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第4章 学園編(三年生)
31 魔界の門4
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魔界の門を閉じるために異国からホロウがやってきたという話は、あっという間にレイ王国に広まっていた。
はじめは見慣れない異国の人間ということで好奇の目を向けられていたが、最近ではあちらから話しかけてくれることも多い。
「すっかり我が国の民たちとも打ち解けたようだな」
人前では尊大な態度をとるラディウス様だが、その本質を知っている身としては、その様子が何だかおかしく感じてしまう。
長い間そばで働いていた人たちなら、気付いていそうな気もするけれど……本人が隠そうとしているなら、あえて言うことでもない。
「この国の人たちは親切な人ばかりですね」
「そうであろう。自慢の民たちだからな」
仕事に勤しむ国民たちを見る陛下の目はとても優しかった。
「お前も負けず劣らず善良な人間だ。それを感じ取っての反応なのだろうな」
それに、と陛下は続ける。
「兄がここを離れて以来、これほどの力を持った魔導士が現れるのは初めてのことだ。民たちがいつにも増して活気づいているのは、お前に感化されてのことなのだろう。やはり、力のある者を民たちは望んでいる。早く兄が戻ってくることを祈るばかりだ」
「陛下、それはーー」
「陛下、お話し中に申し訳ありません。確認したいことが御座います。少し宜しいでしょうか?」
「ああ、すぐ行く。ルナシアよ、暫し外すぞ」
今のレイ王国があるのは、陛下の力ではないですか。
しかし、その言葉は家臣に遮られ、陛下はさっといなくなってしまった。
お兄さんが戻ってきたら、陛下は王座を譲るつもりなんだろうか。何だかそれは……モヤモヤした感情が渦巻いていた。
「浮かない顔してどうしたの?」
「アドラさん! それに、ファルコさんも」
今日も二人一緒に行動していたらしい。心配そうにアドラさんに尋ねられる。ファルコさんは表情が変わらないものの、じっと私の顔を見つめていた。
顔に出やすいのかな、私。
「いえ、ちょっと考え事をしていただけです」
「そう? 今回のことで心配なことがあるなら、僕も相談に乗るからね」
「お二人も参加されるのですか?」
「うん、物資の運搬を手伝わせてもらうことになってるんだ。前線には出ないけど、よろしくね」
二人は旅の商人なので、レイ王国のことに関わる必要性はないはずだ。聞けば、アドラさんの方から名乗り出たらしい。
危険な場所へ行くことになるのは分かっているけど、手伝わせてほしいのだそう。ラディウス様とは親交が深そうだし、その辺りの事情なのかな。
「それにしても、この石にこんな価値があったなんて知らなかったよ。落ち着いたら、正式に商品として取り扱わせてもらえないか交渉してみようかな」
光を集める白い石、その欠片をつまみながら太陽の光を浴びせる。小さな欠片であっても、光を吸収しているのが分かった。
どんなに高価な宝石であっても、光の魔力を蓄えておくことは困難だった。それがこの石で解決するのだ。
ラディウス様の許可は必要だろうが、アドラさんたち商人が商品として世界中に運んでくれれば、魔獣や魔物、そして魔王に対抗する手段が増える。私もアドラさんの計画に賛成だった。
「君の悩みの種は、陛下のこと?」
欠片をしまい、アドラさんは話を戻す。お見通しみたいだ。
「レイディアント殿下が戻ってきた後のことは、その時に考えればいいさ。まだ魔界の門の問題を解決できると決まったわけじゃない」
私が頷けば、アドラさんはそんな風に返す。
「レイ王国の今後のことは君が気にすることでもないし、君は君がすべきことだけ見ていればいい」
そうだ、独りで背負うなと言われたんだったね。
魔獣関係のことには介入できても、国の問題は私にはどうしようもない。
「ありがとうございます。私は私にできることだけしようと思います」
「何だか雰囲気が変わったね。うん、それでいいんだよ」
安心したように微笑むと、アドラさんはファルコさんと共に物資の確認をしに行った。
今までは、何でも独りでやろうとしていた。でも、問題を解決しようとしているのは私だけじゃない。当たり前のことだけど、それを私は忘れそうになっていた。
私は私にできることをすればいい。頼もしい仲間がいるんだから。
十分に準備を整え、いよいよ出発の日。
陛下や国民の見送りのもと、私たちは魔界の門を閉じるべく、端の街の国民たちを救うべく、そして陛下のお兄さんを助けるべく旅立つことになった。
魔導士部隊は大きく二つ。レイ王国の有志で結成された部隊と、ファブラス家と宮廷魔導士で結成された部隊。私はファブラス家の魔導士たちがいる方の部隊に所属している。流石は魔法文明が栄えた国と言うべきか、レイ王国の魔導士部隊は私たちの倍以上だった。
騎士部隊にはリトランデ様をはじめとした宮廷騎士たちと、レイ王国の騎士たちが名を連ねている。こちらは魔導士部隊より数は少ないが、統率がとれていて士気も高かった。
そしてグランディール様はというと、流石に前線には出られないが近くまでは行くとのことで、アドラさんたちと一緒に後方支援に回ってくださることになった。
魔導士の殆どが前線に出ることになるので、回復役が足りなくなる。グランディール様の力が借りれるのなら、これほど心強いものはなかった。
