上 下
5 / 31
通常編

2,奇跡の終わり

しおりを挟む
 「おや~風馬くんまだ寝ているのかい?」
 ………えっ?真保の声が聞こえる。僕より早く起きたのか?安藤家の眠り姫が。
 

「起きてくださ~い。」
 真保は手を使い僕の左頬をバシバシと5回程叩く。彼女は力が強いので多少の痛みを感じた。しかし僕はドMで尚かつ好きな人に叩かれているので少し楽しんでいた。
 

「おはよう。真保。今日は早起きなんだね。」
 「おっは~。今日は入学式だからね~。」
 目を開け、起き上がる。真保は僕のベットに座っていてニコニコとした笑みを浮かべていた。………彼女はブレザー姿だった。可愛い。可愛い。可愛い。彼女の制服姿は世界のどんな宝石よりも価値がある。そう感じた。


 「写真撮っていいすか?」
 あまりの可愛さに本音がダダ漏れになってしまう。…ん?アレ…やべえ。今僕めっちゃキモいこと言ってね?いくら仲がいい姉弟とはいえこの発言は「姉弟としての糸」が切れかねない。ものの数分前の発言に後悔をした。もしタイムマシンで過去に戻れるならばさっきの発言をした自分を殴るだろう。


 「あ~これは寝ぼけて言っただけでホントはまったくもってそんなこと思っていないんですよ。」
 自分の目はこれ以上ない程泳いでいるだろう。右手を使いうなじをポリポリとかく。
 「あ、ウソついてる。本当は私の制服姿の写真ほしいんでしょ?」
 しまった。うなじをかいてしまった。ウソをついた時癖でこの行動をしてしまう。さすが双子の姉だ。完全に見破られた。
 

「別にいいよ。撮っても。」
 「マジ?」
 1秒でスマホのロックを解除し写真アプリを開く。
 「では撮らせていただきます。」
 真保は「ギャルピース」や「キュンです」などのポーズをしていく。僕は撮り鉄やコミケでコスプレイヤーを撮っている人のようにつぎつぎとシャッターを切っていく。たまらんのう。可愛いのう。この写真印刷して一緒にベットで寝かせて添い寝してる気分になりてえ。


 「どうもありがとう。」
 「どういたしまして。てか姉の制服姿の写真撮りたいとか、そんなに私のこと好きなの?」
 「うん、好き、好き。」
 「んな!このシスコン弟が!」
 真保はほんのちょぴっと恥ずかしがっているのか顔を少し赤くして両手を両頬に当てていた。


 「あのさ風馬お礼として私のワガママ聞いてくれない?」
 真保はつぶらな瞳で見つめる。ぐ…そんな行動されたらどんなことでも聞いちゃいそう。え?でも待って。最近真保、好きなアニメキャラのフィギュア欲しいってめちゃくちゃデカイ独り言言ってたな。あれ12000円もするんだよな。まさか買って欲しいとか言われるんじゃ…。
 「次回フレンチトーストを作ってくれる時はチョコソースをかけてほしいです。」
 ワガママ可愛い。てかこれはただのお願いでは?
 

「おーい2人とも早く下の階来てー。」
 下の階からママの大きな声が聞こえる。時計を見ると結構な時間がたっていた。しまった。「安藤真保JK初日制服姿撮影会」を開催していたら時間を忘れてしまっていた。
 「今行く~。」


 真保は声を上げ僕の部屋から出ていき、下の階へと向かっていった。僕もパジャマから制服に着替え1階へと向かった。
 

「真保、風馬忘れ物ない?」
 「ないよ~。」
 「大丈夫。何回も確認したから。」
 今日は高校の入学式だ。僕たち姉弟は奇跡が連結している。第一志望の高校が一緒で2人とも合格でき一緒の高校に入れた。これが奇跡だ。もし同じクラスだったら1年間幸せな高校生活を送ることが保証されるだろう。さあどうなってるんだ約30分後の僕。笑っているのか?それとも悲しんでいるのか?
 

