神に愛された宮廷魔導士

桜花シキ

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第1章 幼少期編

3 ホロウの名を冠する少女(ヴァン視点)

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 せっかく蘇ったというのに、私はもう終わろうとしていた。
 後世に魔獣の問題を残したままこの世を去ってしまった私は、気づけば死の一年前に戻っていた。

 なぜ、こんな老体に戻ってしまったのか。役目を果たせなかった私へ、神が与えた罰なのだろうか。
 死んで蘇って、また死んで。永遠と悔い続けることが、私への罰なのだろうか。
 もう少し若い時代に戻れたのなら、何か解決の糸口が掴めたかもしれない。
ーーいや、そんな力が私にあっただろうか。なかったから、私はこの時代に戻されたのではないだろうか。

 よりにもよって、かつて私が「ホロウ」を授けた少女に、再びその名を言い渡さねばならなくなるとは。
 私はまた、この子に背負わせねばならないのか。死の間際まで、ずっと申し訳なく思っていた。いくらなんでも、あの子に背負わせるには若すぎた。聞けば、まだ五歳だというではないか。
 自分で判断ができるかも怪しい年齢の子に、無理矢理押し付けてしまうようなものだ。
 この子が大人になって気づいた時には、この運命から逃げられなくなっているだろう。その時に、どれほど私のことを恨むだろうか。

 だが、再び私の前に現れた少女の言葉を聞いて驚かされた。

「大丈夫ですよ、ヴァン様。あなたが謝る必要はありません。あなたは、背負わせたのではなく、繋いだのです。あとはお任せください」

 ああ、この子も私と同じなのか。記憶を持ったまま過去に戻り、何かを成そうとしている。
 私が死んだあと、この世界がどうなるかも知っているのだろうか。魔獣の問題は解決したのか?
 聞いてみたい気もするが、この子もということは、何か悔いがあったのだろう。変えたいと強く願ったのだろう。

 神がチャンスを与えたのは、私ではなくルナシア。
 確かに、この子になら、運命を変える力があるのかもしれない。
 ルナシアが何を願ったのか、それは分からない。私の懺悔など比較にならないものを抱えているのかもしれない。

 同じく記憶を持って戻ったというのに、私は力になることができない。

 では、ルナシアがいるのに私まで戻ってきた意味とは?
 最初は罰だと思ったが、これは私への救いだったのではなかろうか。
 ずっと悔いていた。自分の無力さが、子どもたちの将来を危ぶめてしまったことを。

 それを、一番の被害者であろうあの子が許してくれた。
 私のしてきたことが、あの子に繋がった。決して、今までしてきたことは無駄ではなかった。

 二度目の死は目前だが、以前よりも心は穏やかだった。
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