42 / 171
第2章 学園編(一年生)
14 魔術暴走
しおりを挟む
入学式の次の日から、早速授業が開始した。
その合間の休み時間にエルと話していたのだが、授業開始ギリギリになっても動こうとしない。
「ルナシアさんと離れ離れになるのが辛いです……学生寮も別々ですし……」
式が終了してから時間の許す限りは一緒にいたのだが、騎士科のエルとは受けなければならない授業が異なる。
以前も別々に受けていたのだが、今回は前よりも粘っている気がする。寮が別々になったことが原因かもしれない。
私も寂しいけど、こればかりはどうしようもない。
「休み時間になら会えるから、そんな顔しなくても大丈夫だよ。私も頑張るから、エルもしっかり授業受けてきて」
授業がもうすぐ始まるというのに、なかなかエルはその場を動こうとしなかった。流石に初回から遅刻はまずいよ。
「あっ、エルさん! やっぱり、こんなところに。姿が見えないから、もしやルナシアさんのところじゃないかと思って来てみれば。授業に遅れますよ」
きょろきょろと辺りを見回しながら早足で歩いていたアルランデ様が、エルを見つけて声を上げる。
授業開始ギリギリになっても姿を現さないことを心配して迎えに来てくれたようだ。
今まであまり接点のなかった二人だが、入学式の後、どちらも私の友達ということで知り合った。闘技大会の時、準優勝していた人だとアルランデ様が気づいてからは、しばらくその話題で盛り上がったそうだ。
兄のリトランデ様とは一緒に騎士団で訓練をしている仲だし、話題には事欠かないだろう。
私も騎士科の授業には参加できないので、エルを気にかけてくれる騎士科の友人がいるのは心強い。
「このままだと、あなただけでなくルナシアさんまで遅刻してしまいます。それでもいいんですか?」
「そう、ですね……分かりました。では、また次の休み時間に」
何度も振り返りながら、それでもようやくエルは自分の授業を受けに行った。
「やっと行きましたか」
エルがいなくなった頃合いを見計らって、やれやれとアミリア様が姿を現した。
エルとアミリア様に何があったのかは知らないが、お互いに顔を合わせれば凄い顔で睨み合っている。
何かあったのかと聞いてみても、どちらも「あっちが睨んでくるから」と返されるだけだった。そういうところは似てるんだけどね。
そりが合わないのか、お互いに距離をとっているようだった。隠れて近くにはいるみたいだけど。
「まったく、ああもべったり張り付くことはないでしょうに。これだから一般市民は……」
「私も元は一般市民ですよ」
「む……一般市民と言ったのは取り消しますわ。あの銀狼の騎士が特殊でしたわね。でも、あなたはあなたで、もっと強く注意すべきではありませんの?」
「エルとは幼馴染ですし、あれが普通になっていたもので……確かに、それで授業にまで支障が出るようなら考えます」
「相変わらず甘い人ですこと」
口を尖らせて、アミリア様はそっぽを向いてしまう。
口調は厳しいものの、距離感はすっかり友人のそれだ。
アミリア様と、こうして一緒に授業を受けることになるとは。以前なら考えられなかった。
今日は、自分の魔法の実力を測る。怪しげな道具が並んだ訓練場に集められ、魔力量や相性のよい属性など、必要な項目を埋めていく。この道具は、測定の際に使用する特殊な魔道具だ。
入学式のときからアミリア様と一緒にいるので、皆からの視線が集まるのは仕方がない。公爵家のご令嬢で、グランディール様の婚約者候補筆頭だからね。知らない人はいないだろう。
だが、アミリア様の他に、一際目を引く少女がいた。
魔法科の同級生にあたる彼女は、新入生の中で一番の有名人だった。話題性でいえば、彼女に勝る者はいないだろう。
グレース・テラ・エルメラド第一王女。
黄金色の柔らかな髪を頭の両脇で結わえ、澄んだエメラルドグリーンの瞳をもつ少女。グランディール様の妹にあたる方だ。
王族でありながら近寄りがたい雰囲気はなく、国民からの人気も高い。
人好きのする笑顔が特徴的な、天真爛漫な彼女は、かつて私の友人でもあった。
グレース様が誰とでもすぐ打ち解けられる性格をしているといっても、一般市民で何の関わりもなかった私が、彼女と友達になれるとは夢にも思っていなかった。
よほどのことがない限り、彼女とは知り合うこともなく終わっていたかもしれない。
では、何が私たちを結びつけたのか。
そのきっかけとなった事件が、この初回授業で起こる。
王家の人間は、遺伝的に平均より上の魔力量をもって生まれてくることが多いといわれている。彼女もその例に漏れず、歴代の王族の中でもトップクラスの魔術の才を誇っていた。
得意とするのは攻撃魔法全般で、様々な属性にも広く対応している。
幼い頃から魔法の特訓もしてきているので、自分の腕には自信があった。
だから、初回の授業で張り切り過ぎて、自分でも制御できない魔法を使ってしまった。
のちのち、彼女はそんなことを話していた。
魔術暴走。
それがまた、再現されようとしていた。
その合間の休み時間にエルと話していたのだが、授業開始ギリギリになっても動こうとしない。
「ルナシアさんと離れ離れになるのが辛いです……学生寮も別々ですし……」
式が終了してから時間の許す限りは一緒にいたのだが、騎士科のエルとは受けなければならない授業が異なる。
以前も別々に受けていたのだが、今回は前よりも粘っている気がする。寮が別々になったことが原因かもしれない。
私も寂しいけど、こればかりはどうしようもない。
