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第4章 学園編(三年生)
30 光の王国2
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向けられた視線に応えるように、グランディール様が進み出る。
「エルメラド王国第一王子、グランディール・テラ・エルメラドと申します。突然の訪問にも関わらず、寛大な御心に感謝いたします」
「よい、遠路はるばるよくぞ参られた。歓迎しよう、遠き異国の地の王子とその臣下たちよ」
余裕ある態度で陛下は私たちの訪問を歓迎してくれた。流石は大国をまとめ上げる王様だ。
グランディール様も、いずれはエルメラド王国を背負って立つことになる。レイ王国の王様を前にしても堂々としている姿からは、その片鱗が感じられるね。
「して、ホロウの名を持つ者というのはーー」
「私でございます、陛下。エルメラド王国より参りました、ルナシア・ホロウ・ファブラスと申します」
名乗り出て頭を下げる。すぐに顔を上げるよう命じられたが、見られている。すごく見られているね。
「お前たちは外へ出よ」
じーっと私のことを眺めていた陛下だったが、何を思ったのか側に控えていた人たちに退室を促した。
流石にそれは不用心すぎると思ったが、それは従者の方々も同じようで。
「しかし、会ったばかりの人間たちを前に陛下をお一人にするわけにはーー」
「よいと言っている。お前たちは部屋の外で待機していろ。何かあれば呼ぶ」
有無を言わせぬ口調で命じれば、陛下の側にいた人たちはさっ、と頭を下げて退室していった。
こう言われて反対できる人もいないと思うけど、従者の方々の意見が尤もなだけに気の毒に感じてしまう。
ふう、と一つため息をついて陛下は肩の力を抜いた。
「アドラ、わざわざホロウを連れてきたのは、兄の件でいいんだな?」
「大まかな事情については、勝手ながらお話しさせて頂きました。これからどうするかは、実態を知ったうえで彼女たちが判断することになりますが」
人払いを済ませると、先ほどまでの威厳は何処へやら。一転して静かな口調に変わった。
「まだ名乗っていなかったな。私はラディウス。堅苦しいのは好かないから、楽にしてほしい」
威圧感のあるオーラがなりを潜めると、グランディール様やリトランデ様より少しお兄さんに見えるくらいの顔になった。さっきまでは凄く大人に見えていたんだけど、実際にはそんなに変わらない年齢な気がする。
潜在魔力の量が多ければ見た目があまり変わらないこともあるけど、ラディウス様の魔力量はそれほど多くないようで、見た目とのギャップは少ないだろう。
「驚いたか? 元々、王の器などではないんだ。成り行きでそうなってしまっただけで」
「ええ、はい……こちらが素なのですか?」
「外から来た人間相手であれば、隠すこともないからな。王を続けるうちに、演技も板についてくるというものだ。形だけでもああしておかないと、力のない私の言うことなど聞きはしないだろう」
アドラさんとファルコさんも外から来た人たちだから、陛下の素を知っていたのだろう。彼らは特に驚いた表情を見せなかった。
「本来ならば、私が王になるはずではなかったんだ。この偉大なる王国を守り育てていくのは、兄のはずだった」
陛下の口から飛び出してきたのは、そんな話。自信なさげに語る様子からは、さっきまでの陛下の姿は想像できない。
先代が早くに亡くなり、その息子であるラディウス様か、お兄さんが若くして王の座につかなくてはならなくなったという。
その口ぶりだと、お兄さんが継ぐはずだったんだろうね。
「あなたたちも薄々感じてはいるだろう。私の持つ魔力は少ない。魔法文明が栄えた国の王として、あるまじき事だ」
王としての素質は魔力で決まるわけではないけれど、レイ王国は魔法文明が栄えた大国だ。その頂点に君臨する国王として、大きな魔力を持つことが求められても可笑しくはない。
「私と兄は双子だったが、あの人は偉大な方だ。本当に双子なのかと疑いたくなるほどには」
陛下の口から出てくるのは、お兄さんを心から尊敬する言葉ばかりだった。お兄さんの話をする陛下の顔は活きいきしていたが、魔界の門の話になると一転して表情を曇らせる。
「アドラから聞いていると思うが、今から十年ほど前に王国の端の街に魔界の門が開いた。そして、それは閉じることなく今も延々と魔獣を吐き出し続けている。兄は自ら魔界の門のある街へ赴き、魔獣の脅威が広がらないよう戦っているんだ」
最初はラディウス様だけでなく、お城の人たちも、国民たちも反対したらしい。
即位間近だったお兄さんが、急に魔獣と戦いに行くって言い出したのだから、当然といえば当然だ。
でも、レイ王国唯一のホロウで、状況を打開できる可能性があるのは彼だけだった。
結果として彼を筆頭に討伐隊が組まれ、今もなお戦い続けている。定期的に状況を知らせに来る人たちがいるらしいが、被害が広がらないよう食い止めるのが精一杯で、解決には至っていないようだ。
それでも、多くの国民たちの暮らしが守られているのは、お兄さんの力のおかげであることに間違いないのだろう。
英雄のように扱われたお兄さん。その代わりに王の座を引き継ぐことになったラディウス様。
望まれなかった王。誰もがホロウである兄の即位を待ち望んでいた。なぜお前が残ったのかと陰口もたくさん言われたらしい。
それでも、陛下は折れなかった。今この玉座の主が彼であるということ。それが物語っていた。
「この国のことを託された以上、途中で放り出すことは許されない。兄が戻ってきた時、失望させるようなことがあってはならないからな」
自分は王の器でないと言いながらも、その重責を放り出すことなく役割を果たすというのは誰にでもできることじゃない。
