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28.柚子はスパイ⑦
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シーズン1 28 柚子はスパイ⑦
待ち望んだ日は、思ったよりも早くやってきた。ある夕方のことだった、夕食準備をしているお姉ちゃんに深雪さんは、
「今夜は食事はいらないよ~。夜食にたまごサンド作って欲しいな」
と声をかけていたのだ。……私も夜食にたまごサンド食べたい!あ、違う。そうじゃない!
「と言うことで、光くん!夜に張り込みをしようではないか」
「えっ?今夜?随分急やなぁ」
「だって夜に出掛けるって聞いたし、こんなチャンス2度とないかもしれないよ?」
出かけることを夕食前に知るのは初めてだった。食後に仮眠をすれば、それなりに起きていられるのではないかと私は考えていた。
「そりゃ、そうやけど……」
「じゃあ、仮眠したり準備して……22時半頃に階段に集合ね」
なんだかんだ言いつつ、私に合わせてくれる光くんは了解と返事をしてその場を去った。お屋敷のみんなは、特別な事情がなければ22時過ぎに自室へ戻っている。1番夜中までウロウロしている修斗くんの部屋は、1階だから階段で見張る分にはバレないだろう。
時刻は22時。いつも通り日記を書きながら、窓の外をチラチラ確認する。暗いから見えるわけはないけど、人が来ればそれなりに気配は感じるはずだ。そもそも、深雪さんが帰ってくるのは、正門と裏門どっちなんだろう。あーもう!いろいろが気になり過ぎて日記が書けない!
30分ってこんなに長いんだっけ?あー、22時に階段待ち合わせにすれば、この緊張感を光くんと分かち合えたのに。
「集中できないっ!」
部屋中を歩き回ったり、意味もなくベッドにダイブしてみたり、我ながら落ち着きがないなぁと思いながら過ごす。
時計の針が22時半を指したその瞬間、私は部屋の扉を開けた。……と、同時に光くんの部屋も扉が開く。2人で顔を見合わせて、静かに階段まで歩く。
「暑いなぁ……」
「もう8月だからねぇ」
いつもはもっと季節を感じるのに、今年は誘拐事件に巻き込まれたり、メイド見習いの修行をしたり、時間の流れはあっという間だった。開閉できない大きな窓があるだけの階段はとにかく暑い。
「深雪さん、何時ごろ来るんやろ?」
「うーん。この前、柚子が見たのは1時頃だったかな?シャツに血みたいな赤い何かが付いてて……」
「そっか。……夜中にそんなん見たら、柚子ちゃんもビックリしたなぁ」
「ビックリしたけど、柚子はこの謎を解き明かす使命を持ってると思ったよ!なんたって、柚子はスパイなんだから!」
グッと親指を立ててポーズを決めておく。小声なので、かっこよく決まらないのが残念だけど、それは仕方ない。
「スパイごっこ……な。柚子ちゃん、どっちかって言うと探偵やで?立花さんや結衣さんに聞き込みするんは、スパイと違うと思うなぁ」
「……え?そうなの?聞き込みしないの?」
「分からんけど……スパイは、その、何というか」
スパイと探偵って大体同じじゃないのか?両方とも謎を解き明かすんだから。
「探偵は、聞き込みやその足での追跡など表立って謎を解く。捜査していることが、わかりやすい。スパイは、対象に潜入し内側から秘密裏に得たい情報を得る。と言うイメージを俺は持っている」
私と光くんしかいないはずの階段ーー背後から聞こえるのは、最もバレてはいけない威厳に満ちた声だった。
待ち望んだ日は、思ったよりも早くやってきた。ある夕方のことだった、夕食準備をしているお姉ちゃんに深雪さんは、
「今夜は食事はいらないよ~。夜食にたまごサンド作って欲しいな」
と声をかけていたのだ。……私も夜食にたまごサンド食べたい!あ、違う。そうじゃない!
「と言うことで、光くん!夜に張り込みをしようではないか」
「えっ?今夜?随分急やなぁ」
「だって夜に出掛けるって聞いたし、こんなチャンス2度とないかもしれないよ?」
出かけることを夕食前に知るのは初めてだった。食後に仮眠をすれば、それなりに起きていられるのではないかと私は考えていた。
「そりゃ、そうやけど……」
「じゃあ、仮眠したり準備して……22時半頃に階段に集合ね」
なんだかんだ言いつつ、私に合わせてくれる光くんは了解と返事をしてその場を去った。お屋敷のみんなは、特別な事情がなければ22時過ぎに自室へ戻っている。1番夜中までウロウロしている修斗くんの部屋は、1階だから階段で見張る分にはバレないだろう。
時刻は22時。いつも通り日記を書きながら、窓の外をチラチラ確認する。暗いから見えるわけはないけど、人が来ればそれなりに気配は感じるはずだ。そもそも、深雪さんが帰ってくるのは、正門と裏門どっちなんだろう。あーもう!いろいろが気になり過ぎて日記が書けない!
30分ってこんなに長いんだっけ?あー、22時に階段待ち合わせにすれば、この緊張感を光くんと分かち合えたのに。
「集中できないっ!」
部屋中を歩き回ったり、意味もなくベッドにダイブしてみたり、我ながら落ち着きがないなぁと思いながら過ごす。
時計の針が22時半を指したその瞬間、私は部屋の扉を開けた。……と、同時に光くんの部屋も扉が開く。2人で顔を見合わせて、静かに階段まで歩く。
「暑いなぁ……」
「もう8月だからねぇ」
いつもはもっと季節を感じるのに、今年は誘拐事件に巻き込まれたり、メイド見習いの修行をしたり、時間の流れはあっという間だった。開閉できない大きな窓があるだけの階段はとにかく暑い。
「深雪さん、何時ごろ来るんやろ?」
「うーん。この前、柚子が見たのは1時頃だったかな?シャツに血みたいな赤い何かが付いてて……」
「そっか。……夜中にそんなん見たら、柚子ちゃんもビックリしたなぁ」
「ビックリしたけど、柚子はこの謎を解き明かす使命を持ってると思ったよ!なんたって、柚子はスパイなんだから!」
グッと親指を立ててポーズを決めておく。小声なので、かっこよく決まらないのが残念だけど、それは仕方ない。
「スパイごっこ……な。柚子ちゃん、どっちかって言うと探偵やで?立花さんや結衣さんに聞き込みするんは、スパイと違うと思うなぁ」
「……え?そうなの?聞き込みしないの?」
「分からんけど……スパイは、その、何というか」
スパイと探偵って大体同じじゃないのか?両方とも謎を解き明かすんだから。
「探偵は、聞き込みやその足での追跡など表立って謎を解く。捜査していることが、わかりやすい。スパイは、対象に潜入し内側から秘密裏に得たい情報を得る。と言うイメージを俺は持っている」
私と光くんしかいないはずの階段ーー背後から聞こえるのは、最もバレてはいけない威厳に満ちた声だった。
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