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第1章 幼少期編
7 料理人急募2
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書類選考を通過した人たちには、最終試験が課せられることになった。
お養父様の出した試験内容は、分かりやすく料理対決。「ルナシアを納得させることができた者」を採用する、だそうだ。私は彼らの作った料理を食べる審査員。中身は成人しているが、見た目がこんな子どもで申し訳ない。本当にこんな子どもが自分の合否を決めるのかと不安になるよね。
試験当日、書類選考を通過した三人が屋敷に招かれた。
一人目は、ロベルトさん。三人の中では一番年上の男性。五十代半ばのダンディなおじさまだった。彼は他の貴族の家でも料理人として雇われていた経験があるらしく、三人の中では一番落ち着きがあった。
二人目は、リンダさん。三人の中で唯一の女性。年齢を聞くのは野暮だが、見た目は三十代くらいだろうか。笑顔が素敵なはつらつとした方だ。得意なのはお菓子作りだとか。
三人目は、レオさん。三人の中では最年少。二十歳の青年だった。こう言ってはなんだが、不愛想な人だ。最初の挨拶以降、他の二人が話していても黙ったままだし、怒っているようなしかめっ面をしている。
「皆さん、試験内容について何か質問はございませんか? ないようでしたら、早速準備に取り掛かっていただきたいと思います」
お養父様が号令をかけたのとほぼ同時に、廊下をばたばたと走る音がした。
「す、すみません、遅れました!」
息を切らして部屋に滑り込んできたのは、レオさんと同い年くらいのそばかすのある青年だった。
「彼も候補者の一人です。ギリギリですが、まぁいいでしょう。早く準備を」
「あ、ありがとうございます」
お養父様が身構える候補者たちを制する。
試験当日に遅刻してくるのはどうかと思うけど、何か事情があったのかもしれないね。
他の候補者たちの視線を浴びつつ、遅刻してきた青年も準備に取り掛かった。
料理が出来上がるまで、私たちは別室で待機だ。
……待機していればよかったはずなのだが。厨房で何やら問題発生の様子。
騒ぎを聞きつけ、私はお養父様に着いて急いで厨房へ向かった。
「君、何を入れようとした?」
「だ、だから、何のことですか?」
「シラを切るつもりかね? 材料はここにあるものだけを使うよう言われていたはずだ。先ほどの小瓶は毒ではないのかね?」
「ち、遅刻してきて聞いてませんでした。僕はただスパイスを足そうと思っただけで……」
「まぁいい、それなら小瓶を出してもらおう。どちらにせよ、それは今回使えないものだ。後で中身を調べてもらえばはっきりする」
「ちっ」
何やらガタガタと大きな物音が外まで聞こえてくる。穏やかじゃないね。
「アタシの前で、包丁を料理以外の目的で使おうとするなんていい度胸じゃないの!!」
ん、誰の声だ? リンダさんではないし、男性っぽい。となると、レオさん?
レオさん(?)が叫んだかと思うと、ズドン!! という重い音がした。床に叩きつけられた感じかな。
「私、お屋敷の人を呼んできます!」
厨房の扉を開けると、遅刻した青年を取り押さえる男性陣と、今にも飛び出していこうとするリンダさんの姿。何があったのかは、厨房の外まで声が響いていたので何となく察した。
ぐるりと状況を確認したお養父様は、パンと手を叩いた。
「はい、お疲れ様でした。もう結構ですよ、イディオ。料理が冷めてしまいます」
「あぁ~っぶな! 死ぬかと思ったぁ!!」
お養父様のひと声で、レオさんに羽交い締めにされていた男性ーーイディオの変身魔法が解ける。
屋敷の人間だと分かったレオさんは、驚きつつも拘束を解いた。
「もう嫌だ。苦手な料理をこの日のために必死に特訓して、形だけはそれっぽく見えるようになったのに……俺、頑張ったのに……こんな仕打ちを受けるなんて聞いてない……」
床に丸まっていじけているイディオに、レオさんが申し訳なさそうに謝る。
「な、なんか悪いことしたわね……」
「お気になさらず。この程度で根をあげる人ではありませんから」
「何でこういう時だけ辛辣なんですか、ご当主ぅ……」
「あなたの実力を信頼してお任せしたのですが」
「そういう澄んだ目で言わないでください。分かってますよぉ……」
お疲れ様でした、イディオ。試験に少し仕掛けをしておいたってお養父様が言ってたけど、こういうことだったんだね。
緊急事態にも対応できるか、それを見たかったのかもしれない。言わないけど、私は解毒魔法も習得しているので、ある程度の毒が食べ物に混入していても簡単には死なない。サバイバルでも生き残れるね。
「お見事です。よく気がつきましたね、ロベルトさん。リンダさんの助けを呼びに行く判断もよかったですね。取り押さえるところまでは想定していませんでしたが」
お養父様の言葉に、レオさんが両手で顔を覆ってしゃがみ込む。
「あぁ~もう、隠してたのに……」
先ほどの叫び声も、やはりレオさんで間違いなかったようだ。初対面時のしかめっ面が嘘のようである。
それにしても、この感じ……どこかで会ったことがある気がする。
「さて、皆さん。試験はまだ続いていますよ。よろしくお願いします、ルナシア」
イディオには、後でお菓子の差し入れでもしてあげよう。大抵の魔導師の機嫌はそれで直る。
