神に愛された宮廷魔導士

桜花シキ

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第4章 学園編(三年生)

31 魔界の門

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「おい、聞いたか? 昨日の凄まじい魔法は、あの異国の人間がやったんだって話」
「何でもホロウらしいぞ。レイディアント殿下以外にも称号を戴いた人間がいたとはな」
「あの可愛らしい少女が、偉大なる魔導士様だとはねぇ」

 ラディウス陛下から魔界の門が出現した街へと赴くことを許可された私は、準備のために城下町へ出かけていた。

「何だか国民の皆さんが騒がしいような‥‥‥」
「あれほどの魔法を見せられたのだ。皆、圧倒されたのであろうよ。心配せずとも、お前に対して好意的な感情を抱いている者がほとんどのはずだ」

 人とすれ違う度に、人々の視線が一斉にこちらを向く。レイ王国に初めて来た日とはまた違った様子で。
 首を傾げる私の少し前を歩いていた陛下は、振り返ると笑顔でその理由を教えてくれた。

「我も懐かしい気持ちになった。兄のことを近くに感じたようで、な」

 目を細めて、陛下は柔らかな笑みを浮かべる。私も陛下のお兄さんもホロウだから、似たような魔力を感じたのかもしれないね。
 こんな顔を見せられたら、何としてでも助けたいと思う。初めは、魔王を倒すために力を貸してもらいたいという打算的な考えがあったけど、実際に陛下の話を聞いてからはそれだけでもなくなった。


 レイ王国に多く見られる白い石――光を蓄える力を持った珍しい物質だ。これを加工して携帯できるようにすれば、誰でも光属性の加護が受けられる。魔獣や魔物と戦う上で絶対に役に立つはずだ。

「この石にそんな力があったとはな。当たり前になりすぎて、気づかなんだわ」

 陛下にその話をしたところ、この国の人たちにとってそれほど価値のあるものだという認識はなかったようで、かなり驚いた顔をされていた。

「まぁ、光魔法を扱える人間は多くないですから。お嬢様が指摘しなかったら、俺もスルーしてたと思いますし」

 光属性の魔法を扱う人間以外からすれば、はっきりとその魔力を捕えることは難しい。訓練された魔導士であれば、自分に適性のない魔力であってもぼんやりと感じ取ることはできるが。

「魔導士が多いこの国でも、光属性の魔法を操る人間はほとんどいない。その少なさ故に神聖視される力ですらある」
「それじゃあ、お嬢様がこの国で崇拝される日も近いかもしれませんねぇ」
「もう、からかわないでよ」
「あながち間違ってもいないかもしれんぞ。あれだけの力を見せたのだからな」

 冗談を飛ばしてくるイディオにつっこみを入れていると、真顔で陛下に頷かれてしまった。

「その話はもういいとして‥‥‥この石を使って武器や魔導具を作ることは可能ですか?」
「腕のいい職人を集められるだけ集めよう。この石が役に立つのであればいくらでも使って構わん」

 陛下の招集を受けて、すぐに職人たちが集まった。一週間もあれば、私たちエルメラド王国からやってきた人たち分の装備は完成するとのこと。レイ王国からも有志たちが参戦するとのことで、その人たち用の装備も準備する時間を確保して、出発は半月後に決まった。
 出発まで時間ができたので一度エルメラド王国に戻ることも考えたが、少しでも多く魔界の門に関する情報を集めたいので、陛下の好意に甘えて準備期間中は城に滞在させてもらうことにした。

「グランディール様は、戻らなくてよいのですか? 友好を結ぶことに関しては、ラディウス陛下も承諾してくださっているようですし」
「いや、私も残る。国に戻るのは、すべてが終わってからだ。君が私の手の届かない場所にいると、どうにも落ち着かなくてね」
「あはは‥‥‥いつもご心配をおかけして申し訳ありません」
「止めたとしても、君は君が正しいと思ったことには躊躇わず首を突っ込むからな」

 流石にもう分かった、と諦めた表情でため息を吐かれる。忠告を無視したのは初めてじゃないですからね‥‥‥私の言葉に信頼性はないだろう。

「ルナシア、私は君を失いたくない。できることなら、危険とは無縁の場所で穏やかに生きて欲しいと願っている。だが、他人の人生に深く干渉することが果たして正しいことなのか‥‥‥それは分からない」
「グランディール様、私は今まで悔いのない選択をしてきたつもりです。悩むこともありますし、本当に正しかったのかと考えることもあります。それでも、その時にできる最善の選択をしてきました」

 真剣な眼差しで、グランディール様が自分の心境を吐露される。本当に私のことを気にかけてくださっているんだな。
 その優しさが嬉しいし、共感する部分もある。でも、だったらもう干渉しませんと素直に言えないのが、ルナシアという人間なのだ。

「心配して下さってありがとうございます。私だって危険なことが好きなわけではないですし、穏やかに暮らせたらなぁと思うこともあります。でも、じっとしていられないんですよね、私」
「それが、君の望んだ生き方なのか?」
「たとえ何度人生が繰り返そうと、同じような行動をしたと思います」

 一度目の人生でも、この二度目の人生でも。私は私の生き方を貫いている。
 だいぶ無茶はしてるから、色々な人たちにたくさん迷惑はかけていると思うけどね‥‥‥。

 私の考えを聞き終わると、グランディール様は長く瞳を閉ざした。

「‥‥‥ひとつ、聞きたい」

 改まってどうしたのだろうか。意を決したように、グランディール様は口を開いた。

――この言葉に聞き覚えはないか?」

 どうして、彼の口からその単語が。思わず言葉を失った。
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