神に愛された宮廷魔導士

桜花シキ

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第2章 学園編(一年生)

14 魔術暴走

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 入学式の次の日から、早速授業が開始した。
 その合間の休み時間にエルと話していたのだが、授業開始ギリギリになっても動こうとしない。

「ルナシアさんと離れ離れになるのが辛いです……学生寮も別々ですし……」

 式が終了してから時間の許す限りは一緒にいたのだが、騎士科のエルとは受けなければならない授業が異なる。
 以前も別々に受けていたのだが、今回は前よりも粘っている気がする。寮が別々になったことが原因かもしれない。
 私も寂しいけど、こればかりはどうしようもない。

「休み時間になら会えるから、そんな顔しなくても大丈夫だよ。私も頑張るから、エルもしっかり授業受けてきて」

 授業がもうすぐ始まるというのに、なかなかエルはその場を動こうとしなかった。流石に初回から遅刻はまずいよ。

「あっ、エルさん! やっぱり、こんなところに。姿が見えないから、もしやルナシアさんのところじゃないかと思って来てみれば。授業に遅れますよ」

 きょろきょろと辺りを見回しながら早足で歩いていたアルランデ様が、エルを見つけて声を上げる。
 授業開始ギリギリになっても姿を現さないことを心配して迎えに来てくれたようだ。
 今まであまり接点のなかった二人だが、入学式の後、どちらも私の友達ということで知り合った。闘技大会の時、準優勝していた人だとアルランデ様が気づいてからは、しばらくその話題で盛り上がったそうだ。
 兄のリトランデ様とは一緒に騎士団で訓練をしている仲だし、話題には事欠かないだろう。
 私も騎士科の授業には参加できないので、エルを気にかけてくれる騎士科の友人がいるのは心強い。

「このままだと、あなただけでなくルナシアさんまで遅刻してしまいます。それでもいいんですか?」
「そう、ですね……分かりました。では、また次の休み時間に」

 何度も振り返りながら、それでもようやくエルは自分の授業を受けに行った。

「やっと行きましたか」

 エルがいなくなった頃合いを見計らって、やれやれとアミリア様が姿を現した。
 エルとアミリア様に何があったのかは知らないが、お互いに顔を合わせれば凄い顔で睨み合っている。
 何かあったのかと聞いてみても、どちらも「あっちが睨んでくるから」と返されるだけだった。そういうところは似てるんだけどね。
 そりが合わないのか、お互いに距離をとっているようだった。隠れて近くにはいるみたいだけど。

「まったく、ああもべったり張り付くことはないでしょうに。これだから一般市民は……」
「私も元は一般市民ですよ」
「む……一般市民と言ったのは取り消しますわ。あの銀狼の騎士が特殊でしたわね。でも、あなたはあなたで、もっと強く注意すべきではありませんの?」
「エルとは幼馴染ですし、あれが普通になっていたもので……確かに、それで授業にまで支障が出るようなら考えます」
「相変わらず甘い人ですこと」

 口を尖らせて、アミリア様はそっぽを向いてしまう。
 口調は厳しいものの、距離感はすっかり友人のそれだ。
 アミリア様と、こうして一緒に授業を受けることになるとは。以前なら考えられなかった。
 今日は、自分の魔法の実力を測る。怪しげな道具が並んだ訓練場に集められ、魔力量や相性のよい属性など、必要な項目を埋めていく。この道具は、測定の際に使用する特殊な魔道具だ。

 入学式のときからアミリア様と一緒にいるので、皆からの視線が集まるのは仕方がない。公爵家のご令嬢で、グランディール様の婚約者候補筆頭だからね。知らない人はいないだろう。

 だが、アミリア様の他に、一際目を引く少女がいた。
 魔法科の同級生にあたる彼女は、新入生の中で一番の有名人だった。話題性でいえば、彼女に勝る者はいないだろう。

 グレース・テラ・エルメラド第一王女。
 黄金色の柔らかな髪を頭の両脇で結わえ、澄んだエメラルドグリーンの瞳をもつ少女。グランディール様の妹にあたる方だ。
 王族でありながら近寄りがたい雰囲気はなく、国民からの人気も高い。
 人好きのする笑顔が特徴的な、天真爛漫な彼女は、かつて私の友人でもあった。
 グレース様が誰とでもすぐ打ち解けられる性格をしているといっても、一般市民で何の関わりもなかった私が、彼女と友達になれるとは夢にも思っていなかった。
 よほどのことがない限り、彼女とは知り合うこともなく終わっていたかもしれない。

 では、何が私たちを結びつけたのか。
 そのきっかけとなった事件が、この初回授業で起こる。

 王家の人間は、遺伝的に平均より上の魔力量をもって生まれてくることが多いといわれている。彼女もその例に漏れず、歴代の王族の中でもトップクラスの魔術の才を誇っていた。
 得意とするのは攻撃魔法全般で、様々な属性にも広く対応している。

 幼い頃から魔法の特訓もしてきているので、自分の腕には自信があった。
 だから、初回の授業で張り切り過ぎて、自分でも制御できない魔法を使ってしまった。
 のちのち、彼女はそんなことを話していた。

 魔術暴走。
 それがまた、再現されようとしていた。
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