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第1章 幼少期編
10 ご褒美2
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闘技大会の上位入賞者が集められ、お城で会食会が開かれた。グランディール様はささやかと言っていたけど、十分豪華だ。
大きなテーブルにずらりと料理が並んでいる。どれも美味しそうで、お腹が鳴らないよう気をつけるのに精一杯だ。
会場の入口から一番遠い席に国王陛下が座り、私たちはテーブルの両サイドの椅子に腰を下ろす。入賞者は陛下に近い側から座っていき、イディオなどその付き添いの人は後ろの方の席になる。
陛下に一番近い席には、リトランデ様とその兄レイリオ様が向かい合うように座っている。十歳以上の部の優勝者と大人の部の優勝者だ。私はリトランデ様の左側の席で、向かい側にはエルが座っている。近くの席にリトランデ様とエルがいたのは救いだが、グランディール様が私の左隣に、ディーン様が斜め左前の席に座っているので落ち着くことはできそうになかった。この国の王子様とかつての上司ですからね。
それでも、会食会が始まればしっかり食事は喉を通るので、さすがは私だと思う。
最初のうちは静かだったが、次第に緊張がほぐれてきたのか談笑が始まった。
「アルランデは初戦敗退か。試合は見ていたが、自分の攻撃で体勢を崩されているようでは駄目だな」
向かい側に座るリトランデ様を相手に、兄のレイリオ様は身内の戦いを厳しく評価していた。
レイリオ様は次期ガザーク家当主であり、まだ学生の身でありながら、現当主であるアレグリオ様を凌ぐほどの実力をもつという。自他共に厳しい人だ。
「決勝は良い戦いだった。七歳とは思えない戦いぶりだったな」
「兄上がひとを褒めるのは珍しいですね」
「良いものを良いと言っただけだ。ホロウを戴くだけあって、あの魔法は見事だった。それに食いついていった少女も、目を見張る身のこなしだったがな」
レイリオ様の視線が、隣に座るエルに向けられる。
「そんな、私はルナシアさんの攻撃を防ぐので精一杯でした」
恐縮したように、エルは肩をすぼめた。
「ううん、全然エルさんが捕まらないから、私も焦っちゃったよ。あの剣と魔法を組み合わせた戦い方も格好よかったね」
「ありがとうございます。私は魔力量がそれほど多くないので、ああして補助することにしか使えないのですが」
「自分に合ったスタイルを研究して編み出したんでしょう? やっぱり、エルさんはすごいよ」
エルは照れたように顔を赤らめた。
「あの、ルナシアさん。私のことは、エルでいいですよ」
「じゃあ、私のこともルナシアで」
「それは……いえ、嬉しいのですが、できれば今のままルナシアさんと呼ばせていただきたいです」
「気にすることないのに」
「私がそうしたいだけですから」
「うーん、それならいいけど……」
そういえば、以前もエルは私のことをさん付けで呼び続けていた。今の私が貴族だからというわけではないのだろう。彼女なりの考えがあるなら、強制することもない。
「兄上、私の試合はいかがだったでしょうか?」
リトランデ様の試合は、ガザーク家の中でも有望株ということで非常に人気が高かった。人だかりが凄まじく、正直ちゃんと試合を見ることはできていない。
「特に言うことはない」
その問いかけに、レイリオ様は素っ気なく返す。
「それはどういう……」
「私に言えることはない、ということだ。しばらく見ない間に強くなったな」
不安げなリトランデ様に対し、涼しげなレイリオ様の目がわずかに細められる。
褒められたのだということを理解するのに時間を要したらしく、リトランデ様はぽかんとした表情のまま固まっていた。
レイリオ様がひとを褒めるのは珍しいってさっき言ってたし、よほど素晴らしい試合だったのだろう。見れなかったのが悔やまれる。
「ルナシアさん、ルナシアさん」
リトランデ様たちのやり取りに気を取られていると、ディーン様から声をかけられた。
「ルナシアさん、私今日はあなたと話すのを楽しみにしていたんです」
キラキラした瞳で若干身を乗り出している姿は、何だか子どもみたいだね。
あの魔法は何だとか、どんな訓練をしてきたんだとか、休みなく質問された。
「ディーン、少し落ち着いて。ルナシアさんが疲れてしまいますよ」
さすがに大変だなと思い始めた時、タイミングよくグランディール様が助け舟を出してくれた。
「ああ、殿下のおっしゃる通りですね。すみません、ルナシアさん。つい興奮してしまいました。まだまだあなたの素晴らしさを語ることはできるのですが、この辺りにしておきましょう、今日のところは」
延々と語り続けそうなディーン様をすぐに止められるとは。さすがグランディール様です。
小声で「ありがとうございます」と言えば、にこりと笑い返された。グランディール様、表情豊かになりましたね。以前の記憶とは違うけど、今の方がいいと思います。
会食会も終わりにさしかかった頃、皆の話を聞くのに徹していた陛下が口を開いた。皆の視線が一斉にそちらに向けられる。
「闘技大会での健闘を讃えて、入賞者たちには褒賞を用意しよう。お前たちが欲しいものは、すでにグランディールから聞いている。準備が出来次第、すぐに贈ろう。そしてーー」
陛下の視線が手前に座る私たちに向けられる。
