神に愛された宮廷魔導士

桜花シキ

文字の大きさ
上 下
141 / 171
第6章 宮廷魔導士編

37 覚悟(エル視点)

しおりを挟む
 宮廷騎士。
 推薦を頂いて、私はその夢を叶えた。あの後、試験を受けて合格したアルランデ様とは同期だ。
 これで、ルナシアさんのそばで戦うことができる。そう意気込んでいた矢先。

(魔人の出現……想定よりだいぶ早い)

 しかも、ルナシアさんが宮廷魔導士に就任した直後とは。幸先が悪い。

(ギャロッドが、またよからぬことを考えていないか心配ですね)

 魔人の出現もさることながら、かつてルナシアさんのことを魔王呼ばわりした男だ。
 そう考えていると、いてもたってもいられなくなった。

「あれ、エルさん、そんな怖い顔をして一体どこに……」
「ちょっとルナシアさんのところへ」
「宮廷魔導士の方々は、緊急招集がかかっていたはずですから、休み時間まで待ったらいかがですか?」

 アルランデ様に諭され、少し気持ちが落ち着く。

「それもそうですね……ふう」
「そんなに取り乱して、どうされたんですか?」
「魔人の話は聞きましたよね? 宮廷魔導士の方々が招集されたのも、その作戦会議だと思います」
「なるほど。ルナシアさんのことが心配なんですね」

 がっしりした体格に似合わず、ほんわりした表情に思わず力が抜けてしまう。アルランデ様は、ギャロッドがかつてしてきた行いを知らないから、私が心配していることは魔人の他にもあるのだということまでは知らないはずだ。
 ……せっかくなら、仲間は多い方がいい。ギャロッドがルナシアさんに、また何かしようと目論んでいるのなら、目撃者が複数いるに越したことはないだろう。

「アルランデ様、ちょっと休憩時間に付き合っていただけませんか?」

◇◇◇◇

「えっと……ついて来たのはいいのですが、これは些か気が引けるというか……」

 今、私とアルランデ様はテラスが見える茂みに隠れて様子を窺っている。ルナシアさんは、ひとりで難しい顔をしていた。ああ、きっと色々な不安を抱えているに違いない……。双眼鏡で様子を見ながら、今すぐにでも飛び出して声をかけたい衝動に駆られる。
 しかし、我慢だ。ギャロッドに怪しい動きがないか確かめにきたのだから。

「しっ、お静かに。ほら、誰か来ました」

 隣でもごもごしているアルランデ様を黙らせ、じっと観察する。

(やはりギャロッド、貴様!!)

 ルナシアさんの元に現れたのは、憎きギャロッド・ノア・ランドロフ。今度は何を仕出かす気だ。
 いつでも飛び出せるように構え、様子を窺う。

「ちょっと、エルさん!? どうして殺気立ってるんですか?」

 怯えるアルランデ様を無視して、私はギャロッドの一挙一動を見逃すまいと目を見開く。

 しかし、一向に何も起こらない。
 何やら少し言葉を交わしてから、ギャロッドは去って行った。その後を追うように戻って行ったルナシアさんの表情も……なぜか安堵していたように見えた。

「えっと……そろそろ休憩時間も終わりますし、僕たちも戻りましょうか?」
「ええ……そうしましょうか。付き合っていただいて、ありがとうございました」
「何がしたかったのか、いまいち分からなかったのですが、解決しましたか?」
「まだ、なんとも。ただ、今日のところはこの辺で引き上げることにします。アルランデ様、可能であればギャロッドの様子をそれとなく観察しておいてください。怪しい動きがあれば、すぐに知らせてください」

 その言葉に、はっとアルランデ様は目を見開く。

「もしや、何か重要な任務が……?」
「ええ、とても重要なことです」

 少し考えてから、アルランデ様は目を輝かせて力強く返事をした。

「任せてください! その重要なミッション、僕もお手伝いさせて頂きます!!」
「心強いです。よろしくお願いしますね」

(流石エルさん……宮廷騎士になってまだ日が浅いのに、きっととても重要な任務を任されているんだ。そのお手伝いができるなんて、なんて光栄なことなんだろう)

 なぜかとてもキラキラした目を向けられて困惑するが、仲間が増えたのはいいことだ。
 ルナシアさん、今度はギャロッドなんぞに負けませんのでご安心を。あなたの平穏はお守りいたします!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····

藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」 ……これは一体、どういう事でしょう? いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。 ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全6話で完結になります。

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

【完結】子供が出来たから出て行けと言われましたが出ていくのは貴方の方です。

珊瑚
恋愛
夫であるクリス・バートリー伯爵から突如、浮気相手に子供が出来たから離婚すると言われたシェイラ。一週間の猶予の後に追い出されることになったのだが……

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...