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第4章 学園編(三年生)
32 闇を抱えた男3
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魔物に操られていた国民たちの対処に当たっていたレイディアント殿下は、それがひと段落したところで私たちの元へと足を運んでくれた。
「礼をするのが遅くなってすまない。代表して感謝の意を述べさせてもらうよ。本当に、ありがとう」
疲れてはいるのだろうが、殿下はまだ気を緩めていないようだった。
魔界の門は閉じたものの、操られていた国民たちの治療や、魔獣に長年襲われ続けてきたことで滅茶苦茶になってしまった街の再建など、やることは山積みだ。ゆっくり休んでもいられないのだろう。
その貴重な時間を割いて、わざわざ私たちにお礼を言いに来てくれた。
「改めて、僕はレイディアント・マナ・レイ。国王陛下の双子の兄だ」
無理をし続けてきた影響か年齢はラディウス様よりも上に見えるが、顔のつくりは本当にそっくりだった。
「双子だというだけあって、髪の色以外はよく似ていますね」
「髪も元々は金色だったんだけどね。魔獣たちの攻撃を受けるたびに、闇の力に少しずつ侵食されていってしまって」
黒く染まった前髪をつまみながら、殿下は苦笑した。
「お身体は大丈夫なんですか?」
「光の魔力で対抗してきたから、まだ大丈夫だよ。もう少し君たちの助けが遅かったら、僕も操られてしまっていたかもしれないけどね」
そうなっていれば、笑い事では済まなかっただろう。ホロウである殿下が操られてしまえば、それに対抗する手段はなかっただろうから。
間に合ってよかった、と心からホッとした。
「ところで、ラディ‥‥‥陛下の様子はどうだった?」
不安げな表情で、殿下は尋ねた。
ラディウス陛下がレイディアント殿下の身を案じていたように、殿下もまた、陛下のことを心配していたようだ。
会った時の様子を伝えれば、安心したように肩の力を抜いた。
「立派に王様をやっているんだな。安心したよ」
本当は、レイディアント様がレイ王国の頂点に立つはずだった。しかし、魔界の門が開いてから、殿下はそちらに力を注がねばならなかった。
代わりに国王となったラディウス様。その重責は計り知れないが、それでも彼は自分がすべきことをしていた。
いずれ兄に玉座を返す日のために。そんなことを彼は考えていたようだが、それをレイディアント様が知ったらどんな顔をするだろうか。
これから先のことは、彼ら兄弟が話し合って決めていくだろう。私が口を出すことではない。
弟の様子を聞いて満足したのか、今度は私に話題を振った。
「君の力には驚かされたよ。自分以外のホロウに、生きているうちに会えるとは思っていなかった。それも、これほど才能に溢れた魔導士だとはね」
「私も殿下に出会って驚かされました。ホロウとはいえ、十年近くも戦い続けるなんて、簡単にできることではありません」
「君にそう言ってもらえるなんて光栄だな」
疲れの残る顔が、ふにゃりと歪んだ。
「もう少し落ち着いたら、ちゃんとしたお礼をさせてほしい。君ともっと話してみたいしさ」
お礼なんて、と思ったがそこはエルメラド王国とレイ王国の問題だ。私が余計な口出しをすべきではない。
殿下とそんなやり取りをしていると、後方から自分を呼ぶ声がした。
「ルナシア!!」
「グランディール様!」
声のする方を見れば、息を切らして駆けてくるグランディール様の姿が目に入った。
私の元までやってくると、怪我をしていないかチェックされ、大丈夫だと分かると安心したように大きく息を吐いた。
そこでようやくレイディアント殿下の存在に気がついたように、はっと顔を上げた。
「申し訳ありません、失礼ながらあなたは?」
「レイディアント・マナ・レイ、レイ王国国王陛下の兄です」
「なるほど、あなたが……ご挨拶が遅れました。私は、エルメラド王国第一王子、グランディール・テラ・エルメラドです」
挨拶を終えると、グランディール様は真剣な目で私のことをじっと見ていた。本当に無理をしていないかと、まだ若干疑われているのかもしれない。
確かに大きな力を使ったから疲れてはいるけど、少し休めば元通りになるだろう。
これまで色々と心配をかけてきたから、そのせいなんだろうとは思うけどね。
私たちの様子を見ていたレイディアント殿下が言った。
「ところで、聞いてもいいだろうか? 彼女はあなたにとって、どんな人なのか」
「彼女は私にとって大切な人です」
間髪入れずに、グランディール様はそう答えた。
なんだかその言葉を聞いて、胸がポカポカ温かくなるような不思議な感覚があった。
「なるほどねぇ……」
少し考え込むように、レイディアント殿下が顎に手を当てる。そして、なぜか少し残念そうな顔をした。
しかし、すぐにパッと顔を上げると、明るい調子で話し始める。
「立ち話もなんだし、レイ王国へ戻ろうか。僕は十年ぶりくらいになるけど、ちゃんと受け入れてもらえるかな?」
「それは心配いらないと思いますよ。ラディウス国王陛下が、私たちをここに寄越したのが何よりの証拠です」
