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第4章 学園編(三年生)
30 光の王国4
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翌日、私はラディウス様を前にして魔法を披露することになった。魔界の門を何とかする実力があるのか確認するためだ。
その確認方法というのが、レイ王国の周辺をうろついている魔獣を倒してみせることだった。
陛下を乗せた馬車の周りにはぞろぞろと護衛の兵士たちが付き添っており、私はイディオやリトランデ様たちに守られながら先行していた。
魔法で飛んでいいと許可を頂いたので、魔獣を探しながらのびのびと空の旅をしている。
グランディール様はラディウス陛下と同じ馬車に乗って移動している。
レイ王国に辿り着くまでは私が同乗させて頂いていたわけだけど、どうにも二人きりになるのは落ち着かなかった。相手が王子様ともなれば緊張しても仕方がないよね‥‥‥うーん、でも同じ王族のグレース様と一緒にいてもそこまで緊張しないんだけど、どうしてグランディール様が傍にいるとドキドキするんだろう。
「おっ、あそこにちょうど良さそうな魔獣がいますよ」
イディオの声で我に返ると、彼が指さす先に巨大な黒いヘビのような魔獣がいた。砂から上半身だけ出して様子を窺っていたようだが、こちらの接近に気がつくとその全貌を露わにした。
「デカいですねぇ。いけますか、お嬢様?」
「うん。ここは私一人でやるから、イディオたちは危なくなったら加勢してくれる?」
「承知いたしました。もしもの時は何とかしますんで、ご安心を」
慢心するのはよくないが、この魔獣相手であれば私一人でも大丈夫だ。イディオが指示を出すと、後ろに続いていた人たちは少し距離を置いて停止した。
「外に出られては危険です、お戻りを!」
「ここから見ている分にはよかろう。馬車の中からではよく見えん」
おっと、ラディウス様が出てきちゃったみたいだね。護衛の兵士さんたちが止めてるけど聞く耳持たずだ。
「では、私が守護の魔法をかけましょう」
陛下に続いて、グランディール様も外に出てくる。今度はリトランデ様たちが大慌てだ。
グランディール様の守護の魔法であれば安全性はバッチリだろうが‥‥‥絶対、後方に魔獣がいかないようにしなくては。
背後から視線を感じつつ、魔獣の方に意識を集中する。
今回は、魔界の門の問題を解決できるだけの力を示さなくてはならないというのが課題だ。
それならば、光属性の高位魔法で相手をしよう。
「イディオー! もう少し離れて、念のために防壁張っておいてもらえるー?」
「えぇ? 何するつもりなんですかー?」
「認めてもらうには、これくらいしないとかなってー!」
声を張り上げながら、両手で光魔法を練り上げる。何をしようとしているのか察したイディオが叫ぶ。
「それはやりすぎじゃないですかーー!?」
そんな声をあげつつも、防壁はしっかり張ってくれたようだ。
それを確認してから、両手を空に突き上げる。
『光よ、降り注げ!!』
両手から飛び出していった光の塊は、遥か上空へ勢いよく吸い込まれていく。
程なくしてカッと空が白く光り、ヘビ型魔獣目がけて光の雨が降り注いだ。
後方へは被害が出ないように気をつけたし、念のため防壁も張ってもらっている。
光の雨が収まってから魔獣がいたあたりを確認したが、そこには穴だらけになった地面があるだけだった。
「ひぇ~、流石はお嬢様」
「これ俺たち来る必要あったんですかね?」
「部屋で本読んで待っててもよかったんじゃ?」
この声はファブラス家の魔導士たちだろうな。いつものやつだ。
確認したけど、皆に被害は出てないみたいだね。一番後ろで見ていたグランディール様とラディウス様も無事みたいだ。
でも、ラディウス様どうしたんだろう。さっきから動いてない。心配になり、ぼーっと立ち尽くしているラディウス様の方へ飛んでいく。
近づいてみると、興奮したように陛下は口を開いた。
「すごいな、これはレイディにも引けをとらな――」
よかった、心配なかったね。
しかし、キラキラした少年のような眼差しを向ける陛下に、ばっと周囲の視線が刺さる。
「……ふっ、ははははは!! 見事だルナシアよ! ホロウの名を戴いたというのは真のことらしいな!!」
何事もなかったようにいつもの態度に戻ったのを見て、人々の興味も霧散する。
即座に演技できるのは凄いと思うけど、これ国民にばれてないのかな? まぁ、陛下がいいなら構わないんだけどさ。
「同じホロウだからだろうか。あなたからは兄と似たものを感じる」
懐かしむように陛下が目を細める。そして意を決したように、まっすぐ私を見た。
「遠き王国のホロウ、偉大なる魔導士ルナシアよ。実力は分かった。どうか、兄を救ってはくれまいか」
どうやら無事に認めてもらえたようだ。
ほっとする傍ら、グランディール様が険しい表情をしているのが気になった。元々、私がレイ王国へ行くことは乗り気でなかったのだ。ホロウを助けたいという願いに理解は示してくれたものの、心配をかけてしまったことに変わりはない。
それでも、これから起こることを知っている私にとっては、私の身にもしものことが起きた場合でも魔王に対抗できる手段を残しておくための保険に他ならない。
身勝手な理由ではあるが、一度魔王に敗れている身としては慎重にならざるを得ないのだ。