ここに来るまで城下町を歩いてきたけど、国民の暮らしは安定しているように見えた。それは、ラディウス様がしっかりと国民のことを考えているからできたことなんじゃないかな。
「エルメラド王国第一王子、グランディール・テラ・エルメラドと申します。突然の訪問にも関わらず、寛大な御心に感謝いたします」
「よい、遠路はるばるよくぞ参られた。歓迎しよう、遠き異国の地の王子とその臣下たちよ」
余裕ある態度で陛下は私たちの訪問を歓迎してくれた。流石は大国をまとめ上げる王様だ。
グランディール様も、いずれはエルメラド王国を背負って立つことになる。レイ王国の王様を前にしても堂々としている姿からは、その片鱗が感じられるね。
「して、ホロウの名を持つ者というのはーー」
「私でございます、陛下。エルメラド王国より参りました、ルナシア・ホロウ・ファブラスと申します」
名乗り出て頭を下げる。すぐに顔を上げるよう命じられたが、見られている。すごく見られているね。
「お前たちは外へ出よ」
じーっと私のことを眺めていた陛下だったが、何を思ったのか側に控えていた人たちに退室を促した。
流石にそれは不用心すぎると思ったが、それは従者の方々も同じようで。
「しかし、会ったばかりの人間たちを前に陛下をお一人にするわけにはーー」
「よいと言っている。お前たちは部屋の外で待機していろ。何かあれば呼ぶ」
有無を言わせぬ口調で命じれば、陛下の側にいた人たちはさっ、と頭を下げて退室していった。
こう言われて反対できる人もいないと思うけど、従者の方々の意見が尤もなだけに気の毒に感じてしまう。
ふう、と一つため息をついて陛下は肩の力を抜いた。
「アドラ、わざわざホロウを連れてきたのは、兄の件でいいんだな?」
「大まかな事情については、勝手ながらお話しさせて頂きました。これからどうするかは、実態を知ったうえで彼女たちが判断することになりますが」
人払いを済ませると、先ほどまでの威厳は何処へやら。一転して静かな口調に変わった。
「まだ名乗っていなかったな。私はラディウス。堅苦しいのは好かないから、楽にしてほしい」
威圧感のあるオーラがなりを潜めると、グランディール様やリトランデ様より少しお兄さんに見えるくらいの顔になった。さっきまでは凄く大人に見えていたんだけど、実際にはそんなに変わらない年齢な気がする。
潜在魔力の量が多ければ見た目があまり変わらないこともあるけど、ラディウス様の魔力量はそれほど多くないようで、見た目とのギャップは少ないだろう。
「驚いたか? 元々、王の器などではないんだ。成り行きでそうなってしまっただけで」
「ええ、はい……こちらが素なのですか?」
「外から来た人間相手であれば、隠すこともないからな。王を続けるうちに、演技も板についてくるというものだ。形だけでもああしておかないと、力のない私の言うことなど聞きはしないだろう」
アドラさんとファルコさんも外から来た人たちだから、陛下の素を知っていたのだろう。彼らは特に驚いた表情を見せなかった。
「本来ならば、私が王になるはずではなかったんだ。この偉大なる王国を守り育てていくのは、兄のはずだった」
陛下の口から飛び出してきたのは、そんな話。自信なさげに語る様子からは、さっきまでの陛下の姿は想像できない。
先代が早くに亡くなり、その息子であるラディウス様か、お兄さんが若くして王の座につかなくてはならなくなったという。
その口ぶりだと、お兄さんが継ぐはずだったんだろうね。
「あなたたちも薄々感じてはいるだろう。私の持つ魔力は少ない。魔法文明が栄えた国の王として、あるまじき事だ」
王としての素質は魔力で決まるわけではないけれど、レイ王国は魔法文明が栄えた大国だ。その頂点に君臨する国王として、大きな魔力を持つことが求められても可笑しくはない。
「私と兄は双子だったが、あの人は偉大な方だ。本当に双子なのかと疑いたくなるほどには」
陛下の口から出てくるのは、お兄さんを心から尊敬する言葉ばかりだった。お兄さんの話をする陛下の顔は活きいきしていたが、魔界の門の話になると一転して表情を曇らせる。
「アドラから聞いていると思うが、今から十年ほど前に王国の端の街に魔界の門が開いた。そして、それは閉じることなく今も延々と魔獣を吐き出し続けている。兄は自ら魔界の門のある街へ赴き、魔獣の脅威が広がらないよう戦っているんだ」
最初はラディウス様だけでなく、お城の人たちも、国民たちも反対したらしい。
即位間近だったお兄さんが、急に魔獣と戦いに行くって言い出したのだから、当然といえば当然だ。
でも、レイ王国唯一のホロウで、状況を打開できる可能性があるのは彼だけだった。
結果として彼を筆頭に討伐隊が組まれ、今もなお戦い続けている。定期的に状況を知らせに来る人たちがいるらしいが、被害が広がらないよう食い止めるのが精一杯で、解決には至っていないようだ。
それでも、多くの国民たちの暮らしが守られているのは、お兄さんの力のおかげであることに間違いないのだろう。
英雄のように扱われたお兄さん。その代わりに王の座を引き継ぐことになったラディウス様。
望まれなかった王。誰もがホロウである兄の即位を待ち望んでいた。なぜお前が残ったのかと陰口もたくさん言われたらしい。
それでも、陛下は折れなかった。今この玉座の主が彼であるということ。それが物語っていた。
「この国のことを託された以上、途中で放り出すことは許されない。兄が戻ってきた時、失望させるようなことがあってはならないからな」
自分は王の器でないと言いながらも、その重責を放り出すことなく役割を果たすというのは誰にでもできることじゃない。
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