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第2章 学園編(一年生)
19 婚約者候補4
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話がある、とグランディール様に呼び出された。
リーネ嬢の件も収束し、卒業式も間近となった日のことだ。
大事な用らしく、私一人で来てほしいとのこと。しかも、場所は学園内ではなくお城の中庭。個人的に呼ばれること自体珍しいが、ますます意図が掴めなかった。
卒業式の準備のため、最近は午後の授業はお休みとなっている。だから、お城に行くことは不可能ではない。
疑問に思いつつも、久しぶりに足を運ぶこととなった。
王立図書館には頻繁に出入りさせていただくようになったけど、中庭に来るのはいつぶりだろうか。
指定された場所で辺りを眺めていると、幼い日の記憶が鮮明に蘇ってくる。
私がホロウの称号を戴いた日、グランディール様と初めて会った日のことだ。
木に登って下りれなくなっていた彼のことを魔法で助けたのが、初めての出会いだった。
「あの時は、情けない姿を見せてしまったな」
思い出の木を見上げていると、背後から声がかけられた。
グランディール様は私の隣に立って、同じように木を眺め、目を細める。
「今は、ちゃんと自力で下りれるからな?」
「ふふ、分かっていますよ」
すっかり成長して、今では魔法を使わずとも簡単に下りることができるほどになっている。それだけの時間が過ぎたということだ。
「情けなくはあったが、あの事件がなければ君とこうして話すこともなかったのだろうな」
「そうですね。グランディール様は王子、いずれこの国を背負って立つお方です。そう簡単に近づけるような人ではありませんから」
リーネ嬢の件は別として、特別な用事や、婚約者候補にでもならない限り、日常的に会うことはできない方だ。
今日も、大事な用があるということでここに来た。早く本題に入るべきだろう。
だが、グランディール様の様子を見ていると、どうにも急いでいるようには感じられない。
「グランディール様、ここに私を呼んだのは大事な用があるからなんですよね? 私にできることであれば、お力をお貸しします。遠慮せずに仰ってください」
「何とも頼もしい、が……調子が狂うな」
苦笑しながら、グランディール様は言葉を探しているようだった。
易々と口にできないほど、深刻な問題なのだろうか。前回と違う行動をとってしまったことで、運命が変わった?
魔獣? それとも、他国との関係が悪化したとか? 色々と考えを巡らし、何がきても受け止められるよう覚悟を決める。
意を決したように、グランディール様が口を開いた。
「私の婚約者候補に君を迎え入れたい」
「…………ええと、どういうことでしょうか?」
「無理強いするつもりはない。君の人生だ、君の意志で決めてほしい」
何を言われるのかと色々と想像していたが、すべて吹き飛んでしまった。
グランディール様は真剣そのもので、とても冗談で言っている様子ではない。
「どうして、私を? それに、今になって、アミリア様は……他の方々は?」
「私には君が必要だから、だ。候補者全員と話したわけではないが、アミリアはこのことを知っている。なかなか踏み出せない私の背を押してくれたのも、彼女だからな」
しかし、グランディール様はもうすぐ卒業を控えている。ここまで婚約者を定めないというのは遅すぎるくらいだ。卒業と同時に、候補者の中から選ばれた婚約者を発表するのではないかとも噂されている。
今になって私にこの話がくるのは急すぎないだろうか。
考えていたことを読まれたように、グランディール様が言葉を続ける。
「父上と母上には心配をかけてしまうが、元から卒業後数年は婚約者を定めないつもりでいた。候補者になっても、その間に気が変わればいつでも抜けてもらって構わない。そういうきまりにしている」
なぜ先延ばしにしようとしているのかは見当がつかなかったが、期限にまだ猶予があることは分かった。
数年の間、私を婚約者候補に留めることに、何か理由があるのかもしれない。
私が必要……というと、このホロウの力が、だろうか。もしかして、学園を卒業してすぐ、私がこの国を離れないように?
