ようこそ、一条家へ

如月はづき

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8.街へ 前編

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 ん?朝か……、カーテンから差し込む光が眩しくて目が覚める。今日は待ちに待ったお休みの日だというのに、いつもと同じ時間に起きたらしい。



「おはよぉー。お姉ちゃん何かすることある?」



「あら、柚子。おはよう。休みなのに早起きね」



 お姉ちゃんはいつもと変わらず朝食の準備をしている。今朝はオムレツらしい。



「なーんか、起きちゃってさー」



 お姉ちゃんからは特に手伝いを頼まれなかったので、キッチンにある椅子に腰掛けてお喋りを始める。



「着ていく服は決まったの?」



「うん!昨日の夜決めたよー!」



「そう。光くんと一緒だから大丈夫だと思うけど……危なくないようにね」


 お姉ちゃんは心配性だ。遠い地のメイド学校に通うことや、五十嵐家への修行だって最初は猛反対だった。1人で街に行く……なんて言えば大騒ぎされただろう、お出掛けに誘ってくれた光くんに感謝だ。





「本日、望月と柚子は休暇になる。2人が不在だがよろしく」



 朝食の席で大雅くんがみんなに伝えてくれる。



「柚子、街にお出掛けするんだー!」



「はぁ?1人でか?誰と?」



 あ、もう1人の心配性こと修斗くんにお出掛けの話を言い忘れた。光くんと出掛けること、夕食までには戻ることを合わせて伝える。



「ほぉー。まぁ、望月なら……」



 ぶつぶつ何かを言っている修斗くんは無視だ。立花さんは光くんに街のパンフレットみたいなのを渡しているし、深雪さんは美味しいケーキ屋さんの話を教えてくれた。案内してあげようと思ったけど、もしかして私の知らないことだらけの可能性が出てきた!



 身支度を済ませて玄関に向かう。光くんとは10時頃にお屋敷を出発するという話になっている。10分前行動が癖付いている光くんは既にそこにいた。



「お待たせー」



「全然待ってへんよ。俺も今着いてん」



 執事さんの服を着ていない光くんは見慣れないけど、ラフなのも似合うんだなぁと思いながら横に並ぶ。



「では、出発じゃ!柚子についてこーい!」





 お姉ちゃんと立花さん、門番さんが見送ってくれてお屋敷の外に出る。今日の行き先は、お屋敷から歩いて15分程度、一条家領の中でも活気がある一条家直轄地・一条1番街だ。街を歩くのは3年ぶりか、修行に行く前の買い物をした時以来だ。



「どのくらい歩くん?」



「もーちょっと。光くん行きたいお店とかあるー?」



「せやなぁ……インテリア見たいなぁ。俺の部屋、今殺風景やから。あとは、ざっと街のこと知れればえぇかな。立花さんから地図預かってきてん、後で見ながら話そか」



 地図があるならそれを見ながら行くお店を決めた方がいっか!小腹も空いたのでカフェにでも入って、作戦会議をしようということになった。とりあえず街を目指して歩いていく。





「柚子ちゃん、何飲む?」



 カフェに到着して注文表と睨めっこする。歩いて来たから暑かったし、さっぱりしたもの……



「あ、柚子はこれ!クリームソーダ!あと、自家製プリン」



「随分と洒落たもん頼むなぁ。あ、すいませーん」



 光くんは珈琲とチーズケーキを注文した。あとで一口貰おう!注文が来るまで、立花さんがくれたという地図を見る。



「インテリアが見たいなら、この家具屋さんかこっちの雑貨屋さんがいいと思う!柚子はこのパン屋さんと……お洋服屋さんも見たい!あと文房具屋さんも」



「じゃあ、こっち方面から回ろうか?」



 回る順番が決まったと同時くらいに、注文した品物の席に届く。なんて美味しそう!

 いただきます……と挨拶をしてまずはクリームソーダを飲む。お屋敷から歩いてきた疲れが、一気に吹き飛ばされるような味だ。



 そういえば光くんと、仕事外で2人なんて初めてのことだ。普段はあまりゆっくり話す機会もないし、聞いてみたかったことを質問してみよう。



「ねー、光くんってどこの国の出身?……あ、言いたくなかったら大丈夫」



「あー。言うてへんかったっけ?俺はこの東の国の出身、父親が南の国の出身なんよ。だから南の国の言葉を使ってしまうことが多いねん」



「なるほどね!なんとなーく気になってたから」



 方言の謎は解けた。この国の出身、それを聞いてホッとした。



「ほな、食べ終わったし行ってみよか」



 お店を出て1番最初は文房具屋さん、修行先だった五十嵐家のお嬢様や執事見習いの同級生に手紙を書く用の便箋と、ペンのインクが無くなったからインクも買う。



 お次に向かうのは、いろんな種類の雑貨を多く扱う雑貨屋さん。



「光くん何が欲しいのー?」



「大きくなくてええから、額が欲しいねん。ハガキくらいのサイズの絵を入れたくて……」



 絵を描くのが趣味と、言ってことを思い出す。さっきの文房具屋さんでも、画材みたいなのを買っていたなぁ。大きいのしかないんかなぁと店内を見回る光くん、その時私の目にいいのもが映った。



「ねぇねぇ、光くん!これは?額とはちょっと違うけど……どう?」



 指差したのは写真立てコーナー。ハガキサイズの絵にはピッタリだろう。シンプルな物から、凝ったデザインのものまで揃っている。



「写真立てか……。サイズ的にもピッタリや!ええなぁ」



 お眼鏡に適ったようで良かった。光くんはあれやこれや言いながら、木製の物やガラス製のフレームなどいくつかを買っていた。





 お店を出た時には12時過ぎになっていた。お昼の時間だけど、お茶タイムの影響でそんなにお腹は空いていない。少し遅めのお昼にすることにして、なんとなく歩く。



「ねぇねぇ、そういえば光くんってどんな絵描くの?」



「せやなぁ……。題材はその時々やけど、種類は油絵やね」



「ほぉ!柚子ちょっと絵はよくわかんないんだよねぇ……今度書いた絵見せて!」



「えぇよ。せや、今日付き合ってくれたお礼に今度プレゼントするわ!描く時間ないからお待たせすると思うけど……」



「楽しみにしてるね!」



 絵のプレゼントなんて貰ったことないし、すごく嬉しい。部屋のどこに飾ろうか、あ!私もフレーム買えば良かったかな……まぁいっか。
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