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如月はづき

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7.メイドの仕事 午後

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「柚子、柚子、起きなさい」


 んっ……なんだ?遠くから私を呼ぶ声がする。お姉ちゃん?

 ガバッと起き上がるとお姉ちゃんがソファーの横に立っていた。時間は14時。30分は寝ていたことになる。


「お姉ちゃん!おはよ!柚子は洗濯物片付けるよ!」


 お説教はごめんだ。まだ何か言いたげなお姉ちゃんを尻目に洗濯場に走る。
 洗濯物を取り込んでからが1番大変な作業だ、畳んだ物を個別に分けないといけない。似たような靴下履かないでよ、毎日同じことを思いながら仕分ける。


「柚子ちゃん、おやつの飲み物何がえぇ?」


 15時が近づくと光くんが現れる。おやつはお姉ちゃんが作るけど、その時の飲み物を淹れるのは執事さんの仕事だ。見習いの光くんは最近お茶を淹れる仕事を任されたらしい。



「何があるー?本当はオレンジジュース飲みたいけど、紅茶でもいいよ」



「オレンジジュースも無いことはないんやけど……俺の練習にならんから、紅茶でもえぇかな?」



 申し訳なさそうに光くんは私を見る。練習熱心だなと感心して、紅茶で大丈夫と返事をしてから急いで洗濯物を各部屋に配達する。



 2階から降りてくると、ちょうど大雅くんと修斗くんが帰ってきたところだった。



「お帰りなさい!お疲れ様でした」



「ただいま、柚子」



「おぉ、柚子。ちょっと手伝え」



 修斗くんは何やら、両手いっぱいの袋を抱えている。王宮に行くとお土産を貰うことが多いようだ。しょうがないので2袋待ってあげる。袋の中を覗くと瓶がいくつか入っている。



「これなぁに?」



「王宮で作ったいちごジャムと、薔薇のシロップだと。今年は大量に出来たからお裾分けだそうだ」



 どれだけいっぱい出来たんだろう。すごい量だ。



「お姉ちゃんー!いちごジャムと薔薇シロップだって、王宮の」



 キッチンまで、運んでテーブルの上に置く。



「随分たくさんあるのね。ちょうど良かった。今日はスコーンだからいちごジャムを使いましょう」



 お姉ちゃんはおやつの準備、光くんはお茶の準備をしていた。



「薔薇のシロップ……?何使うんです?」



 光くんがお姉ちゃんが片付ける瓶達を見つめる。確かに薔薇のシロップはこの国でも作ってる所は限られる。



「光くん初めて見る?結構珍しいよね。紅茶に入れたり、お菓子作りに使ったり、ご当主様はワインに入れてたなぁ。今度使ってみようね」





 用意されたおやつを持って、ダイニング向かうとみんなが勢揃いだ。みんなの席にスコーンのお皿を置いて行く。私に続いて、光くんがお茶を配る。



「それでは、いただこう」



 全員が席に着いたのを確認すると、大雅くんから号令がかかる。王宮での事や、午前中の屋敷の様子などをみんなで共有する。んっ……このスコーン美味しい!王宮のいちごジャムもなかなかだ。そして、光くんの淹れてくれた紅茶も美味しい!今日のおやつも大満足だ。



「なぁ、お茶どうやった?」



 お姉ちゃんは大雅くん達とお話し合いがある様で、私と光くんがおやつの片付けを任された。食器を拭きながら、光くんは不安そうな顔で私に尋ねてきた。



「普通に美味しかったよ!……なんでそんな顔してるの」



「良かったぁ。いや、今日いつもと違う種類の茶葉使ったんよ。うまく淹れられるか不安やったから」



 ホッとした様子の光くんにこちらも思わず笑顔になる。聞けば紅茶は種類によって、お湯の温度や蒸らす時間が違うらしい……私にはそんな技は無理だ。光くんはいつも偉いな、執事として一人前になろうと努力している。





 いつも通りの夕食後だった。食後のお茶タイムを済ませて部屋に戻ると、大雅くんから呼び出された。なんだろう…花瓶を割ったのがバレたか?門番さんとこっそりお茶してるのがバレたか?怒られる……緊張しながら大雅くんの部屋の扉をノックする。



「入れ」



 修斗くんが扉を開けた。部屋の中には、修斗くんと光くんの姿もある。



「夜分にすまないね。実は2人に話しがあって」



 執務をしていた手を止めて、大雅くんが椅子から立ち上がる。



「実はそろそろ休暇を取って貰おうと思ってる。人員も不足しているから、1日だけになってしまうと思うが……」



 そう言って1週間後の日付と休暇と書いてある紙が渡された。……お休みだ!1日だけでも嬉しい。何をして過ごそうか、そんなことを考えながら大雅くんの部屋を出た。



 お休みに何をしたいか考えながら、お風呂に入ったらちょっと逆上せてしまった。部屋に戻ってベッドにゴロゴロしながら考える。お屋敷でまったり過ごすか……部屋の隅に重ねられた荷物を片付けるか、思い切って街に出かけるか。



 コンコン……時刻は夜10時、こんな時間に控えめなノックだ。誰だろう。はーいと部屋の扉を開けると光くんがそこに立っていた。



「こんな時間にごめんな、ちょっと話しがあって」



 どーぞ、と光くんを部屋に招く。こっちのお部屋は片付いてて良かった。向かい合って椅子に座る。



「お願いがあるんやけど……」



 見たことないくらい神妙な面持ちだ。私に力になれることなのだろうか……。



「休暇の日、一緒に街に出掛けてくれへん?こっち来て立花さんとは何回か出掛けたんやけど、自分の買い物はしたことないし、街のことも知りたいねん。……柚子ちゃんなら詳しいと思ってん」



「……なーんだ、もっと深刻なことかと思った!いいよ!柚子が案内してあげる」



 街は私の縄張りだ!隅から隅まで案内してあげよう。私の休暇は決まった!街にお出掛けだ!

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