「改めて考えてみると、魔王って俺たちの世界から学習して、姿を変えてきたみたいだよな」

 リトランデの考えにも一理あると思った。

「あれに知性があると?」
「その可能性もあるってだけだ。自分で考えて動くようなら、厄介な相手だよ」

 一度、戦ったことがある相手だ。一筋縄ではいかない。ルナシアの力をもってしても敵わなかった。

「なぜ、魔王はこの世界を壊そうとしているのだろうか」
「さぁな。理由があるなら聞いてみたいもんだが、ゆっくり話し合える相手でもないだろ。俺たちは、今度こそ確実に魔王を仕留める準備に徹するべきだ」
「リトの言う通りだな。余計なことを考えている暇はない」

 ふと湧いた疑問を振り払い、思考を切り替える。

「今度こそ、ルナシアとちゃんと幸せになるんだぞ」

 リトランデの方を見れば、とても穏やかな笑みを浮かべていた。
 心から、私たちの婚約を祝福してくれた親友。悩んだ時には、親身になって相談に乗ってくれた。

「ああ、今度こそ必ず。そのために、一緒に戦ってくれるか?」
「当たり前だろ。俺は、何があってもお前の一番の味方だよ」

 ああ、リトランデに出会えたことは、今もかつても、本当に幸運なことだったのだろう。
 ルナシアにはエルがいるように、私にはリトランデがいる。
 共に戦う戦友、相棒。そう思える相手に出会えたことは、神に感謝すべきだろうか。

「ありがとう、リトランデ。私の大事な親友。出会えて本当によかった」
「何だよ改まって……俺の方こそ、グランが親友で、心から仕えたいと思える主人でよかった。お前のつくる未来、俺たちにも見せてくれ」

 かつては見ることの叶わなかった、エルメラド王国の未来。それを担う者として、責務を果たさなければ。
 今度こそ、みんなで笑ってあの日の向こう側あしたを迎えるために。
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