「謹んでお受けいたします」
この選択が今度こそ大切な人たちを救う一手となると信じて、私は深く礼をした。
その確認方法というのが、レイ王国の周辺をうろついている魔獣を倒してみせることだった。
陛下を乗せた馬車の周りにはぞろぞろと護衛の兵士たちが付き添っており、私はイディオやリトランデ様たちに守られながら先行していた。
魔法で飛んでいいと許可を頂いたので、魔獣を探しながらのびのびと空の旅をしている。
グランディール様はラディウス陛下と同じ馬車に乗って移動している。
レイ王国に辿り着くまでは私が同乗させて頂いていたわけだけど、どうにも二人きりになるのは落ち着かなかった。相手が王子様ともなれば緊張しても仕方がないよね‥‥‥うーん、でも同じ王族のグレース様と一緒にいてもそこまで緊張しないんだけど、どうしてグランディール様が傍にいるとドキドキするんだろう。
「おっ、あそこにちょうど良さそうな魔獣がいますよ」
イディオの声で我に返ると、彼が指さす先に巨大な黒いヘビのような魔獣がいた。砂から上半身だけ出して様子を窺っていたようだが、こちらの接近に気がつくとその全貌を露わにした。
「デカいですねぇ。いけますか、お嬢様?」
「うん。ここは私一人でやるから、イディオたちは危なくなったら加勢してくれる?」
「承知いたしました。もしもの時は何とかしますんで、ご安心を」
慢心するのはよくないが、この魔獣相手であれば私一人でも大丈夫だ。イディオが指示を出すと、後ろに続いていた人たちは少し距離を置いて停止した。
「外に出られては危険です、お戻りを!」
「ここから見ている分にはよかろう。馬車の中からではよく見えん」
おっと、ラディウス様が出てきちゃったみたいだね。護衛の兵士さんたちが止めてるけど聞く耳持たずだ。
「では、私が守護の魔法をかけましょう」
陛下に続いて、グランディール様も外に出てくる。今度はリトランデ様たちが大慌てだ。
グランディール様の守護の魔法であれば安全性はバッチリだろうが‥‥‥絶対、後方に魔獣がいかないようにしなくては。
背後から視線を感じつつ、魔獣の方に意識を集中する。
今回は、魔界の門の問題を解決できるだけの力を示さなくてはならないというのが課題だ。
それならば、光属性の高位魔法で相手をしよう。
「イディオー! もう少し離れて、念のために防壁張っておいてもらえるー?」
「えぇ? 何するつもりなんですかー?」
「認めてもらうには、これくらいしないとかなってー!」
声を張り上げながら、両手で光魔法を練り上げる。何をしようとしているのか察したイディオが叫ぶ。
「それはやりすぎじゃないですかーー!?」
そんな声をあげつつも、防壁はしっかり張ってくれたようだ。
それを確認してから、両手を空に突き上げる。
『光よ、降り注げ!!』
両手から飛び出していった光の塊は、遥か上空へ勢いよく吸い込まれていく。
程なくしてカッと空が白く光り、ヘビ型魔獣目がけて光の雨が降り注いだ。
後方へは被害が出ないように気をつけたし、念のため防壁も張ってもらっている。
光の雨が収まってから魔獣がいたあたりを確認したが、そこには穴だらけになった地面があるだけだった。
「ひぇ~、流石はお嬢様」
「これ俺たち来る必要あったんですかね?」
「部屋で本読んで待っててもよかったんじゃ?」
この声はファブラス家の魔導士たちだろうな。いつものやつだ。
確認したけど、皆に被害は出てないみたいだね。一番後ろで見ていたグランディール様とラディウス様も無事みたいだ。
でも、ラディウス様どうしたんだろう。さっきから動いてない。心配になり、ぼーっと立ち尽くしているラディウス様の方へ飛んでいく。
近づいてみると、興奮したように陛下は口を開いた。
「すごいな、これはレイディにも引けをとらな――」
よかった、心配なかったね。
しかし、キラキラした少年のような眼差しを向ける陛下に、ばっと周囲の視線が刺さる。
「……ふっ、ははははは!! 見事だルナシアよ! ホロウの名を戴いたというのは真のことらしいな!!」
何事もなかったようにいつもの態度に戻ったのを見て、人々の興味も霧散する。
即座に演技できるのは凄いと思うけど、これ国民にばれてないのかな? まぁ、陛下がいいなら構わないんだけどさ。
「同じホロウだからだろうか。あなたからは兄と似たものを感じる」
懐かしむように陛下が目を細める。そして意を決したように、まっすぐ私を見た。
「遠き王国のホロウ、偉大なる魔導士ルナシアよ。実力は分かった。どうか、兄を救ってはくれまいか」
どうやら無事に認めてもらえたようだ。
ほっとする傍ら、グランディール様が険しい表情をしているのが気になった。元々、私がレイ王国へ行くことは乗り気でなかったのだ。ホロウを助けたいという願いに理解は示してくれたものの、心配をかけてしまったことに変わりはない。
それでも、これから起こることを知っている私にとっては、私の身にもしものことが起きた場合でも魔王に対抗できる手段を残しておくための保険に他ならない。
身勝手な理由ではあるが、一度魔王に敗れている身としては慎重にならざるを得ないのだ。
「謹んでお受けいたします」
この選択が今度こそ大切な人たちを救う一手となると信じて、私は深く礼をした。
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