家の扉を開け最寄り駅へと向かっていく。歩いて1分をたたずに駅に着いた。ブレザーの右ポケットから通学用定期を取り出し改札でタッチをし入場する。通学用定期を使うことによって「高校生になったんだな」ということを改めて実感する。
 

「ん?どうしたの?」
 真保は何故か改札を通らない。
 「定期忘れた。」
 おっちょこちょいな所も可愛い!…なんて言ってる場合ではない。あと1分で電車は来てしまう。
 「じゃあ切符買って!」
 周りの人に迷惑にならないような声で指示を出す。彼女は慌てて切符を買い改札に入る。
 

「まもなく1番線に各駅停車新宿行きがまいります。危ないですから黄色い線までお下がりください。」
 入線前アナウンスが聞こえる。そしてしばらく経ち電車が来る。電車内は通勤・通学の時間帯なだけあってかなり混みあっている。しかしこの電車は通勤型車両だからたくさんの人を乗せることができるためすんなりと乗ることができる。
 

10分後
 自分たちの高校の最寄り駅に着いた。電車から降りると皆改札へと向かっている。僕らもついていく。
 

「そういえば風馬って何でこの高校に行こうと思ったの?」
 「自分の偏差値にあっていたから…が1番の理由だね。真保は?」
 「私は…………何となくかな。」
 「何となくで選んだんかい!」
 談笑を交わしながら高校までの通学路を歩いていた。駅から高校までは徒歩20分だ。今歩いている道の突き当たりにその高校はある。そして突き当たりに着いた。4階建ての大きめの高校がデカデカと建っていた。こここそが我々が「青春」という甘酸っぱいものを過ごすplaceだ。


 「おーい2人ともあっちでクラス発表やってるよ。」
 ママはクラス発表の紙が張り出されている場所を指差す。


 「ごめん。ママ、真保先に行ってて。」
 僕は2人を先に行かす。僕はあることをする…そう最後の神頼みを。両手を合わせお願いをする。今さら何をしても未来は何も変わりはしない…そんなことは十分承知の上この行動をしている。
 「何あの子?何で手を合わせているの?」
 「好きな人と一緒のクラスになれるように祈ってるんじゃね?」
 視線はささくれを剥く時並みに痛い。でも僕はやめなかった。よし行くか。僕は歩き出した。
 

「お~い風馬~。私は1年3組で風馬は1年4組だったよ~。」
 真保は鳥のようにバタバタと両手を動かしながら僕の元へ走ってきた。
 「えっ?」
 「どこから声出してるの?」とつっこまれる程甲高い声を出してしまう。
 「そんな…ウソだろ…。」
 そう呟いた後僕はその場に座り込んだ。奇跡は終わってしまった。再び視線はチクチクと痛くなる。
 

「皆様ようこそ。我が高校へ~~~。」
 入学式が始まり校長先生のお話が始まった。でも僕はそれを聞いている場合ではなかった。…真保と一緒のクラスになれなかった。一緒のクラスになれていれば楽しい高校生活がより一層楽しくなっていただろうに…。遠足とか一緒に行きたかったな…。ん?でも待てよ…もしかしたら来年同じクラスになれるようにクラス替えの神様が今年はわざと別のクラスにしたのでは?個人的好きな人と同じクラスになりたい学年ランキング第1位は2学年だ。理由は修学旅行があるからだ。なにが言いたいかというと「好きな人と同じクラスになれる運」を温存しているのでは?ということだ。そう考えるとさっきの悲しさは少し薄まってきた。僕は人一倍ポジティブな性格を持っていた。


 「それでは今から名前を呼んでいきます。呼ばれたら大きな返事をしてください。」
 そんなことを考えているうちにいつのまにか時は過ぎ去っていた。1年1組の生徒から呼名されその都度生徒は返事をしていく。うちのクラスの番になった。
 「1年4組安藤風馬。」
 「はい!」
 耳元で聞かされると鼓膜が破れてしまうような大きな声で返事をした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

処理中です...