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3.ようこそ、一条家へ
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「立花です。ただいま、戻りました」
その声で車が通る用の大きな門が開く。ちょっとぶっきらぼうな声でお疲れ、そちらは?と声が聞こえる。立花さんが新人さんです。車を降りたら改めてご挨拶に伺います。と返事を返したので、望月さんと2人会釈をする。身体が大きくて強そうだ、きっと門から玄関までの掃除は私の役目になるだろう。門番さんとは仲良くしておかないと、仕事をうまくサボれな……いや、円滑な仕事にならないと言っておこう。
車を降りて両手いっぱいの荷物を持つ。
「おせぇ!駅から何時間かかってんだ」
後ろから聞き慣れたヤンキー口調。何時間って、真っ直ぐお屋敷に来たんですけど…なんて反論しようものなら屁理屈で返されるんだろうな。
「柚子、おかえり」
「育!!ただいま、うわー!育おっきくなったね」
さっきとは正反対の穏やかな口調に振り返ると、同い年で幼馴染の育が立っている。庭仕事の途中だったのか、作業着で手には剪定のハサミを持っている、近寄って顔を見上げてハッとした、3年会わない間にその背は私を追い越していたから。
「おい!柚子、お前この俺を無視するとは良い度胸じゃねぇか」
「修斗くん、うるさい!相変わらず小言が多いな、そんなんだからモテないんだ。柚子は今、育と話してるのっ!」
「はぁ?なんだとこのっ」
「……修斗さんも、柚子も静かに。立花さんと新人さん困ってる」
育の言葉に振り返れば、2人とも苦笑いだ。急に恥ずかしくなってきた、全部修斗くんのせいだ。穏やかな笑みの立花さんが5人の間に立つ。
「……鳥待、風見、改めて紹介するね。今日からうちで働いてもらう、執事見習いの望月光くんと、メイド見習いの白川柚子さんです。左にいるのが庭師の風間育、右にいるのが運転手の鳥待修斗だよ」
「お世話になります、望月光と申します。今日からよろしくお願い致します」
えっ、望月さんちゃんとしてる!これは……負けられない。ばあや仕込みのお辞儀だ。
「戻りました!白川柚子です。今日からまたよろしくお願いします」
「庭師の風見育。よろしくお願いします」
「運転手兼当主世話係の鳥待修斗だ。修斗でいい」
当主世話係ってなんだ??初めて聞いた。後でお姉ちゃんに聞いてみよう。
気がつけば、私と望月さんの荷物は修斗くんが台車に乗せてくれている。
「御当主のところこれからだろ?荷物はお前らの部屋に持っていってやる。……一条の屋敷にようこそ。これからよろしくな」
門番さんにも挨拶を済ませていよいよ、お屋敷の中に入る。
「偉い立派な屋敷やなぁ」
「そうでしょー!なんたってここは一条家なんだから」
玄関ホールの大きな窓から差し込む光が眩しい、所々に並ぶ花瓶には育が育てたと思われる赤薔薇が生けてある。
「さて、2人の部屋は2階になります。その前に簡単にだけど1階を案内するね」
「柚子わかるよ!」
勝手知ったるお屋敷の中だけど、聞けば私の修行中に少し工事をしたらしい、見知った場所と見知らぬ場所がある。立花さんの案内に従って歩くと扉の前で立ち止まった。
「ここがダイニング。今日の夕食は19時からだから時間になったら降りてきてね。食事の席も決まってるし、中を見せてあげたいんだけど……。今夜は夕食のメニュー秘密みたいで、開けないようにって結衣ちゃんに言われてるから、お楽しみにね」
結衣ちゃんーーお姉ちゃんの名前を聞いて急に悲しくなる。お屋敷についてからまだ会えていない、1番に出迎えてくれると思ったのに。何年も修行に出てたから、私のこと嫌いになっちゃった……?
