7 / 72
1
5.最初の晩餐
しおりを挟む「どうぞ、お入りください」
立花さんに連れられてダイニングに入れば、長テーブルの上には既に人数分のサラダとオードブルが並べられていた。私はキッチンを背に座る側の育とお姉ちゃんの間の席を、光くんは反対側で私の向かいの席をそれぞれ指定された。お姉ちゃんが乾杯用にオレンジジュースをそれぞれの席に置いていく。
「ねぇねぇ、光くんと修斗くんの間は誰の席?」
反対側の空席が気になって育に小声で尋ねてみる。
「深雪さん。さっき外から帰ってご当主の部屋にいってたからもう来るよ」
話終わるか終わらないかのタイミングで、ダイニングの扉が開き大雅くんが姿を現す。なんとなく座っていたみんなが立ち上がり、お姉ちゃんもキッチンから出てくる。大雅くんの後ろからひっそりと入ってきた、不健康そうな、細身の猫背の人ーーこの人が深雪さん?
「みんな、お待たせ。今日は新しく入った2人の歓迎会だ、また新年度の始まりも兼ねた晩餐会でもある。ゆっくり食べて語り合おう。それでは、グラスを持ってーー」
乾杯。と大雅くんの号令でみんなとグラスを合わせる。テーブルに並んだ料理を食べ始めた時だった。
「おっと、忘れてはいけないな。初めましての場には必要不可欠。自己紹介をしよう、みんな自分の名前と趣味を一言ずつ」
あ、食事は摂りながらで構わない。と付け足せば大雅くんが立ち上がる。
「一条家当主一条大雅だ。趣味は、音楽鑑賞とお茶を嗜むこと。なるべく夕食は全員揃ってがこの家のルールだ。何かあれば遠慮なく話すように。私は君たち全員を家族だと思っている」
さすがは大雅くん、堂々たるご挨拶だ。次はそうだな、立花と大雅くんが指名する。
「改めまして、執事長の立花正義です。趣味は……新しい知識を得ることかな、最近は自然に触れることに興味があります。不束者ですが、よろしくお願い致します」
やはり……スマートな挨拶だ。思ってはいたけど勉強熱心系か。心の中に感想をメモしつつ、自己紹介は続く。
「メイド長の白川結衣です。趣味は読書と観劇。よろしくお願い致します。あ、オーブンの様子を見てきます」
さらっと自己紹介してキッチンに消えたお姉ちゃん。あと、私のお世話も好きだよねと口には出さないけど付け加える。それにしても、観劇まだ好きなんだ……私はちょっと苦手だけど唯一分かり合えない所なんだよなぁ。
「鳥待修斗。修斗でいい。趣味は運転。この屋敷歴は俺が1番長いから、何かあったら聞けよ」
よく昼寝もしていたじゃないか、修斗くんよ。生まれも育ちも一条屋敷、年齢も私より上の修斗くんはどうもお兄さん感を出したいらしい。
「庭師の風見育です。最近の趣味は、花の交配……。よろしく」
修行先にたまに届いた育からの手紙は、不思議な色の花ができたとか書いてあったなぁ、大雅くん命令だと思ってたけど趣味だったのか。
「執事の深雪朔夜です。望月くんと柚子ちゃんは初めましてだね。趣味か、そうだなぁ……街の散策かな?まだこの辺りには、あまり慣れていなくて」
慣れていない……そうかそうか!じゃあ、私がこの慣れ親しんだ街を教えてあげようではないか!深雪さんちょっと不健康そうだから、美味しいパン屋さんを紹介してあげよう。あのパン屋さんまだやってるのかなぁ、クロワッサン食べたいなぁ。
「個性があって良い。さて、新人の2人も自己紹介してもらおう」
望月と、先に光くんが指名された。
「はい。四元男爵家から来ました、望月光です。くんづけはどうも慣れてないんで、呼び捨てして貰えるとありがたいです。趣味とまではいかんけど、好きなんは絵を描くことです。慣れないことばかりでご迷惑おかけしますが、ご指導お願い致します」
絵を描くことかー素敵な趣味だ。どんな絵描くんだろう。
「素敵な趣味だね。……では、トリを飾るのは柚子」
「はいはい!白川柚子です。修行先は五十嵐家でしたっ。趣味は、ダンスとお散歩と日記を書くことです!立派なメイドになれるように頑張ります」
ぺこりと頭を下げればみんなから拍手が送られる。本当は……お昼寝とつまみ食いも趣味だけどこれは黙っておこう。ふわっとバターと魚の焼けた香りがしてきた。
「はい。鮭のムニエルです」
彩りの良い野菜と鮭が載ったお皿を、お姉ちゃんが目の前に置いてくれる。ちらっと大雅くんを見るとムニエルを口に運んだ所だった、負けじと頬張るとほっぺが落ちたかと思うくらい美味しくて、懐かしい味だった。
「お姉ちゃんこれ、すっごい美味しいね!」
隣の席に戻ってきたお姉ちゃんに話しかけると、柚子が好きだから気に入ってもらえて良かったと笑顔が向けられた。それからは、みんなで修行先の話とか、最近の屋敷の話とか楽しい時間を過ごした。
デザートは、お姉ちゃんお手製のレモンパイだった。甘すぎなくて爽やかで美味しい。満腹まで食べて片付けて、各自お風呂も済ませて自室に戻る。……あんまり片付いてはいないけど、だんだん片付ければいっか!机の端に物を寄せて日記帳を開く。今日のことを書こう。
王歴235年4月8日
一条家に帰宅した。ただいま!
新しい人も何人かいたけど、みんないい人そうで良かった。特に同期の光くんとは、仲良く慣れそうな気がする。
お姉ちゃんのお料理美味しかったなぁ。これから毎日食べられると思うと嬉しい!
街の景色は少し変わっていたから、お休みが貰えたら街に行って散策したいなぁ。
今日もいい日だった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢は反省しない!
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。
性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる