神に愛された宮廷魔導士

桜花シキ

文字の大きさ
上 下
41 / 171
第2章 学園編(一年生)

13 エルメラド王立学園3

しおりを挟む
 入学式当日。
 寮は学園と隣接しているので遅刻する心配はそうそうない。
 だから、焦って早く出発する必要もないのだが、式の会場の入場開始三時間前からアミリア様のノック音が部屋に響いていた。

「ごきげんよう! まだ寝てらっしゃるのかしら?」

 けたたましく扉を叩く音と、それを諌める従者の声がする。

「おはようございます、アミリア様。申し訳ありません、まだ準備が終わっていないもので……」

 リーファに手伝って貰いながら着替えなどをしていたところだったため、失礼に当たると思いながらもドア越しに返事をする。

「そう、なら数分差し上げますわ。早く支度して、学園へ参りますわよ」
「えっ、でもまだ会場は開かないんじゃ……。もう少し時間がかかりそうなので、先に行っていただいた方がいいかもしれません。お待たせしても申し訳ないので」
「……お黙りなさい! 私が時間を把握していないとでも? き、緊張していてもたってもいられなかったとか、そういうことじゃありませんのよ!? あなたと一緒に登校したくて待っていたとかでも、絶対絶対ありませんから!!」

 早口でまくし立てられ、何も言い返せなくなってしまった。

「お嬢様、昨日から楽しみにしていたみたいで。ご友人と登校できるからって」
「お黙りなさい!!」

 従者の言葉をアミリア様が一喝する。
 プリンシア公爵家のパーティー以来、ガザーク家のお茶会でばったり顔を合わせたりして交流はあったが、随分と距離が縮まったものだ。以前のように衝突するよりは断然よいのだけれど。

「分かりました、すぐ準備するのでお部屋の方でお待ちいただけますか? 私の方から再度お伺いいたします」

 それでようやく納得したのか、一言二言零してから足音が遠ざかっていった。

「お嬢様、いつの間に仲良く? なったのですか?」

 私もそこはよく分からないんだよね。以前のアミリア様を知っているから先入観があるせいかもしれないけど、他の令嬢に対してここまで親しげに接してくる方だっただろうか。不思議そうな顔をするリーファに明確な返答もできなかった。険悪な雰囲気になるよりはいいのだから、深く気にしても仕方がないだろう。
 あまり待たせてもいけないので、手早く準備をしてアミリア様の元へ向かった。


 かなり余裕をもって学園へ向かった私とアミリア様は、時間よりだいぶ早いが入学式が行われる会場に入れてもらっていた。公爵家のご令嬢を外に立たせておくわけにはいかないと、学園の人たちが慌てて開錠してくれたのだった。

「あなた、新入生代表挨拶があるでしょう。今のうちに確認しておいたらいかが?」
「あれ、私言いました?」
「だ、代表挨拶は試験の結果が一番良かった生徒が行うものでしょう。私が把握していないとでも?」
「な、なるほど失礼いたしました。もしかして、私が先に会場の様子を確認できるように、わざわざこの時間に?」
「そ、その通りですわ! 感謝なさい!」

 まさか、私のことを気にかけてくれていたとは。

「お嬢様、あまり見栄を張らない方がよろしいですよ。今、思いついただけでしょう」
「お黙りなさい!」

 と、思ったが従者の方が否定しているね。
 でも、アミリア様の言う通り、先に会場を確認できた方が安心できる。以前の私も同じことを体験しているが、流石に年数が経って忘れているところもあるからね。

 シミュレーションをしながら時間が来るのを待っていると、ぽつりぽつりと生徒たちが集まってきた。アル様やエルの姿も確認できたが、二人とも科が違うので席が遠い。話すのは式が終わってからになりそうだ。
 入学式開始の時間には、会場いっぱいに人が収まっていた。新入生が揃ったあと、在校生も入場してくる。人数が多いので、こちらは式に関係のある生徒に限られるが。

