神に愛された宮廷魔導士

桜花シキ

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第5章 学園編(四年生)

34 宮廷魔導士

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 ヴァイゼ先生の研究室に戻ると、そこにはディーン様とヴァイゼ先生が談笑している姿があった。
 ちょっと笑顔が怖い気がするけど……たぶん、気のせいだろう。

「ああっ、ルナシアさん! お久しぶりです!!」

 すぐさまこちらに気がついたディーン様が、ガタンと席を立った。

「落ち着きなさい、ディーン」
「おっと……失礼しました」

 叔父であるヴァイゼ先生に注意され、シュンとテンションを下げる。

「お久しぶりです、ディーン様。今日はどうされたのですか?」
「あなたに用事があって来たのです。こちらをお渡ししたくて」

 そうして手渡されたのは、宮廷魔導士になるための推薦状だった。

「これって……!」

 驚いてディーン様を見る。にっこりと微笑んだまま、静かに頷かれた。
 再び推薦状に目をやる。推薦してくれたのは、ディーン様。国王陛下が認めた印までしっかり押してある。

「あなたの実力なら、推薦状などなくとも合格はできると思いますが、断る理由もないでしょう」

 ヴァイゼ先生はすでに話を聞いていたのか、私の反応を待っている。

「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます!!」
「いえいえ。幼い頃からあなたと一緒に研究してきて、確信しました。あなたとなら、より高い魔法の極地へ足を踏み入れることができると! ですから、これは私があなたと共に研究したいという我儘でもあるんですよ」

 かつての私の上司だったディーン様。前回は推薦状こそもらえなかったものの、共に研究している時間は非常に充実したものだった。

「宮廷魔導士として、共に働いてくれますか?」

 迷うはずもない。ずっと望んでいたことだ。

「はい! 喜んで!!」

 その返事を聞いて、スッとディーン様が手を差し出す。

「少し気は早いですが、あなたと共に研究する仲間として。改めて、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

 その手を握り返し、固い握手を交わす。

 推薦状を渡し終えてからもしばらく雑談は続いたが、長くなってきたところでヴァイゼ先生の制止が入り、お開きとなった。
 改めて推薦状を見る。あとは、ファブラス家の承諾書など、必要な書類を併せて宮廷へ送るだけだ。

「よかったですね。念願叶って」
「ありがとうございます」
「あなたならばもしかして、と思っていましたが、やはり国があなたの力を欲しているのですね」

 私から甥に相談したわけではない、とヴァイゼ先生には念をおされた。言われずとも、先生がそういう人でないことはよく分かっている。

「宮廷魔導士として歓迎されるのはよいことです。ただ、あまり責任は感じないように。推薦されたからといって、あなたの行動すべてを制限するものではないのですから」

 心配そうに先生は言った。

「あなたのことですから、仕事は十分といっていいほどこなすでしょう。しかし、頑張り過ぎないかと心配なのです」
「まだ、始まってもいないので何とも言えませんが……心配してくださって、ありがとうございます。先生のご指導は忘れません」

 巣立つ雛鳥を見送るように、先生は目を細めた。
 本当に、いい先生に巡り会ったと思う。厳しい時もあったけど、学生一人一人のことをよく見て、支えてくれる存在だった。

「君の父親、イーズ君にも伝えてあげてください。きっと喜んでくれるでしょう」

 私と同じくヴァイゼ先生の研究室の卒業生だったお養父様。推薦状をもらえるきっかけになったのは、幼い頃にファブラス伯爵家の養子になり、早い段階でディーン様と親しくなっていたことが大きいだろう。
 お養父様に、早く伝えたい。どんな反応をするのだろうか。それに、お父さん、お母さん、お屋敷のみんなにも知らせないと。

「ふふ、今日は早めに寮に戻ってご家族に手紙でも書いてはいかがですか?」

 先生の提案に頷き、私は寮に戻った。
 一緒に学園について来てくれているリーファとレオには先に伝え、祝福の言葉をたくさんもらった。

「おめでとうございます、お嬢様! 推薦をいただけるなんて、何て快挙なのでしょう!!」
「本当におめでたいわね~。今日はお嬢様の好きなものを作るわ。何でも、好きなだけリクエストして頂戴!!」

 二人にお礼を言ってから、レオの夕飯の準備を待つ傍らで、ファブラス伯爵家に送る手紙を書くことにした。

「ええっと……ディーン様から、宮廷魔導士になるための推薦状を頂きました。それで……」

 手紙を書きながら、宮廷魔導士になるということは、魔王再臨が近いことを示しているのだと思い出した。
 大事な人たちを守りたい、愛するこの国を今度こそ。
 再び与えられたチャンス。二度目のこの世界の生活で、大事なものは以前よりも増えた。

(絶対に負けられないけど、一人で戦っているわけじゃないから。今度こそ、大丈夫)

 魔王の桁外れな強さの前に一度は敗れているからこそ、大丈夫なんて言葉は安易かもしれない。
 それでも、今度こそは勝てるという虚勢にも似た自信があった。

 時間が巻き戻るなんて夢みたいなことが可能だったんだから、魔王を倒すことだって決して夢では終わらないはず。グッ、と手を握りしめる。
 夕飯ができたという知らせを受けて、私はしっかりと背を伸ばして歩き出した。
 
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