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第2章 学園編(一年生)
17 竜の国(レオ視点)
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阿鼻叫喚、地獄絵図。
他人のふりをしていたい。でも、そしたらここを収める人間がいなくなってしまう。
お願いだから、往来で嘆き悲しむのはやめて頂戴……さっきから道行く人たちの視線が痛いのよ。お嬢様の評判にも関わりかねないから本当にやめなさい。
「二人とも、やめなさいって。お嬢様の評判が悪くなったらどうするの?」
見送りをした後、道端にくずおれるようにして、お嬢様付きのメイドであるリーファと、親友だというエルちゃんが動かなくなってしまった。
ただ旅行に行くだけだというのに、毎回こうされるのかしら? これじゃあ、お嬢様も気軽に出かけられないわよ、まったく。
「ううっ……お嬢様……」
「ルナジアざんんんん」
特にエルちゃんはこの世の終わりのような顔しちゃって。本当に世界が滅びるとしても、それまでまだ数年あるわよ!
「んもう! ガザーク家のお坊ちゃんも一緒にいるんでしょ? それなら安心じゃない」
「リトランデ様のごどは信用じでますけど、それとごれどは話が違うんでず~~」
学園内では、まるでお嬢様のボディーガードのように常に行動を共にしているというエルちゃんも今回はお留守番だ。いくら親友でも、四六時中一緒にいることの方が難しいわよ。
エルちゃんほどではないにしても、リーファ……あなたまで。
「旅先での身の回りのお世話は別の人に任せるからって……私でもよかったじゃないですか……」
すんすん、と静かに涙を流しながら、ひたすら納得いきませんと呟き続けている。ファブラス家から一緒について来た使用人同士、行動を共にすることも多い。お嬢様にリーファは旅行に連れて行かないと告げられてから、ずっとこの調子だ。延々と聞かされるアタシの身にもなって頂戴。
「終わったことをいつまでも引き摺らないの!! お嬢様にはお嬢様の理由があるのよ。別にあなたのことを蔑ろにしたわけじゃない。そういう人じゃないのは、あなた自身が一番分かってるでしょ?」
そんなこと、リーファも頭では分かってるんだろうけど、気持ちが追いついてないのね。小さい頃から身の回りの世話をしてきたんだもの、年の離れた妹とか、娘の感覚なんでしょう。
「ぞの意見には賛同じまず。ルナジアざんは、ぞんな人じゃありまぜん。私も一緒に行げなかっだごどは泣く泣く諦めまじだ……でも、でも、離れるのは心配だじ、寂じいんでずよぉぉぉ!! レオざんは、何で平気なんでずがぁぁぁ……」
涙で顔をぐちゃぐちゃにして縋ってくるエルちゃんに、思わず後ずさる。重い、さすがに重いわよ……アタシには扱いきれないわ。この子相手によくやるわね、お嬢様。
ハンカチを押し付けてビシッと言ってやる。
「ああもう、これで涙拭きなさい! アタシだって寂しいわよ。でも、悲しんだって何か変わるわけでもないでしょ? それなら、お嬢様が帰ってくるまでに料理の腕を磨いておいた方が何倍も有意義だわ」
この世界は魔王によって滅ぼされる。あのお嬢様でも敵わなかった相手だ。記憶があっても、料理人でしかないアタシに魔王をどうにかすることなんて到底不可能だ。
もし出来ることがあるとしたら、料理の腕を磨くこと。食事は魔導師の魔力供給には欠かせないものだ。折角なら、美味しい方が力も出そうじゃない?
直接力にはなれなくとも、裏からお嬢様を支えることはできる。
運命が変わらないのだとしても、やることは変わらない。世界が滅ぶまでに、お嬢様にはたくさん美味しいものを食べて、笑ってほしい。ファブラス家の料理人になってから、アタシが望むのはそれくらいね。
また料理人としてやっていこうと思えたのは、お嬢様のお陰なんだから。感謝してるのよ。
「ほら、そろそろお昼だし、何か作ってあげるわ。今日はお嬢様がいないから、あなたたちのリクエストに応えてあげる」
「「オムライスで」」
「すっかりお嬢様の好みに染まっちゃってるわね……でもいいわ、少し待ってなさい。作ってる間に、少し気持ちを落ち着けておくのよ?」
即答した二人に、くすりと笑ってしまう。この状況で迷いなくお嬢様の好物を選んだところは流石ブレない。以前のアタシが避けていた料理だけど、今では週に一回は必ず作っているかしら?