「リトランデ、エル、ルナシア。この三名は、このあと少し残りなさい」
その言葉に、私たち三人は顔を見合わせた。
大きなテーブルにずらりと料理が並んでいる。どれも美味しそうで、お腹が鳴らないよう気をつけるのに精一杯だ。
会場の入口から一番遠い席に国王陛下が座り、私たちはテーブルの両サイドの椅子に腰を下ろす。入賞者は陛下に近い側から座っていき、イディオなどその付き添いの人は後ろの方の席になる。
陛下に一番近い席には、リトランデ様とその兄レイリオ様が向かい合うように座っている。十歳以上の部の優勝者と大人の部の優勝者だ。私はリトランデ様の左側の席で、向かい側にはエルが座っている。近くの席にリトランデ様とエルがいたのは救いだが、グランディール様が私の左隣に、ディーン様が斜め左前の席に座っているので落ち着くことはできそうになかった。この国の王子様とかつての上司ですからね。
それでも、会食会が始まればしっかり食事は喉を通るので、さすがは私だと思う。
最初のうちは静かだったが、次第に緊張がほぐれてきたのか談笑が始まった。
「アルランデは初戦敗退か。試合は見ていたが、自分の攻撃で体勢を崩されているようでは駄目だな」
向かい側に座るリトランデ様を相手に、兄のレイリオ様は身内の戦いを厳しく評価していた。
レイリオ様は次期ガザーク家当主であり、まだ学生の身でありながら、現当主であるアレグリオ様を凌ぐほどの実力をもつという。自他共に厳しい人だ。
「決勝は良い戦いだった。七歳とは思えない戦いぶりだったな」
「兄上がひとを褒めるのは珍しいですね」
「良いものを良いと言っただけだ。ホロウを戴くだけあって、あの魔法は見事だった。それに食いついていった少女も、目を見張る身のこなしだったがな」
レイリオ様の視線が、隣に座るエルに向けられる。
「そんな、私はルナシアさんの攻撃を防ぐので精一杯でした」
恐縮したように、エルは肩をすぼめた。
「ううん、全然エルさんが捕まらないから、私も焦っちゃったよ。あの剣と魔法を組み合わせた戦い方も格好よかったね」
「ありがとうございます。私は魔力量がそれほど多くないので、ああして補助することにしか使えないのですが」
「自分に合ったスタイルを研究して編み出したんでしょう? やっぱり、エルさんはすごいよ」
エルは照れたように顔を赤らめた。
「あの、ルナシアさん。私のことは、エルでいいですよ」
「じゃあ、私のこともルナシアで」
「それは……いえ、嬉しいのですが、できれば今のままルナシアさんと呼ばせていただきたいです」
「気にすることないのに」
「私がそうしたいだけですから」
「うーん、それならいいけど……」
そういえば、以前もエルは私のことをさん付けで呼び続けていた。今の私が貴族だからというわけではないのだろう。彼女なりの考えがあるなら、強制することもない。
「兄上、私の試合はいかがだったでしょうか?」
リトランデ様の試合は、ガザーク家の中でも有望株ということで非常に人気が高かった。人だかりが凄まじく、正直ちゃんと試合を見ることはできていない。
「特に言うことはない」
その問いかけに、レイリオ様は素っ気なく返す。
「それはどういう……」
「私に言えることはない、ということだ。しばらく見ない間に強くなったな」
不安げなリトランデ様に対し、涼しげなレイリオ様の目がわずかに細められる。
褒められたのだということを理解するのに時間を要したらしく、リトランデ様はぽかんとした表情のまま固まっていた。
レイリオ様がひとを褒めるのは珍しいってさっき言ってたし、よほど素晴らしい試合だったのだろう。見れなかったのが悔やまれる。
「ルナシアさん、ルナシアさん」
リトランデ様たちのやり取りに気を取られていると、ディーン様から声をかけられた。
「ルナシアさん、私今日はあなたと話すのを楽しみにしていたんです」
キラキラした瞳で若干身を乗り出している姿は、何だか子どもみたいだね。
あの魔法は何だとか、どんな訓練をしてきたんだとか、休みなく質問された。
「ディーン、少し落ち着いて。ルナシアさんが疲れてしまいますよ」
さすがに大変だなと思い始めた時、タイミングよくグランディール様が助け舟を出してくれた。
「ああ、殿下のおっしゃる通りですね。すみません、ルナシアさん。つい興奮してしまいました。まだまだあなたの素晴らしさを語ることはできるのですが、この辺りにしておきましょう、今日のところは」
延々と語り続けそうなディーン様をすぐに止められるとは。さすがグランディール様です。
小声で「ありがとうございます」と言えば、にこりと笑い返された。グランディール様、表情豊かになりましたね。以前の記憶とは違うけど、今の方がいいと思います。
会食会も終わりにさしかかった頃、皆の話を聞くのに徹していた陛下が口を開いた。皆の視線が一斉にそちらに向けられる。
「闘技大会での健闘を讃えて、入賞者たちには褒賞を用意しよう。お前たちが欲しいものは、すでにグランディールから聞いている。準備が出来次第、すぐに贈ろう。そしてーー」
陛下の視線が手前に座る私たちに向けられる。
「リトランデ、エル、ルナシア。この三名は、このあと少し残りなさい」
その言葉に、私たち三人は顔を見合わせた。
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