涙が出そうになった、その時だった。ダイニングの隣のリビングの扉が開いた。
「……お姉ちゃんっ!」
紛れもなく1番会いたかったその人だ。こちらに気づくといつもの優しい笑顔が向けれられる。
「柚子、おかえり。無事に到着して良かった。ちょっとバタバタしちゃって、出迎えも出来なくてごめんね」
近づけばハグしてくれる。何年振りかの温もりがすごくすごく懐かしいし、安心する。お姉ちゃんは、立花さんと望月さんに声をかけるとまた後で…と行ってしまった。
「2階に上がって最初の部屋が望月くんの部屋。その隣が僕、その隣が柚子さん。ご当主様、結衣ちゃん、客室の順になっているよ。今は物置みたいになっちゃってるけど、一応3階もあるよ」
「小さい時、柚子達の部屋は3階にあったんだよ、あの頃は人も多かったから」
賑やかだった幼少の頃を思い出す、この国でも流行した疫病は一条家をも脅かした。
「へー。大きい屋敷やんなぁ。俺覚えられるかなぁ」
望月さんがちょっと困り顔だ。
「だんだん慣れるよ。さて、お待ちかねのご当主様の挨拶に行こうか」
大雅くんの部屋の前に立つ。幼い頃にその地位に就いた彼はご当主様と呼ばなくてもいいと私に言った。今も変わらないのだろうか、さすがに呼び方は変えるべきか。
立花さんがその部屋の扉を叩く、どうぞと返答が返されれば後に続いて部屋に入る。
執務をする机、よくわからない本がいっぱいの本棚、机の向こうに窓の方を向いて座る大雅くんの姿があって、それを挟むようにお姉ちゃんと立花さんが横に立つ。私と望月さんは机を挟んで大雅くんと対峙するような形になった。
「……立花、もう少し右へ。結衣はもう少し左へ」
小声で何か言ってる…?と気を取られていれば、いきなりこちらを振り返る。逆光で表情はよく見えないけど、大雅くんは座っているだけなのに威厳に満ちている。
「ようこそ、一条家へ」
優しいけれどその場の主導権を握るような口調と声色。これが一条のご当主様ということか、その威力によろしくお願い致しますと、頭を下げるのが精一杯だった。
その声で車が通る用の大きな門が開く。ちょっとぶっきらぼうな声でお疲れ、そちらは?と声が聞こえる。立花さんが新人さんです。車を降りたら改めてご挨拶に伺います。と返事を返したので、望月さんと2人会釈をする。身体が大きくて強そうだ、きっと門から玄関までの掃除は私の役目になるだろう。門番さんとは仲良くしておかないと、仕事をうまくサボれな……いや、円滑な仕事にならないと言っておこう。
車を降りて両手いっぱいの荷物を持つ。
「おせぇ!駅から何時間かかってんだ」
後ろから聞き慣れたヤンキー口調。何時間って、真っ直ぐお屋敷に来たんですけど…なんて反論しようものなら屁理屈で返されるんだろうな。
「柚子、おかえり」
「育!!ただいま、うわー!育おっきくなったね」
さっきとは正反対の穏やかな口調に振り返ると、同い年で幼馴染の育が立っている。庭仕事の途中だったのか、作業着で手には剪定のハサミを持っている、近寄って顔を見上げてハッとした、3年会わない間にその背は私を追い越していたから。
「おい!柚子、お前この俺を無視するとは良い度胸じゃねぇか」
「修斗くん、うるさい!相変わらず小言が多いな、そんなんだからモテないんだ。柚子は今、育と話してるのっ!」
「はぁ?なんだとこのっ」
「……修斗さんも、柚子も静かに。立花さんと新人さん困ってる」
育の言葉に振り返れば、2人とも苦笑いだ。急に恥ずかしくなってきた、全部修斗くんのせいだ。穏やかな笑みの立花さんが5人の間に立つ。
「……鳥待、風見、改めて紹介するね。今日からうちで働いてもらう、執事見習いの望月光くんと、メイド見習いの白川柚子さんです。左にいるのが庭師の風間育、右にいるのが運転手の鳥待修斗だよ」
「お世話になります、望月光と申します。今日からよろしくお願い致します」