労いは後にして、出来上がった料理を冷めないうちに頂かねば。さっきから、ずっといい匂いがしている。
お腹が叫び出す前に別室に運んでもらい、いざ実食。
お養父様の出した試験内容は、分かりやすく料理対決。「ルナシアを納得させることができた者」を採用する、だそうだ。私は彼らの作った料理を食べる審査員。中身は成人しているが、見た目がこんな子どもで申し訳ない。本当にこんな子どもが自分の合否を決めるのかと不安になるよね。
試験当日、書類選考を通過した三人が屋敷に招かれた。
一人目は、ロベルトさん。三人の中では一番年上の男性。五十代半ばのダンディなおじさまだった。彼は他の貴族の家でも料理人として雇われていた経験があるらしく、三人の中では一番落ち着きがあった。
二人目は、リンダさん。三人の中で唯一の女性。年齢を聞くのは野暮だが、見た目は三十代くらいだろうか。笑顔が素敵なはつらつとした方だ。得意なのはお菓子作りだとか。
三人目は、レオさん。三人の中では最年少。二十歳の青年だった。こう言ってはなんだが、不愛想な人だ。最初の挨拶以降、他の二人が話していても黙ったままだし、怒っているようなしかめっ面をしている。
「皆さん、試験内容について何か質問はございませんか? ないようでしたら、早速準備に取り掛かっていただきたいと思います」
お養父様が号令をかけたのとほぼ同時に、廊下をばたばたと走る音がした。
「す、すみません、遅れました!」
息を切らして部屋に滑り込んできたのは、レオさんと同い年くらいのそばかすのある青年だった。
「彼も候補者の一人です。ギリギリですが、まぁいいでしょう。早く準備を」
「あ、ありがとうございます」
お養父様が身構える候補者たちを制する。
試験当日に遅刻してくるのはどうかと思うけど、何か事情があったのかもしれないね。
他の候補者たちの視線を浴びつつ、遅刻してきた青年も準備に取り掛かった。
料理が出来上がるまで、私たちは別室で待機だ。
……待機していればよかったはずなのだが。厨房で何やら問題発生の様子。
騒ぎを聞きつけ、私はお養父様に着いて急いで厨房へ向かった。
「君、何を入れようとした?」
「だ、だから、何のことですか?」
「シラを切るつもりかね? 材料はここにあるものだけを使うよう言われていたはずだ。先ほどの小瓶は毒ではないのかね?」
「ち、遅刻してきて聞いてませんでした。僕はただスパイスを足そうと思っただけで……」
「まぁいい、それなら小瓶を出してもらおう。どちらにせよ、それは今回使えないものだ。後で中身を調べてもらえばはっきりする」
「ちっ」
何やらガタガタと大きな物音が外まで聞こえてくる。穏やかじゃないね。
「アタシの前で、包丁を料理以外の目的で使おうとするなんていい度胸じゃないの!!」
ん、誰の声だ? リンダさんではないし、男性っぽい。となると、レオさん?
レオさん(?)が叫んだかと思うと、ズドン!! という重い音がした。床に叩きつけられた感じかな。
「私、お屋敷の人を呼んできます!」
厨房の扉を開けると、遅刻した青年を取り押さえる男性陣と、今にも飛び出していこうとするリンダさんの姿。何があったのかは、厨房の外まで声が響いていたので何となく察した。
ぐるりと状況を確認したお養父様は、パンと手を叩いた。
「はい、お疲れ様でした。もう結構ですよ、イディオ。料理が冷めてしまいます」
「あぁ~っぶな! 死ぬかと思ったぁ!!」
お養父様のひと声で、レオさんに羽交い締めにされていた男性ーーイディオの変身魔法が解ける。
屋敷の人間だと分かったレオさんは、驚きつつも拘束を解いた。
「もう嫌だ。苦手な料理をこの日のために必死に特訓して、形だけはそれっぽく見えるようになったのに……俺、頑張ったのに……こんな仕打ちを受けるなんて聞いてない……」
床に丸まっていじけているイディオに、レオさんが申し訳なさそうに謝る。
「な、なんか悪いことしたわね……」
「お気になさらず。この程度で根をあげる人ではありませんから」
「何でこういう時だけ辛辣なんですか、ご当主ぅ……」
「あなたの実力を信頼してお任せしたのですが」
「そういう澄んだ目で言わないでください。分かってますよぉ……」
お疲れ様でした、イディオ。試験に少し仕掛けをしておいたってお養父様が言ってたけど、こういうことだったんだね。
緊急事態にも対応できるか、それを見たかったのかもしれない。言わないけど、私は解毒魔法も習得しているので、ある程度の毒が食べ物に混入していても簡単には死なない。サバイバルでも生き残れるね。
「お見事です。よく気がつきましたね、ロベルトさん。リンダさんの助けを呼びに行く判断もよかったですね。取り押さえるところまでは想定していませんでしたが」
お養父様の言葉に、レオさんが両手で顔を覆ってしゃがみ込む。
「あぁ~もう、隠してたのに……」
先ほどの叫び声も、やはりレオさんで間違いなかったようだ。初対面時のしかめっ面が嘘のようである。
それにしても、この感じ……どこかで会ったことがある気がする。
「さて、皆さん。試験はまだ続いていますよ。よろしくお願いします、ルナシア」
イディオには、後でお菓子の差し入れでもしてあげよう。大抵の魔導師の機嫌はそれで直る。
労いは後にして、出来上がった料理を冷めないうちに頂かねば。さっきから、ずっといい匂いがしている。
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