 新入生代表挨拶のため、他の新入生たちとは待機場所が異なっていた私は、生徒会長挨拶を任されていたグランディール様と顔を合わせることになった。時間が巻き戻る以前もそうだったから、あまり驚きはしない。

「入学おめでとう。これからもよろしく頼む」

 すっかり成長したグランディール様は、王族の威厳というか、オーラが凄かった。幼いころからその片鱗はあったけど、やはり王の器というか。

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「困ったことがあれば、遠慮なく言ってほしい。出来得る限り力になろう。リトランデの方が話しやすいのなら、彼を通してでも構わない」
「それは心強いですね。ありがとうございます」
「君が抱えているものは、誰よりも重いと思う。どうか一人で抱えて悩むことのないように。ここになら、君が頼れる人たちがたくさんいるはずだ。だから‥‥‥」

 うーん、国を背負っていかなくてはならないグランディール様の方が重責だと思うんだけどね。自分よりも人のことを心配してくれるのは相変わらずだ。
 でも、そのせいで彼が苦しそうな顔をするのは、見ていていいものではない。

「ご心配ありがとうございます。やっぱりお優しいですね。そんな顔をなさらないでください。グランディール様も、何かあれば遠慮なく申し付けてくださいね。魔獣関係とか、そういう方面でなら少しは役に立てるかと思うので」
「君も変わらないな‥‥‥」
「グランディール様?」
「ありがとう。気持ちだけ受け取っておくよ。難しいことを考える必要はないから、学園生活を楽しんで」

 難しい顔をしているのはグランディール様の方だ。
 笑っているのに、どうして泣きそうなんだろう。前よりも彼は笑うようになった。でも、その笑顔に苦しさが混ざるようになったのは、なぜ。
 私は、今度こそこの国を守らなくてはと頑張ってきたし、これからもそうするつもりだ。グランディール様が王として治める国を魔王に破壊させないために。でも、グランディール様は私が知らない問題をもっと抱えているのかもしれない。私なんかでは解決できないようなことを。
 生徒会長挨拶に呼ばれて行ったグランディール様の背中を見送りながら、胸の奥がぎゅっと締め付けられる思いだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

もうあなたを離さない

梅雨の人
恋愛
幸せ真っただ中の夫婦に突如訪れた異変。 ある日夫がレズリーという女を屋敷に連れてきたことから、決定的にその幸せは崩れていく。 夫は本当に心変わりしたのか、それとも…。 幸せ夫婦を襲った悲劇とやり直しの物語。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

【完結】悪女のなみだ

じじ
恋愛
「カリーナがまたカレンを泣かせてる」 双子の姉妹にも関わらず、私はいつも嫌われる側だった。 カレン、私の妹。 私とよく似た顔立ちなのに、彼女の目尻は優しげに下がり、微笑み一つで天使のようだともてはやされ、涙をこぼせば聖女のようだ崇められた。 一方の私は、切れ長の目でどう見ても性格がきつく見える。にこやかに笑ったつもりでも悪巧みをしていると謗られ、泣くと男を篭絡するつもりか、と非難された。 「ふふ。姉様って本当にかわいそう。気が弱いくせに、顔のせいで悪者になるんだもの。」 私が言い返せないのを知って、馬鹿にしてくる妹をどうすれば良かったのか。 「お前みたいな女が姉だなんてカレンがかわいそうだ」 罵ってくる男達にどう言えば真実が伝わったのか。 本当の自分を誰かに知ってもらおうなんて望みを捨てて、日々淡々と過ごしていた私を救ってくれたのは、あなただった。

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

私と一緒にいることが苦痛だったと言われ、その日から夫は家に帰らなくなりました。

田太 優
恋愛
結婚して1年も経っていないというのに朝帰りを繰り返す夫。 結婚すれば変わってくれると信じていた私が間違っていた。 だからもう離婚を考えてもいいと思う。 夫に離婚の意思を告げたところ、返ってきたのは私を深く傷つける言葉だった。

処理中です...