えっ、望月さんちゃんとしてる!これは……負けられない。ばあや仕込みのお辞儀だ。
「戻りました!白川柚子です。今日からまたよろしくお願いします」
「庭師の風見育。よろしくお願いします」
「運転手兼当主世話係の鳥待修斗だ。修斗でいい」
当主世話係ってなんだ??初めて聞いた。後でお姉ちゃんに聞いてみよう。
気がつけば、私と望月さんの荷物は修斗くんが台車に乗せてくれている。
「御当主のところこれからだろ?荷物はお前らの部屋に持っていってやる。……一条の屋敷にようこそ。これからよろしくな」
門番さんにも挨拶を済ませていよいよ、お屋敷の中に入る。
「偉い立派な屋敷やなぁ」
「そうでしょー!なんたってここは一条家なんだから」
玄関ホールの大きな窓から差し込む光が眩しい、所々に並ぶ花瓶には育が育てたと思われる赤薔薇が生けてある。
「さて、2人の部屋は2階になります。その前に簡単にだけど1階を案内するね」
「柚子わかるよ!」
勝手知ったるお屋敷の中だけど、聞けば私の修行中に少し工事をしたらしい、見知った場所と見知らぬ場所がある。立花さんの案内に従って歩くと扉の前で立ち止まった。
「ここがダイニング。今日の夕食は19時からだから時間になったら降りてきてね。食事の席も決まってるし、中を見せてあげたいんだけど……。今夜は夕食のメニュー秘密みたいで、開けないようにって結衣ちゃんに言われてるから、お楽しみにね」
結衣ちゃんーーお姉ちゃんの名前を聞いて急に悲しくなる。お屋敷についてからまだ会えていない、1番に出迎えてくれると思ったのに。何年も修行に出てたから、私のこと嫌いになっちゃった……?
涙が出そうになった、その時だった。ダイニングの隣のリビングの扉が開いた。
「……お姉ちゃんっ!」
紛れもなく1番会いたかったその人だ。こちらに気づくといつもの優しい笑顔が向けれられる。
「柚子、おかえり。無事に到着して良かった。ちょっとバタバタしちゃって、出迎えも出来なくてごめんね」
近づけばハグしてくれる。何年振りかの温もりがすごくすごく懐かしいし、安心する。お姉ちゃんは、立花さんと望月さんに声をかけるとまた後で…と行ってしまった。
「2階に上がって最初の部屋が望月くんの部屋。その隣が僕、その隣が柚子さん。ご当主様、結衣ちゃん、客室の順になっているよ。今は物置みたいになっちゃってるけど、一応3階もあるよ」
「小さい時、柚子達の部屋は3階にあったんだよ、あの頃は人も多かったから」
賑やかだった幼少の頃を思い出す、この国でも流行した疫病は一条家をも脅かした。
「へー。大きい屋敷やんなぁ。俺覚えられるかなぁ」
望月さんがちょっと困り顔だ。
「だんだん慣れるよ。さて、お待ちかねのご当主様の挨拶に行こうか」
大雅くんの部屋の前に立つ。幼い頃にその地位に就いた彼はご当主様と呼ばなくてもいいと私に言った。今も変わらないのだろうか、さすがに呼び方は変えるべきか。
立花さんがその部屋の扉を叩く、どうぞと返答が返されれば後に続いて部屋に入る。
執務をする机、よくわからない本がいっぱいの本棚、机の向こうに窓の方を向いて座る大雅くんの姿があって、それを挟むようにお姉ちゃんと立花さんが横に立つ。私と望月さんは机を挟んで大雅くんと対峙するような形になった。
「……立花、もう少し右へ。結衣はもう少し左へ」
小声で何か言ってる…?と気を取られていれば、いきなりこちらを振り返る。逆光で表情はよく見えないけど、大雅くんは座っているだけなのに威厳に満ちている。
「ようこそ、一条家へ」
優しいけれどその場の主導権を握るような口調と声色。これが一条のご当主様ということか、その威力によろしくお願い致しますと、頭を下げるのが精一杯だった。
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