神に愛された宮廷魔導士

桜花シキ

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第1章 幼少期編

7 料理人急募

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 ファブラス家にやってきて間もなく、私は正式にファブラス家の養女となった。イーズ様は父になるわけだ。これで、他の貴族たちからの打診もなくなるだろう。

 実の両親は城の使用人として働いているため常に一緒にいるわけにもいかないが、休憩時間や仕事終わりには会うことができる。
 イーズ様も両親も忙しくしているが、その間、私と一緒にいてくれる人が必ずいるので、生活に不自由はしなかった。

「お嬢様」

 あれ以来、何かとイディオさんが私の世話を焼いてくれるようになった。とはいえ、彼の生活力のなさは初日にして明らかだったので、屋敷の案内など彼でもできる範囲には限られるのだが。
 ファブラス家には、イディオさんのような魔導士が何人も雇われている。当主であり魔術研究者でもあるイーズ様のお手伝いをするのが仕事だが、普段は各々好きなように自分の研究に没頭しているらしい。うるさく口出しもされないので、魔導士たちにとっては理想の就職先とも言われているそうだ。

 イディオさんによると、イーズ様はとても優秀な魔導士らしい。本当なら宮廷魔導士としてお呼びがかかっても不思議ではないのに、当主の仕事があるから、他に優秀な人を知っているからそちらを紹介する、などのらりくらりとかわし続けているそうだ。
 普段は各々好きなように生きているファブラス家の魔導師たちも、当主の命令があればちゃんと働くとのこと。イーズ様の力を認めているからだろう。

「そういえば、お嬢様の家庭教師を俺が任されることになりそうなんですが、お嬢様的にはどうですか?」
「そうなんですか。よろしくお願いします、イディオさん」
「はい、女神様のご指名いただきました。頑張らせていただきます」

 うーん……その女神様っていうのは恥ずかしいからやめて欲しいんだけどな。イディオさん曰く、クッキーをもらったことに対する最大限の敬意らしいが。
 魔力切れの魔導師に食べ物を渡すと好感を持たれる。別に魔力切れでなくても、魔導師へプレゼントするなら食べ物が喜ばれることが多い。魔導師の定めだ。

「ルナシアでいいですよ?」
「お嬢様にはまだ分からないかもしれませんが、一応貴族って立場なわけですから。下々の者に敬意も払われない主人じゃ、格好がつきませんよ。俺の方こそ、さん付けは不要です」

 これからはファブラス伯爵家の人間としての振る舞いも求められる。
 以前は貴族でも何でもない一般市民として一生を終えているので、馴染むまではまだかかりそうだ。中身も子どもだったのなら、すんなり受け入れられたのかもしれないが。少しずつ慣れていくしかないだろう。

「じゃあ……よろしくお願いします、イディオ」
「はい、こちらこそ」

 イディオから屋敷での生活のことなどを聞いていると、領地の視察に出ていたイーズ様が帰ってきた。

「お帰りなさいませ。ご当主、料理人候補集まりました?」
「ええ、急な話にも関わらず応募は続々と届いていますよ」
「ご当主の人徳がなせる技か、辞めていった元料理人たちの宣伝か……まぁ、理由はどうあれひと安心ですね」

 イディオをはじめとした屋敷の魔導士たちの強い希望もあって、イーズ様は即座に新しい料理人の応募をかけた。ちゃんと人が集まるのだろうかという心配をよそに、予定よりも多い希望者が名乗りを挙げているようだ。

「書類選考である程度絞っておきますので、最終審査をルナシアさんにお願いしましょう」

 他の魔導士たちの期待も背負っているので、気合を入れていこう。ひとり静かに拳を握った。

 イーズ様の話を聞いていて、ふとイディオとの会話を思い出す。
 
「あの、イーズ様。私のことはルナシアでいいです」
「おや、それはなぜですか?」
「これからは、私もこの家の子どもだから。お父さんもお母さんもルナシアって呼ぶし、イーズ様にもそうしてもらいたいなって……」

 全面的にお世話になっているのはこちらだし、敬称を付けてもらうのは何だか落ち着かなかった。理由は子どもらしくしたつもりだが、不信感は持たれないだろうか。
 その心配はいらなかったが、イーズ様は斜め上の反応をした。

「では、私のことも様はつけなくて構いませんよ。どうぞ、イーズと」
「いやいやいや。さすがに、ご当主の名前は呼び捨てにできませんよ」

 思ったことをイディオが代弁してくれる。

「そうなのですか?」
「これ本気で言ってるんだもんな、この人。ご当主じゃなくても、親を呼び捨てにする子はあまりいませんよ」

 あまり分かっていない顔でイーズ様が首を傾げる。その様子にイディオが頭を抱えていた。
 うーん、呼び捨てにはできないし‥‥‥そうだ、家族になったんだからこう呼べばいいじゃないか。

「あの、それならお養父とう様、って呼んでもいいですか?」
「好きに呼んでくださって構いませんよ」

 表情の変化が分かりにくいけど、嫌がっている様子はなさそうだ。
 さすがにイーズ様を呼び捨てにはできないので、他に思いつく呼び方といえばこれくらいだった。

「ご当主ぅ……そこは感動のシーンじゃないんですかい……。テンション低くないですか、いつものことですけど」

 なぜかイディオが残念そうな顔をしていたけど、どうしたんだろう。イーズ様改め、お養父様と顔を見合わせて首を傾げる。
 そんな私たちを見て、イディオは「似た者親子ですねぇ」と呆れたように笑った。
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