本来なら出会うことのなかったはずの二人。お嬢様が引き合わせてくれた、不思議な巡り合わせ。立場も考えも違うのに、皆お嬢様が大切なのは同じなのね。
お嬢様は人を大切にするから、その分こっちも返そうって気になるのよ。無意識でやってるんでしょうけど、人の心を掴む才能がある。
アタシだけじゃ、この二人をずっと宥めておくのは不可能だわ。帰ってくるの待ってるわよ、お嬢様。
他人のふりをしていたい。でも、そしたらここを収める人間がいなくなってしまう。
お願いだから、往来で嘆き悲しむのはやめて頂戴……さっきから道行く人たちの視線が痛いのよ。お嬢様の評判にも関わりかねないから本当にやめなさい。
「二人とも、やめなさいって。お嬢様の評判が悪くなったらどうするの?」
見送りをした後、道端にくずおれるようにして、お嬢様付きのメイドであるリーファと、親友だというエルちゃんが動かなくなってしまった。
ただ旅行に行くだけだというのに、毎回こうされるのかしら? これじゃあ、お嬢様も気軽に出かけられないわよ、まったく。
「ううっ……お嬢様……」
「ルナジアざんんんん」
特にエルちゃんはこの世の終わりのような顔しちゃって。本当に世界が滅びるとしても、それまでまだ数年あるわよ!
「んもう! ガザーク家のお坊ちゃんも一緒にいるんでしょ? それなら安心じゃない」
「リトランデ様のごどは信用じでますけど、それとごれどは話が違うんでず~~」
学園内では、まるでお嬢様のボディーガードのように常に行動を共にしているというエルちゃんも今回はお留守番だ。いくら親友でも、四六時中一緒にいることの方が難しいわよ。
エルちゃんほどではないにしても、リーファ……あなたまで。
「旅先での身の回りのお世話は別の人に任せるからって……私でもよかったじゃないですか……」
すんすん、と静かに涙を流しながら、ひたすら納得いきませんと呟き続けている。ファブラス家から一緒について来た使用人同士、行動を共にすることも多い。お嬢様にリーファは旅行に連れて行かないと告げられてから、ずっとこの調子だ。延々と聞かされるアタシの身にもなって頂戴。
「終わったことをいつまでも引き摺らないの!! お嬢様にはお嬢様の理由があるのよ。別にあなたのことを蔑ろにしたわけじゃない。そういう人じゃないのは、あなた自身が一番分かってるでしょ?」
そんなこと、リーファも頭では分かってるんだろうけど、気持ちが追いついてないのね。小さい頃から身の回りの世話をしてきたんだもの、年の離れた妹とか、娘の感覚なんでしょう。
「ぞの意見には賛同じまず。ルナジアざんは、ぞんな人じゃありまぜん。私も一緒に行げなかっだごどは泣く泣く諦めまじだ……でも、でも、離れるのは心配だじ、寂じいんでずよぉぉぉ!! レオざんは、何で平気なんでずがぁぁぁ……」
涙で顔をぐちゃぐちゃにして縋ってくるエルちゃんに、思わず後ずさる。重い、さすがに重いわよ……アタシには扱いきれないわ。この子相手によくやるわね、お嬢様。
ハンカチを押し付けてビシッと言ってやる。
「ああもう、これで涙拭きなさい! アタシだって寂しいわよ。でも、悲しんだって何か変わるわけでもないでしょ? それなら、お嬢様が帰ってくるまでに料理の腕を磨いておいた方が何倍も有意義だわ」
この世界は魔王によって滅ぼされる。あのお嬢様でも敵わなかった相手だ。記憶があっても、料理人でしかないアタシに魔王をどうにかすることなんて到底不可能だ。
もし出来ることがあるとしたら、料理の腕を磨くこと。食事は魔導師の魔力供給には欠かせないものだ。折角なら、美味しい方が力も出そうじゃない?
直接力にはなれなくとも、裏からお嬢様を支えることはできる。
運命が変わらないのだとしても、やることは変わらない。世界が滅ぶまでに、お嬢様にはたくさん美味しいものを食べて、笑ってほしい。ファブラス家の料理人になってから、アタシが望むのはそれくらいね。
また料理人としてやっていこうと思えたのは、お嬢様のお陰なんだから。感謝してるのよ。
「ほら、そろそろお昼だし、何か作ってあげるわ。今日はお嬢様がいないから、あなたたちのリクエストに応えてあげる」
「「オムライスで」」
「すっかりお嬢様の好みに染まっちゃってるわね……でもいいわ、少し待ってなさい。作ってる間に、少し気持ちを落ち着けておくのよ?」
即答した二人に、くすりと笑ってしまう。この状況で迷いなくお嬢様の好物を選んだところは流石ブレない。以前のアタシが避けていた料理だけど、今では週に一回は必ず作っているかしら?
本来なら出会うことのなかったはずの二人。お嬢様が引き合わせてくれた、不思議な巡り合わせ。立場も考えも違うのに、皆お嬢様が大切なのは同じなのね。
お嬢様は人を大切にするから、その分こっちも返そうって気になるのよ。無意識でやってるんでしょうけど、人の心を掴む才能がある。
アタシだけじゃ、この二人をずっと宥めておくのは不可能だわ。帰ってくるの待ってるわよ、お嬢様。
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