「我が国の民と、兄のことをよろしく頼む」
陛下とレイ王国の人たちに見送られ、私たちは魔界の門へ向かって動き出した。
はじめは見慣れない異国の人間ということで好奇の目を向けられていたが、最近ではあちらから話しかけてくれることも多い。
「すっかり我が国の民たちとも打ち解けたようだな」
人前では尊大な態度をとるラディウス様だが、その本質を知っている身としては、その様子が何だかおかしく感じてしまう。
長い間そばで働いていた人たちなら、気付いていそうな気もするけれど……本人が隠そうとしているなら、あえて言うことでもない。
「この国の人たちは親切な人ばかりですね」
「そうであろう。自慢の民たちだからな」
仕事に勤しむ国民たちを見る陛下の目はとても優しかった。
「お前も負けず劣らず善良な人間だ。それを感じ取っての反応なのだろうな」
それに、と陛下は続ける。
「兄がここを離れて以来、これほどの力を持った魔導士が現れるのは初めてのことだ。民たちがいつにも増して活気づいているのは、お前に感化されてのことなのだろう。やはり、力のある者を民たちは望んでいる。早く兄が戻ってくることを祈るばかりだ」
「陛下、それはーー」
「陛下、お話し中に申し訳ありません。確認したいことが御座います。少し宜しいでしょうか?」
「ああ、すぐ行く。ルナシアよ、暫し外すぞ」
今のレイ王国があるのは、陛下の力ではないですか。
しかし、その言葉は家臣に遮られ、陛下はさっといなくなってしまった。
お兄さんが戻ってきたら、陛下は王座を譲るつもりなんだろうか。何だかそれは……モヤモヤした感情が渦巻いていた。
「浮かない顔してどうしたの?」
「アドラさん! それに、ファルコさんも」
今日も二人一緒に行動していたらしい。心配そうにアドラさんに尋ねられる。ファルコさんは表情が変わらないものの、じっと私の顔を見つめていた。
顔に出やすいのかな、私。
「いえ、ちょっと考え事をしていただけです」
「そう? 今回のことで心配なことがあるなら、僕も相談に乗るからね」
「お二人も参加されるのですか?」
「うん、物資の運搬を手伝わせてもらうことになってるんだ。前線には出ないけど、よろしくね」
二人は旅の商人なので、レイ王国のことに関わる必要性はないはずだ。聞けば、アドラさんの方から名乗り出たらしい。
危険な場所へ行くことになるのは分かっているけど、手伝わせてほしいのだそう。ラディウス様とは親交が深そうだし、その辺りの事情なのかな。
「それにしても、この石にこんな価値があったなんて知らなかったよ。落ち着いたら、正式に商品として取り扱わせてもらえないか交渉してみようかな」
光を集める白い石、その欠片をつまみながら太陽の光を浴びせる。小さな欠片であっても、光を吸収しているのが分かった。
どんなに高価な宝石であっても、光の魔力を蓄えておくことは困難だった。それがこの石で解決するのだ。
ラディウス様の許可は必要だろうが、アドラさんたち商人が商品として世界中に運んでくれれば、魔獣や魔物、そして魔王に対抗する手段が増える。私もアドラさんの計画に賛成だった。
「君の悩みの種は、陛下のこと?」
欠片をしまい、アドラさんは話を戻す。お見通しみたいだ。
「レイディアント殿下が戻ってきた後のことは、その時に考えればいいさ。まだ魔界の門の問題を解決できると決まったわけじゃない」
私が頷けば、アドラさんはそんな風に返す。
「レイ王国の今後のことは君が気にすることでもないし、君は君がすべきことだけ見ていればいい」
そうだ、独りで背負うなと言われたんだったね。
魔獣関係のことには介入できても、国の問題は私にはどうしようもない。
「ありがとうございます。私は私にできることだけしようと思います」
「何だか雰囲気が変わったね。うん、それでいいんだよ」
安心したように微笑むと、アドラさんはファルコさんと共に物資の確認をしに行った。
今までは、何でも独りでやろうとしていた。でも、問題を解決しようとしているのは私だけじゃない。当たり前のことだけど、それを私は忘れそうになっていた。
私は私にできることをすればいい。頼もしい仲間がいるんだから。
十分に準備を整え、いよいよ出発の日。
陛下や国民の見送りのもと、私たちは魔界の門を閉じるべく、端の街の国民たちを救うべく、そして陛下のお兄さんを助けるべく旅立つことになった。
魔導士部隊は大きく二つ。レイ王国の有志で結成された部隊と、ファブラス家と宮廷魔導士で結成された部隊。私はファブラス家の魔導士たちがいる方の部隊に所属している。流石は魔法文明が栄えた国と言うべきか、レイ王国の魔導士部隊は私たちの倍以上だった。
騎士部隊にはリトランデ様をはじめとした宮廷騎士たちと、レイ王国の騎士たちが名を連ねている。こちらは魔導士部隊より数は少ないが、統率がとれていて士気も高かった。
そしてグランディール様はというと、流石に前線には出られないが近くまでは行くとのことで、アドラさんたちと一緒に後方支援に回ってくださることになった。
魔導士の殆どが前線に出ることになるので、回復役が足りなくなる。グランディール様の力が借りれるのなら、これほど心強いものはなかった。
「我が国の民と、兄のことをよろしく頼む」
陛下とレイ王国の人たちに見送られ、私たちは魔界の門へ向かって動き出した。
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