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第3章 学園編(二年生)
24 勉強会
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気づけば二年生も終わりに差し掛かっていた。振り返れば色々あった一年だったな。
年を重ねるごとに、刻一刻と魔王が再び現れるまでの時間は迫ってきている。
今のままでいいのか、もっと準備しておけることはないのか、心配は尽きない。
そんな中でも、ふとした日常が心に安らぎを与えてくれる。
なんて事はない、記憶にも残らないかもしれない小さな出来事だけど、それがどうしようもなく愛おしいのだ。
来週、この一年の集大成として、学年末試験が行われる。
定期試験はこれまでも何回かあったものの、今回は一年分すべての内容が出題対象となるので、軽い気持ちで臨むと痛い目を見る。進級にも関わってくるので、自習スポットとなっている図書室には、いつも以上に気迫に溢れている学生が多かった。
二度目とはいえ、油断はできない。私も試験に向けて対策を行うことにした。
図書室で勉強しようとしていたところ、エルとグレース様も一緒にやりたいとのこと。一人でやるより複数でやった方が捗ることもある。快諾し、皆で試験勉強をすることにした。
図書室の机に資料を広げていると、同じく勉強をしにやってきたハイン様に声をかけられる。なんでも、教えてもらいたいところがあるとのこと。
彼は一年年下なので、二年生の私たちであれば、ある程度答えることはできるだろう。
「ハインは教えてもらわなくても大丈夫じゃないの? いつも成績いいよね」
グレース様が首を傾げるも、ハイン様はにっこり笑って、学年末は特別だからとグレース様と向かい合う形で、私の隣に腰を下ろした。
確か、ハイン様は学年でトップクラスの成績を誇っていたはずだ。果たして教える必要があるかは分からないが、最後まで気を抜かない姿勢はすごいと思う。
しばらく四人で黙々と勉強をしていたが、教科書と睨めっこしていたグレース様がぱっと顔を上げて唸った。
「う~、疲れてきた……ルナもエルも凄いよ。しばらく授業休んでたはずなのに、よくそこまで理解できてるよね」
「授業を受けていなかった分、最近まで補習続きでしたから」
休んでいた時間を取り戻すように、毎日ぎゅうぎゅうに補習が組まれていた。魔法科と騎士科で科目が異なることもあったけど、共通科目ではエルと一緒に励まし合いながら乗り越えた。
過去のものはともかく、最近の内容は学習したばかりなのでよく覚えているだけだ。
「ルナシアさんは流石の記憶力ですが、私は二年生の初めに学習した内容は所々忘れていますね」
忘れているところがあると言うけれど、少し復習をすれば問題ないレベルだ。入学試験の時も、高いレベルの教育を受けてきた貴族令息令嬢たちを抜いて、上位の成績を残していた。努力家でもあるので、彼女の進級は心配いらないだろう。
私の場合は二度目だから、ね……。何とも複雑な心境だ。
手が止まっていたところに、ハイン様が声をかけてくる。
「ルナシア先輩、地理について質問しても構いませんか?」
「はい、答えられることなら」
「世界には四つの大国があると習いました。三大大国のことはある程度分かるのですが、残りの一つはどういった国なのでしょうか?」
去年習ったなぁと、思い出しながら説明する。
「三大大国として知られているのは、ここエルメラド王国、サフィーア帝国、紅玉国ーー今は、獣人たちの生活共同体ですね」
紅玉国という名は、人間たちが治めていたころの話で、少し前にあった獣人とエルメラド王国との戦い以降は呼ばれなくなった。未だ完全に人間と獣人との間にあるわだかまりがなくなったわけではなく、そう呼ぶのに抵抗がある獣人が多くいたためだ。
今はまだ三大大国と言われているが、今後紅玉国の扱いがどうなるかは分からない。
そのあたりは国の要人たちに任せるとして、ハイン様の質問に戻る。
「その他に、ここからかなり距離は離れていますが、レイ王国と呼ばれる古の大国があるそうです。一説では、最古の国であるとも。魔法文明が栄え、生活に魔法が密着していると聞きます。外部との交流がほとんどないので情報が少なく、授業でもあまり触れられないのはそのためです」
私も実際に行ったことはなく、あるのは資料から得た知識のみだ。
最古の国とされているものの、外部に情報が漏れることはほとんどなく、今現在どういった生活を送っているのかは分からない。
ただ、魔法によって栄えた国であると言い伝えられている。
私も魔導士としてレイ王国には興味があるが、エルメラド王国との関わりはない国だ。つてもなく行けるような場所ではない。
「なるほど……エルメラド王国も高い魔術レベルを誇っていると思いますが、レイ王国はいかほどのものなんでしょう」
「私もそれは気になりますが、簡単に足を運べるような場所ではありませんからね」
「うーん……知っている可能性があるとすれば、商人でしょうか。選ばれた商人しか入国を許可されないそうですが、レイ王国と取り引きしている人たちがいると噂で聞いたことがあります」
商人か。
流石ハイン様、情報通ですね。
教えるつもりが、逆に教えられてしまった気がする。
「ハイン様の方が詳しいかもしれませんね。私が教える必要もないのでは」
「いいえ、たまたまですよ。あ、こっちも質問して構いませんか?」
「も~、私が一番まずいんだから、そろそろルナのこと譲ってよ~」
「申し訳ありません、姉上。もう少しだけ先輩のこと貸してください」
「私もルナシアさんに聞きたいことがあるので、なるべく急いでくださいね」
頼られるのは嬉しいんだけど、なんか……ハイン様とエルは顔が怖いよ?
