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27.柚子はスパイ⑥
しおりを挟む「深雪さんを調べるって……どうやって?」
「それは……これから考えるよ!光くんも一緒に考えて!」
「そう言われてもなぁ……。まずは、深雪さんが何の仕事をしとるかやな。俺が立花さんに教わっとるんとは、違うことしとるはずや」
「なるほど!じゃあ……まずは、深雪さんの仕事内容を知ることだね」
翌朝の朝食後、私はある作戦を開始することにした。
「お姉ちゃん!柚子階段掃除するねー」
「ありがとう。よろしくね」
階段掃除はお屋敷中を動き回る人を捕まえて、聞き込みするにはピッタリだ。今回私が目星をつけたのは……。
「しーつじーちょー!」
執事長こと、立花さん。階段を降りてきた彼はいきなり呼ばれて驚きつつも、踊り場で足を止めてくれた。
「どうしたの?」
「ちょっと聞きたいことがあるの!いい?」
「珍しいね。僕に答えられることなら、何でもどうぞ」
「深雪さんって、何の仕事してるの?」
爽やかな笑顔がみるみる硬直していった。……これはやっぱり!何か隠しているのか!
「そうだなぁ……。いろいろあるけど、深雪には対外的なことをお願いしているんだ。僕は一応執事長だから、屋敷に常駐していた方がいいとなると、必然的に屋敷の外での仕事は深雪に割り振ることになるんだ」
ちょっと難しい顔をしているから、本当はもっと複雑な仕事内容なんだろうけど、立花さんは随分と分かりやすい説明をしてくれている。
「ふぅーん。……でも、夜とかお出かけしてるよ?あれはなんで?」
「昼間は屋敷の仕事をしているから、他の家の執事に用事があると、必然的に夜に出掛ける事になるんだ。……柚子ちゃん、急にそんなこと聞いてどうかしたの?」
納得できるような、出来ないような理由を並べられた。そうなんだ!と言いたいけど、私は先日血がついた深雪さんを見たばかりだ。もしかしたら、立花さんも本当のことは知らないのかもしれない。
「昼間ぜーんぜん、お屋敷で見かけないし、朝帰りするから……柚子おサボりしてるんだと思ってたんだ!」
腑に落ちなくてプクッと口を膨らませると、立花さんはそんな私を見て笑っていた。
「そっかそっか。確かに、最近は朝だったり深夜に帰ってくることも多かったからね。柚子ちゃんがそう思うのも無理はないね」
もっといろいろ聞こうと思ったのに、修斗くんが立花さんを呼んで連れ去ってしまった。また階段を掃除しながら考えるーー対外的な仕事ってなんだ?あの様子だと立花さんに聞けば、まだ何かしら知っていることは話してくれるだろうけど、解答が広すぎる。他の人にも聞いてみよう。
人が違えば見える景色も、見える視点も違うのだから。
昼食後、キッチンで後片付けをするお姉ちゃんに声をかける」
「お姉ちゃんー!柚子お手伝いすることある?」
「ありがとう。お皿を拭いてくれると助かるわ」
昼食準備と夕食の下ごしらえを同時進行したらしく、お皿にボウルに水切りカゴには山のような洗い物が積まれていた。
「わかったー!」
食器を拭きながら、お姉ちゃんの様子を観察する。私とは違ってお屋敷から程近い、王都のメイド学校へ通ったお姉ちゃんーー卒業から7年ずっと一条家に仕えているし、メイド長になって3年が経過している。もしかしたら、何か知ってるかも。
「そういえば、お姉ちゃんは深雪さんってどんな仕事してるか知ってる?」
「深雪さん?さぁ……対外的なことをしているのは知っているけど」
お皿を洗う手は止めず、少し考えた様子。立花さんと答えはそう変わらなかった。怪しまれないように、質問の意図を自分の口から話す。
「そっかぁー!朝帰りするし、昼間はお屋敷にいたり、いなかったりするから……柚子おサボりしてるんだと思ってたの」
「……そう言われると、そんな風にも見えるわね。深雪さんの名誉の為に言えば、一条家は公爵家だから……執事さんの仕事も数多くあって、立花さんと仕事を分け合っているのよね。ここ最近、たまたま深雪さんが夜に出かける仕事が多いだけなのよ」
「そっかぁー」
お姉ちゃんのお手伝いを終えて、いつも通りお昼休憩の為にダイニングのソファーで横になる。さて、お昼寝を……ん?待て待て、光くんは夜に出かけるような執事の仕事は知らないって言ってたよね?公爵家だから、執事学校では習わないような仕事があるってことか、執事の仕事と言い張ってるけど執事の仕事じゃないとか?
「柚子!起きる時間だよ」
「起きてるっ!」
考え事をしていたら一睡も出来なかったじゃないか!育の声で目を開けて、身体も起こす。
「昼寝しなかったの?珍しい」
「柚子だっていろいろあるんだぁ!」
深雪さんのせいでお昼寝出来なかった、眠いーー眠いぞ。眠気と戦いつつ午後の業務をしながら私は誓った。次に深雪さんが夜間外に出る日があれば、帰りを待ち伏せしてみようと。この前みたいに、血まみれ姿なら動かぬ証拠ーー何をしているのか、本当に執事の仕事なのか。誰も教えてくれないなら、この私が暴いてやる!
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