冗談まじりにそんなことを言う殿下に対して、そう言葉をかける。
いくつか仕事を済ませた後、私たちはレイ王国へと帰還した。
「礼をするのが遅くなってすまない。代表して感謝の意を述べさせてもらうよ。本当に、ありがとう」
疲れてはいるのだろうが、殿下はまだ気を緩めていないようだった。
魔界の門は閉じたものの、操られていた国民たちの治療や、魔獣に長年襲われ続けてきたことで滅茶苦茶になってしまった街の再建など、やることは山積みだ。ゆっくり休んでもいられないのだろう。
その貴重な時間を割いて、わざわざ私たちにお礼を言いに来てくれた。
「改めて、僕はレイディアント・マナ・レイ。国王陛下の双子の兄だ」
無理をし続けてきた影響か年齢はラディウス様よりも上に見えるが、顔のつくりは本当にそっくりだった。
「双子だというだけあって、髪の色以外はよく似ていますね」
「髪も元々は金色だったんだけどね。魔獣たちの攻撃を受けるたびに、闇の力に少しずつ侵食されていってしまって」
黒く染まった前髪をつまみながら、殿下は苦笑した。
「お身体は大丈夫なんですか?」
「光の魔力で対抗してきたから、まだ大丈夫だよ。もう少し君たちの助けが遅かったら、僕も操られてしまっていたかもしれないけどね」
そうなっていれば、笑い事では済まなかっただろう。ホロウである殿下が操られてしまえば、それに対抗する手段はなかっただろうから。
間に合ってよかった、と心からホッとした。
「ところで、ラディ‥‥‥陛下の様子はどうだった?」
不安げな表情で、殿下は尋ねた。
ラディウス陛下がレイディアント殿下の身を案じていたように、殿下もまた、陛下のことを心配していたようだ。
会った時の様子を伝えれば、安心したように肩の力を抜いた。
「立派に王様をやっているんだな。安心したよ」
本当は、レイディアント様がレイ王国の頂点に立つはずだった。しかし、魔界の門が開いてから、殿下はそちらに力を注がねばならなかった。
代わりに国王となったラディウス様。その重責は計り知れないが、それでも彼は自分がすべきことをしていた。
いずれ兄に玉座を返す日のために。そんなことを彼は考えていたようだが、それをレイディアント様が知ったらどんな顔をするだろうか。
これから先のことは、彼ら兄弟が話し合って決めていくだろう。私が口を出すことではない。
弟の様子を聞いて満足したのか、今度は私に話題を振った。
「君の力には驚かされたよ。自分以外のホロウに、生きているうちに会えるとは思っていなかった。それも、これほど才能に溢れた魔導士だとはね」
「私も殿下に出会って驚かされました。ホロウとはいえ、十年近くも戦い続けるなんて、簡単にできることではありません」
「君にそう言ってもらえるなんて光栄だな」
疲れの残る顔が、ふにゃりと歪んだ。
「もう少し落ち着いたら、ちゃんとしたお礼をさせてほしい。君ともっと話してみたいしさ」
お礼なんて、と思ったがそこはエルメラド王国とレイ王国の問題だ。私が余計な口出しをすべきではない。
殿下とそんなやり取りをしていると、後方から自分を呼ぶ声がした。
「ルナシア!!」
「グランディール様!」
声のする方を見れば、息を切らして駆けてくるグランディール様の姿が目に入った。
私の元までやってくると、怪我をしていないかチェックされ、大丈夫だと分かると安心したように大きく息を吐いた。
そこでようやくレイディアント殿下の存在に気がついたように、はっと顔を上げた。
「申し訳ありません、失礼ながらあなたは?」
「レイディアント・マナ・レイ、レイ王国国王陛下の兄です」
「なるほど、あなたが……ご挨拶が遅れました。私は、エルメラド王国第一王子、グランディール・テラ・エルメラドです」
挨拶を終えると、グランディール様は真剣な目で私のことをじっと見ていた。本当に無理をしていないかと、まだ若干疑われているのかもしれない。
確かに大きな力を使ったから疲れてはいるけど、少し休めば元通りになるだろう。
これまで色々と心配をかけてきたから、そのせいなんだろうとは思うけどね。
私たちの様子を見ていたレイディアント殿下が言った。
「ところで、聞いてもいいだろうか? 彼女はあなたにとって、どんな人なのか」
「彼女は私にとって大切な人です」
間髪入れずに、グランディール様はそう答えた。
なんだかその言葉を聞いて、胸がポカポカ温かくなるような不思議な感覚があった。
「なるほどねぇ……」
少し考え込むように、レイディアント殿下が顎に手を当てる。そして、なぜか少し残念そうな顔をした。
しかし、すぐにパッと顔を上げると、明るい調子で話し始める。
「立ち話もなんだし、レイ王国へ戻ろうか。僕は十年ぶりくらいになるけど、ちゃんと受け入れてもらえるかな?」
「それは心配いらないと思いますよ。ラディウス国王陛下が、私たちをここに寄越したのが何よりの証拠です」
冗談まじりにそんなことを言う殿下に対して、そう言葉をかける。
いくつか仕事を済ませた後、私たちはレイ王国へと帰還した。
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