年を重ねるごとに、刻一刻と魔王が再び現れるまでの時間は迫ってきている。
今のままでいいのか、もっと準備しておけることはないのか、心配は尽きない。
そんな中でも、ふとした日常が心に安らぎを与えてくれる。
なんて事はない、記憶にも残らないかもしれない小さな出来事だけど、それがどうしようもなく愛おしいのだ。
来週、この一年の集大成として、学年末試験が行われる。
定期試験はこれまでも何回かあったものの、今回は一年分すべての内容が出題対象となるので、軽い気持ちで臨むと痛い目を見る。進級にも関わってくるので、自習スポットとなっている図書室には、いつも以上に気迫に溢れている学生が多かった。
二度目とはいえ、油断はできない。私も試験に向けて対策を行うことにした。
図書室で勉強しようとしていたところ、エルとグレース様も一緒にやりたいとのこと。一人でやるより複数でやった方が捗ることもある。快諾し、皆で試験勉強をすることにした。
図書室の机に資料を広げていると、同じく勉強をしにやってきたハイン様に声をかけられる。なんでも、教えてもらいたいところがあるとのこと。
彼は一年年下なので、二年生の私たちであれば、ある程度答えることはできるだろう。
「ハインは教えてもらわなくても大丈夫じゃないの? いつも成績いいよね」
グレース様が首を傾げるも、ハイン様はにっこり笑って、学年末は特別だからとグレース様と向かい合う形で、私の隣に腰を下ろした。
確か、ハイン様は学年でトップクラスの成績を誇っていたはずだ。果たして教える必要があるかは分からないが、最後まで気を抜かない姿勢はすごいと思う。
しばらく四人で黙々と勉強をしていたが、教科書と睨めっこしていたグレース様がぱっと顔を上げて唸った。
「う~、疲れてきた……ルナもエルも凄いよ。しばらく授業休んでたはずなのに、よくそこまで理解できてるよね」
「授業を受けていなかった分、最近まで補習続きでしたから」
休んでいた時間を取り戻すように、毎日ぎゅうぎゅうに補習が組まれていた。魔法科と騎士科で科目が異なることもあったけど、共通科目ではエルと一緒に励まし合いながら乗り越えた。
過去のものはともかく、最近の内容は学習したばかりなのでよく覚えているだけだ。
「ルナシアさんは流石の記憶力ですが、私は二年生の初めに学習した内容は所々忘れていますね」
忘れているところがあると言うけれど、少し復習をすれば問題ないレベルだ。入学試験の時も、高いレベルの教育を受けてきた貴族令息令嬢たちを抜いて、上位の成績を残していた。努力家でもあるので、彼女の進級は心配いらないだろう。
私の場合は二度目だから、ね……。何とも複雑な心境だ。
手が止まっていたところに、ハイン様が声をかけてくる。
「ルナシア先輩、地理について質問しても構いませんか?」
「はい、答えられることなら」
「世界には四つの大国があると習いました。三大大国のことはある程度分かるのですが、残りの一つはどういった国なのでしょうか?」
去年習ったなぁと、思い出しながら説明する。
「三大大国として知られているのは、ここエルメラド王国、サフィーア帝国、紅玉国ーー今は、獣人たちの生活共同体ですね」
紅玉国という名は、人間たちが治めていたころの話で、少し前にあった獣人とエルメラド王国との戦い以降は呼ばれなくなった。未だ完全に人間と獣人との間にあるわだかまりがなくなったわけではなく、そう呼ぶのに抵抗がある獣人が多くいたためだ。
今はまだ三大大国と言われているが、今後紅玉国の扱いがどうなるかは分からない。
そのあたりは国の要人たちに任せるとして、ハイン様の質問に戻る。
「その他に、ここからかなり距離は離れていますが、レイ王国と呼ばれる古の大国があるそうです。一説では、最古の国であるとも。魔法文明が栄え、生活に魔法が密着していると聞きます。外部との交流がほとんどないので情報が少なく、授業でもあまり触れられないのはそのためです」
私も実際に行ったことはなく、あるのは資料から得た知識のみだ。
最古の国とされているものの、外部に情報が漏れることはほとんどなく、今現在どういった生活を送っているのかは分からない。
ただ、魔法によって栄えた国であると言い伝えられている。
私も魔導士としてレイ王国には興味があるが、エルメラド王国との関わりはない国だ。つてもなく行けるような場所ではない。
「なるほど……エルメラド王国も高い魔術レベルを誇っていると思いますが、レイ王国はいかほどのものなんでしょう」
「私もそれは気になりますが、簡単に足を運べるような場所ではありませんからね」
「うーん……知っている可能性があるとすれば、商人でしょうか。選ばれた商人しか入国を許可されないそうですが、レイ王国と取り引きしている人たちがいると噂で聞いたことがあります」
商人か。
流石ハイン様、情報通ですね。
教えるつもりが、逆に教えられてしまった気がする。
「ハイン様の方が詳しいかもしれませんね。私が教える必要もないのでは」
「いいえ、たまたまですよ。あ、こっちも質問して構いませんか?」
「も~、私が一番まずいんだから、そろそろルナのこと譲ってよ~」
「申し訳ありません、姉上。もう少しだけ先輩のこと貸してください」
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