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第5章 学園編(四年生)
35 卒業パーティー
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時が流れるのは、あっという間だ。
気がつけば、この二度目の人生でも、ひと月後に卒業式を迎える。無事に宮廷魔導士として働くことが決まり、卒業論文も受理されたので、あとは卒業の日を待つばかりだ。
今日は、宮廷魔導士として働くにあたって必要な説明を受けに宮廷に顔を出していた。以前も一度聞いたことがある内容だったので、復習のつもりで頭に入れる。
説明が済んで帰ろうかと思っていたところ、私だけ残るように担当者から告げられた。
何だろうと思って少し待っていると、見慣れた男性が笑顔を浮かべて現れた。
「グランディール様?」
「呼び止めてすまなかった。待たせたか?」
「いえ、先ほど説明が終わったところです」
担当者は、グランディール様がいらっしゃってから静かにその場を後にした。どうやら、私が残されたのはグランディール様から何か用事があったためらしい。
「どうされたのですか?」
私が問いかけると、少し緊張した面持ちで跪いた。驚いていると、さっと右手を差し出される。
「ルナシア、卒業パーティーのエスコートは、私にさせてもらえないだろうか?」
思いもしなかった提案に、頭が真っ白になる。
エルメラド王立学園では、卒業式の際、パーティーが開かれる。パートナーと一緒に参加することが通例だが、婚約者がいない場合は家族などでも構わない。
私は、確かにグランディール様の婚約者候補だ。だから、エスコート役を申し出て頂いても不思議ではないのだけれど、でも。
「でも、アミリア様は……」
「アミリアは、リトと参加するそうだ」
いつものパーティーでは、アミリア様のパートナーとして参加していた。だから、当然今回もそうだと思い込んでいたのだ。
「リトランデ様と?」
「なんでも、アミリアの方から申し出たらしい。彼女の方から、今回はエスコートは頼まないと言いに来たよ」
リトランデ様とアミリア様は幼馴染。別にエスコートを頼む相手としては可笑しくないけれど、アミリア様が自分からグランディール様のエスコートを断った?
「ルナシア、よく聞いてほしい。私は、君に正式な婚約者になって欲しいと思っている。もちろん、君の意志を尊重するが、私は心から君のことを大切に想っている。誰よりも。そしてこの想いは、ずっと以前から、前の世界から抱き続けてきたものだ」
澄んだエメラルドグリーンの瞳に、まっすぐ見つめられる。私は今、どんな顔をしているのだろう。
グランディール様の好意には、少し前から気がついていた。でも、それが以前の世界から続くものだったなんて、思いもしなかった。それほどまでに長く、私のことを想ってくださっていたのか。
この手を取るということは、正式な婚約者として卒業パーティーに出席することになるということだ。
「近い未来に、魔王が現れて……以前のような結末は避けたいと思っていますが、正直どうなるか分かりません」
私は素直に心境を明かした。
もしかしたら、また世界を救うことができないかもしれない。もしかしたら、自分は生きていないかもしれない。最前線で戦うことになるであろう私が無事である可能性はどのくらいあるのだろう。婚約したとしても、私はグランディール様の未来にはいないかもしれない。
その時が近づくにつれ、その思いは強くなっていった。こんな不安を抱えたまま婚約者になっていいのだろうか。
「未来がどうなるか分からないのは、私も同じだ。私が死ぬかもしれないし、君がまた‥‥‥そうならないように全力は尽くすが」
私の心の中を読んだように、グランディール様は言葉を紡ぐ。
「私も悩んだ。君に私の想いを伝えれば、こうして困らせることも分かっていた。それでも‥‥‥それでも、もう後悔はしないと決めたんだ。どんな未来であれ、最期の時まで私の隣には君にいて欲しい」
その顔はとても穏やかなものだった。この人にとって、この選択が最善なのだと言わんばかりに。