「休み時間になら会えるから、そんな顔しなくても大丈夫だよ。私も頑張るから、エルもしっかり授業受けてきて」
授業がもうすぐ始まるというのに、なかなかエルはその場を動こうとしなかった。流石に初回から遅刻はまずいよ。
「あっ、エルさん! やっぱり、こんなところに。姿が見えないから、もしやルナシアさんのところじゃないかと思って来てみれば。授業に遅れますよ」
きょろきょろと辺りを見回しながら早足で歩いていたアルランデ様が、エルを見つけて声を上げる。
授業開始ギリギリになっても姿を現さないことを心配して迎えに来てくれたようだ。
今まであまり接点のなかった二人だが、入学式の後、どちらも私の友達ということで知り合った。闘技大会の時、準優勝していた人だとアルランデ様が気づいてからは、しばらくその話題で盛り上がったそうだ。
兄のリトランデ様とは一緒に騎士団で訓練をしている仲だし、話題には事欠かないだろう。
私も騎士科の授業には参加できないので、エルを気にかけてくれる騎士科の友人がいるのは心強い。
「このままだと、あなただけでなくルナシアさんまで遅刻してしまいます。それでもいいんですか?」
「そう、ですね……分かりました。では、また次の休み時間に」
何度も振り返りながら、それでもようやくエルは自分の授業を受けに行った。
「やっと行きましたか」
エルがいなくなった頃合いを見計らって、やれやれとアミリア様が姿を現した。
エルとアミリア様に何があったのかは知らないが、お互いに顔を合わせれば凄い顔で睨み合っている。
何かあったのかと聞いてみても、どちらも「あっちが睨んでくるから」と返されるだけだった。そういうところは似てるんだけどね。
そりが合わないのか、お互いに距離をとっているようだった。隠れて近くにはいるみたいだけど。
「まったく、ああもべったり張り付くことはないでしょうに。これだから一般市民は……」
「私も元は一般市民ですよ」
「む……一般市民と言ったのは取り消しますわ。あの銀狼の騎士が特殊でしたわね。でも、あなたはあなたで、もっと強く注意すべきではありませんの?」
「エルとは幼馴染ですし、あれが普通になっていたもので……確かに、それで授業にまで支障が出るようなら考えます」
「相変わらず甘い人ですこと」
口を尖らせて、アミリア様はそっぽを向いてしまう。
口調は厳しいものの、距離感はすっかり友人のそれだ。
アミリア様と、こうして一緒に授業を受けることになるとは。以前なら考えられなかった。
今日は、自分の魔法の実力を測る。怪しげな道具が並んだ訓練場に集められ、魔力量や相性のよい属性など、必要な項目を埋めていく。この道具は、測定の際に使用する特殊な魔道具だ。
入学式のときからアミリア様と一緒にいるので、皆からの視線が集まるのは仕方がない。公爵家のご令嬢で、グランディール様の婚約者候補筆頭だからね。知らない人はいないだろう。
だが、アミリア様の他に、一際目を引く少女がいた。
魔法科の同級生にあたる彼女は、新入生の中で一番の有名人だった。話題性でいえば、彼女に勝る者はいないだろう。
グレース・テラ・エルメラド第一王女。
黄金色の柔らかな髪を頭の両脇で結わえ、澄んだエメラルドグリーンの瞳をもつ少女。グランディール様の妹にあたる方だ。
王族でありながら近寄りがたい雰囲気はなく、国民からの人気も高い。
人好きのする笑顔が特徴的な、天真爛漫な彼女は、かつて私の友人でもあった。
グレース様が誰とでもすぐ打ち解けられる性格をしているといっても、一般市民で何の関わりもなかった私が、彼女と友達になれるとは夢にも思っていなかった。
よほどのことがない限り、彼女とは知り合うこともなく終わっていたかもしれない。
では、何が私たちを結びつけたのか。
そのきっかけとなった事件が、この初回授業で起こる。
王家の人間は、遺伝的に平均より上の魔力量をもって生まれてくることが多いといわれている。彼女もその例に漏れず、歴代の王族の中でもトップクラスの魔術の才を誇っていた。
得意とするのは攻撃魔法全般で、様々な属性にも広く対応している。
幼い頃から魔法の特訓もしてきているので、自分の腕には自信があった。
だから、初回の授業で張り切り過ぎて、自分でも制御できない魔法を使ってしまった。
のちのち、彼女はそんなことを話していた。
魔術暴走。
それがまた、再現されようとしていた。
0
お気に入りに追加
662
あなたにおすすめの小説
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
もう彼女でいいじゃないですか
キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。
常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。
幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。
だからわたしは行動する。
わたしから婚約者を自由にするために。
わたしが自由を手にするために。
残酷な表現はありませんが、
性的なワードが幾つが出てきます。
苦手な方は回れ右をお願いします。
小説家になろうさんの方では
ifストーリーを投稿しております。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?
真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる