神に愛された宮廷魔導士

桜花シキ

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第3章 学園編(二年生)

21 銀狼の獣人(リトランデ視点)

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 会議が終わって戻ってみると、仕えるべき主人であり、親友でもある青年が椅子に座ったままぼうっと天井を眺めている。
 いつも気を張り詰めている彼にしては珍しいが、その原因は分かっていた。

「送り出すことにしたのか」
「ああ、止められなかった」

 今日はルナシアが訪れる予定になっていた。その用件は、俺もグランから聞かされている。
 騎士団での会議の終わりに、エルからもルナシアが紅玉国へ同行するであろう旨を伝えられていた。
 こうなることは覚悟していたが、あらゆる想いをのみ込んで彼女のことを送り出した親友を前に、どう声をかけていいか分からなかった。

「たまに自分の立場が嫌になる時があるよ」
「たまにで済むなら大したものだと思うぞ? 俺が逆の立場なら、毎日のように嫌になってるだろうな」

 エルメラド王国の第一王子にして、次期国王となる予定の男。学園を卒業してからは、国王になるために必要な力を身につけることに日々を費やしている。とはいえ、二度目なのでそちらはさほど苦労していないようだ。
 俺もまた、グランの側近として働き始めている。その傍ら、騎士団の仕事も並行して行なっている状態だ。だが、こちらも二度目なのでどうにかなっている。

 それよりも余程苦労しているのは、ルナシアの予想できない行動だろう。前回の記憶があっても、その通りに動いてくれない彼女には驚かされてばかりだ。
 だいぶ初期の頃から、彼女を取り巻く環境は以前のそれとは異なっていた。それが未来へ影響を与えているのだとは思うが。
 未来は変えられるという希望をもてる反面、想像もつかない魔の手がルナシアを襲う可能性も考えられる。不安は尽きなかった。

「いずれエルメラド王国を背負って立つことに不満はない。だが、彼女のことを引き止めることもできないのだと知ると、本当に嫌になる」

 王族という権力を使えば、強制的にでも止めることはできただろう。
 だが、ホロウの力を借りれば、より多くの命が救われると理解しているから止められなかった。
 二人とも、その目に映っている人々の規模が桁違いだ。

「難しいことを考えずに、一を選ぶことができれば、どれだけよかっただろう」

 ただ一人、愛する者のことを守り抜くことができたのなら。世界が何度巻き戻ろうが、グランにとっては絶対に叶うことのないであろう願いを口にする。
 たとえ、どれだけ愛する人がいても。国民たちを一緒に天秤にかければ、そちらに傾くだろう。
 ルナシアの生き方に迷いがないように、グランもまた、葛藤はしつつもその在り方が揺らぐことはない。そこまで貫ける思いがあることは、素直に賞賛すべきことだ。

 しかし、ルナシアの場合は、一か十かのうちの一はであり、いくらでも切り捨てて構わないと考えている節があるのが厄介なのだ。
 彼女のもつ力は誰から見ても強大である。ある程度のことなら、少し無理をすればできてしまう。それがルナシアの凄いところであり、俺たちの心配の種でもある。
 いざとなれば、自分を犠牲にしてでも大勢の人々を守ろうとするだろう。自分のことももう少し顧みてくれと、こちらとしては思うわけだが。

「今回の作戦には、俺とエルも参加するんだ。そう易々と手出しはさせないさ。もっと臣下のことを信用してくれよ。お前は俺たちの王なんだから」

 自由に行動できないグランの代わりに、俺たちが手となり足となる。
 友人たちの幸せのためなら、どんなことでもする。そう誓ったのだ。

 紅玉国へ向かう隊を率いる役として、俺とエルも名を連ねている。
 隊長ということもあってずっとルナシアの傍にいることはできないが、魔導師である彼女は後衛に配置されるだろう。前衛を任される俺たちが食い止めれば、ルナシアのところまで敵が向かってくることはない。

「そうだな。リトたちが安心して旅立てるように、私がしっかり構えていなくては。留守の間、エルメラド王国は私が全力をもって守ろう」
「ああ、それでこそだ。お前が国を守ってくれるなら、俺たちは安心して戦える」

 長い時間を共に過ごしたからこそ築かれた信頼。
 後にも先にも、俺の人生をかけて仕えようと思えるのはグランだけだ。
 その憂いを晴らすためなら、何度でもこの剣を振るおう。
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