神に愛された宮廷魔導士

桜花シキ

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第6章 宮廷魔導士編

37 覚悟2

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 魔石を使った魔導具の開発は順調だった。
 レイ王国の魔界の門を閉じる際にもっていった魔導具を参考に、改良を重ねている。心強い助っ人も入っていただけることになったし。

「へぇ、こんな魔法の組み方があるのか。エルメラド王国の魔法は進んでいるね」

 レイ王国のホロウの知恵も借りられることになったのだ。
 レイ王国国王の兄にあたる、レイディアント殿下。最先端の魔法を勉強したいからと、魔石を運んできた際に一緒にやってきてくれたのだった。

「ああっ、ホロウが二人も揃う日が来るなんて! このディーン、感激で涙が止まりません!!」

 いつにも増して、ディーン様は感情が不安定だ。若干、周りの宮廷魔導士たちも引いている。レイディアント殿下は訳がわからず困惑していた。私たちは見慣れているから普通になってしまっているけれど、見慣れない人にとっては当然の反応だよね。
 気を取り直して、話題を変える。

「こちらとしても、殿下に協力して頂けて心強いです。レイ王国の方は大丈夫なのですか?」
「陛下がよく国を治めてくれているからね」

 嬉しそうに殿下は語った。レイディアント殿下が戻ってからは、今までにも増してラディウス陛下が張り切っているらしい。国民に認められていると気がついてからは、国王としての自覚をもって責務を全うしているそうだ。

「体調の方は?」
「もうだいぶ回復したよ。久しぶりに、のんびりと休ませてもらったからね」

 会ったばかりの時は、闇の力に侵食されて黒かった髪も、ほぼ金髪に戻っている。ラディウス陛下が、治療に専念するようにと取り計らってくれたらしい。こうして見ると、やっぱり双子なんだね。よく似ている。
 久しぶり、という言葉では片付けられないくらい長い期間働き続けていたのだ。もっと休んでもいいくらいだとは思うが、この有事に力を貸していただけるのは本当にありがたいことなので、口には出せない。

「レイ王国では未だに古代魔法が主流だし、役に立つかは分からないけどね。できる限りの協力はさせてもらうよ。魔人なんて、また物騒なものが現れたし、出し惜しみはしていられないだろう」

 本来とても貴重であろう古代魔法の情報を惜しみもせず、レイディアント殿下は提供してくれた。魔石を大量に下さっただけでもありがたいのに、国の危機を救ってもらったお礼だと、全面的に協力してくれている。
 エルメラド王国とレイ王国は友好を結んだけど、その恩恵がこんなにも早く現れるとは。もともと打算的な行動ではあったけど、今こうして過去の自分に助けられている。

「古代魔法の中には、強力な魔法が多く残されています。私も知らないものがこんなにあるなんて……」
「文献として残っていても、それを実際に再現できる魔導士はそういない」
「今後は、これをいかに実用化させるかですね」

 大魔法を誰にでも使えるように改良した時と同じように、この古代魔法も術式を組み替えれば発動条件がぐっと簡略化される。魔道具などと合わせれば、威力はそのままに、消耗する魔力を抑えることも可能だろう。

「君はそう簡単に言うけれど、かなり難易度の高いことをやっていると思うよ? 正直、何をやっているのか半分も理解できていないし、僕がホロウって名乗っているのが恥ずかしくなるな」
「魔界の門から溢れだす魔獣や魔物を相手に十年耐え続けるなんてことも、誰にでもできることではありませんよ」
「僕は、魔力が馬鹿みたいにあるだけさ。でも、君はホロウじゃなかったとしても、優秀な研究者になっていただろうね」

 随分と褒めてもらったけど、レイディアント殿下の耐え忍んだ十年の方が凄いと思うけどね。

「これが、ホロウ同士の会話……ああっ、未知なる次元の話ッ!!」

 感極まったディーン様が、パタリとその場に倒れ込む。慌てて近くに居た魔導士たちが駆け寄るが、とても安らかな、満足した表情で笑っていた。
 行動不能になったディーン様を部屋の端の方に寝かせて、私たちは研究に戻る。

「その……彼は大丈夫なの?」

 おずおずと殿下に尋ねられるが、皆いつものことだと何食わぬ顔で答えた。
 ディーン様も、時代さえ違えばホロウの称号を戴いても可笑しくない力の持ち主なんだけど、ちょっぴり残念な人であるのは誰も否定できなかった。
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