私も、決断しなければならない。
「グランディール様、私は――」
そっと、差し出された手をとった。
気がつけば、この二度目の人生でも、ひと月後に卒業式を迎える。無事に宮廷魔導士として働くことが決まり、卒業論文も受理されたので、あとは卒業の日を待つばかりだ。
今日は、宮廷魔導士として働くにあたって必要な説明を受けに宮廷に顔を出していた。以前も一度聞いたことがある内容だったので、復習のつもりで頭に入れる。
説明が済んで帰ろうかと思っていたところ、私だけ残るように担当者から告げられた。
何だろうと思って少し待っていると、見慣れた男性が笑顔を浮かべて現れた。
「グランディール様?」
「呼び止めてすまなかった。待たせたか?」
「いえ、先ほど説明が終わったところです」
担当者は、グランディール様がいらっしゃってから静かにその場を後にした。どうやら、私が残されたのはグランディール様から何か用事があったためらしい。
「どうされたのですか?」
私が問いかけると、少し緊張した面持ちで跪いた。驚いていると、さっと右手を差し出される。
「ルナシア、卒業パーティーのエスコートは、私にさせてもらえないだろうか?」
思いもしなかった提案に、頭が真っ白になる。
エルメラド王立学園では、卒業式の際、パーティーが開かれる。パートナーと一緒に参加することが通例だが、婚約者がいない場合は家族などでも構わない。
私は、確かにグランディール様の婚約者候補だ。だから、エスコート役を申し出て頂いても不思議ではないのだけれど、でも。
「でも、アミリア様は……」
「アミリアは、リトと参加するそうだ」
いつものパーティーでは、アミリア様のパートナーとして参加していた。だから、当然今回もそうだと思い込んでいたのだ。
「リトランデ様と?」
「なんでも、アミリアの方から申し出たらしい。彼女の方から、今回はエスコートは頼まないと言いに来たよ」
リトランデ様とアミリア様は幼馴染。別にエスコートを頼む相手としては可笑しくないけれど、アミリア様が自分からグランディール様のエスコートを断った?
「ルナシア、よく聞いてほしい。私は、君に正式な婚約者になって欲しいと思っている。もちろん、君の意志を尊重するが、私は心から君のことを大切に想っている。誰よりも。そしてこの想いは、ずっと以前から、前の世界から抱き続けてきたものだ」
澄んだエメラルドグリーンの瞳に、まっすぐ見つめられる。私は今、どんな顔をしているのだろう。
グランディール様の好意には、少し前から気がついていた。でも、それが以前の世界から続くものだったなんて、思いもしなかった。それほどまでに長く、私のことを想ってくださっていたのか。
この手を取るということは、正式な婚約者として卒業パーティーに出席することになるということだ。
「近い未来に、魔王が現れて……以前のような結末は避けたいと思っていますが、正直どうなるか分かりません」
私は素直に心境を明かした。
もしかしたら、また世界を救うことができないかもしれない。もしかしたら、自分は生きていないかもしれない。最前線で戦うことになるであろう私が無事である可能性はどのくらいあるのだろう。婚約したとしても、私はグランディール様の未来にはいないかもしれない。
その時が近づくにつれ、その思いは強くなっていった。こんな不安を抱えたまま婚約者になっていいのだろうか。
「未来がどうなるか分からないのは、私も同じだ。私が死ぬかもしれないし、君がまた‥‥‥そうならないように全力は尽くすが」
私の心の中を読んだように、グランディール様は言葉を紡ぐ。
「私も悩んだ。君に私の想いを伝えれば、こうして困らせることも分かっていた。それでも‥‥‥それでも、もう後悔はしないと決めたんだ。どんな未来であれ、最期の時まで私の隣には君にいて欲しい」
その顔はとても穏やかなものだった。この人にとって、この選択が最善なのだと言わんばかりに。
私も、決断しなければならない。
「グランディール様、私は――」
そっと、差し出された手をとった。
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