エルメラド王国は、私がホロウだからといって特別制限を設けたりはしていない。何かしら国に留めておきたい理由があっても、表立っては言いにくいのかもしれない。
元々この国を出るつもりはないので、婚約者候補という肩書きがなくとも心配はいらないのだが。私が再び宮廷魔導師になれば、それは証明できるだろう。
しかし、それはまだ数年先の話。それまでの間、私が候補になることでグランディール様たちを安心させることができるのなら。
「養父とも相談しなければなりませんが、それがグランディール様の助けになるのなら」
「私のことはいい。君は、本当にそれでいいのか?」
確かめるように、グランディール様に問われる。
かつて見ることの叶わなかった、グランディール様の治めるエルメラド王国。失われてしまった未来。
時間が巻き戻ってからというもの、私はそれを見てみたいと思うようになった。
「未来のエルメラド王国の力になりたい。それが私の夢なんです」
この国が、この国に生きる人々が好きだ。
滅んだ世界で過ごした二十年ほどの年月。出会った人々との思い出は、かけがえのないものだった。
両親、幼馴染、学園のみんな、宮廷魔導師時代にお世話になった人たち……。
私が魔王に勝つことができていたら、彼らと過ごす、その先の未来もあったのだろう。
数年後に再び相見えることになるだろう魔王の存在。かつて、全力をもってしても敵わなかった相手。
滅びの運命に抗うために、力はつけてきたつもりだ。だが、それでも対等に渡り合えるかどうか。
また世界が滅ぶという最悪の事態だけは避けたい。そのために、全身全霊をかけることになっても。
たとえ、自分の目で見ることは叶わなくても、今度こそ未来を守りたいと思うのだ。
リーネ嬢の件も収束し、卒業式も間近となった日のことだ。
大事な用らしく、私一人で来てほしいとのこと。しかも、場所は学園内ではなくお城の中庭。個人的に呼ばれること自体珍しいが、ますます意図が掴めなかった。
卒業式の準備のため、最近は午後の授業はお休みとなっている。だから、お城に行くことは不可能ではない。
疑問に思いつつも、久しぶりに足を運ぶこととなった。
王立図書館には頻繁に出入りさせていただくようになったけど、中庭に来るのはいつぶりだろうか。
指定された場所で辺りを眺めていると、幼い日の記憶が鮮明に蘇ってくる。
私がホロウの称号を戴いた日、グランディール様と初めて会った日のことだ。
木に登って下りれなくなっていた彼のことを魔法で助けたのが、初めての出会いだった。
「あの時は、情けない姿を見せてしまったな」
思い出の木を見上げていると、背後から声がかけられた。
グランディール様は私の隣に立って、同じように木を眺め、目を細める。
「今は、ちゃんと自力で下りれるからな?」
「ふふ、分かっていますよ」
すっかり成長して、今では魔法を使わずとも簡単に下りることができるほどになっている。それだけの時間が過ぎたということだ。
「情けなくはあったが、あの事件がなければ君とこうして話すこともなかったのだろうな」
「そうですね。グランディール様は王子、いずれこの国を背負って立つお方です。そう簡単に近づけるような人ではありませんから」
リーネ嬢の件は別として、特別な用事や、婚約者候補にでもならない限り、日常的に会うことはできない方だ。
今日も、大事な用があるということでここに来た。早く本題に入るべきだろう。
だが、グランディール様の様子を見ていると、どうにも急いでいるようには感じられない。
「グランディール様、ここに私を呼んだのは大事な用があるからなんですよね? 私にできることであれば、お力をお貸しします。遠慮せずに仰ってください」
「何とも頼もしい、が……調子が狂うな」
苦笑しながら、グランディール様は言葉を探しているようだった。
易々と口にできないほど、深刻な問題なのだろうか。前回と違う行動をとってしまったことで、運命が変わった?
魔獣? それとも、他国との関係が悪化したとか? 色々と考えを巡らし、何がきても受け止められるよう覚悟を決める。
意を決したように、グランディール様が口を開いた。
「私の婚約者候補に君を迎え入れたい」
「…………ええと、どういうことでしょうか?」
「無理強いするつもりはない。君の人生だ、君の意志で決めてほしい」
何を言われるのかと色々と想像していたが、すべて吹き飛んでしまった。
グランディール様は真剣そのもので、とても冗談で言っている様子ではない。
「どうして、私を? それに、今になって、アミリア様は……他の方々は?」
「私には君が必要だから、だ。候補者全員と話したわけではないが、アミリアはこのことを知っている。なかなか踏み出せない私の背を押してくれたのも、彼女だからな」
しかし、グランディール様はもうすぐ卒業を控えている。ここまで婚約者を定めないというのは遅すぎるくらいだ。卒業と同時に、候補者の中から選ばれた婚約者を発表するのではないかとも噂されている。
今になって私にこの話がくるのは急すぎないだろうか。
考えていたことを読まれたように、グランディール様が言葉を続ける。
「父上と母上には心配をかけてしまうが、元から卒業後数年は婚約者を定めないつもりでいた。候補者になっても、その間に気が変わればいつでも抜けてもらって構わない。そういうきまりにしている」
なぜ先延ばしにしようとしているのかは見当がつかなかったが、期限にまだ猶予があることは分かった。
数年の間、私を婚約者候補に留めることに、何か理由があるのかもしれない。
私が必要……というと、このホロウの力が、だろうか。もしかして、学園を卒業してすぐ、私がこの国を離れないように?
エルメラド王国は、私がホロウだからといって特別制限を設けたりはしていない。何かしら国に留めておきたい理由があっても、表立っては言いにくいのかもしれない。
元々この国を出るつもりはないので、婚約者候補という肩書きがなくとも心配はいらないのだが。私が再び宮廷魔導師になれば、それは証明できるだろう。
しかし、それはまだ数年先の話。それまでの間、私が候補になることでグランディール様たちを安心させることができるのなら。
「養父とも相談しなければなりませんが、それがグランディール様の助けになるのなら」
「私のことはいい。君は、本当にそれでいいのか?」
確かめるように、グランディール様に問われる。
かつて見ることの叶わなかった、グランディール様の治めるエルメラド王国。失われてしまった未来。
時間が巻き戻ってからというもの、私はそれを見てみたいと思うようになった。
「未来のエルメラド王国の力になりたい。それが私の夢なんです」
この国が、この国に生きる人々が好きだ。
滅んだ世界で過ごした二十年ほどの年月。出会った人々との思い出は、かけがえのないものだった。
両親、幼馴染、学園のみんな、宮廷魔導師時代にお世話になった人たち……。
私が魔王に勝つことができていたら、彼らと過ごす、その先の未来もあったのだろう。
数年後に再び相見えることになるだろう魔王の存在。かつて、全力をもってしても敵わなかった相手。
滅びの運命に抗うために、力はつけてきたつもりだ。だが、それでも対等に渡り合えるかどうか。
また世界が滅ぶという最悪の事態だけは避けたい。そのために、全身全霊をかけることになっても。
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