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第一章 玻璃の皇子
08.健やかなるときも、病めるときも
しおりを挟む自殺未遂事件から数日後、リヴヴェールとエリスの姿は変わらず皇子の自室にあった。
青みがかった銀色の細い髪。窓から差し込む太陽の光を反射して輝く、宝石のような銀糸にそっと金属の櫛を入れる。ゆっくりと丁寧に、繊細な硝子細工を扱うように。
不意に手に持った櫛がふわりと軽くなる。一拍遅れて足元にカランカランと櫛の一部が落ちてきた。
金属で作られているそれは滅多なことでは壊れない。けれど、ここではよくある出来事の一つ。
「申し訳ありません、リヴヴェール様」
こちらに背を向けて座る一人の青年の名を呼び、侍女のエリスは膝をついた。
その顔には包帯が巻かれ、新調した服の下にある両腕にも同じような治療の痕があった。
「構わない」
抑揚のない静かな声が頭上から降り注ぐ。エリスは下に向けていた顔を上げて、己の主人を見上げた。
美しい銀の髪と、意匠を凝らしたエメラルドのように壮麗な瞳。その面差しは、国で一番の腕を持つ彫刻家が再現出来ないと言われるほど端整である。
その細い肢体を覆う衣装は純白のローブ。裾と袖口にレースがあしらわれ、ところどころに金の刺繍が施されている。
エリスはこの世に生を受けてから、これほどまでに綺麗な人を見たことが無かった。
これほどまでに、心が綺麗な人を。
「君が怪我をしていなければ、それでいい」
柔らかく笑んだリヴヴェールの姿に、エリスも同じように微笑み返す。
立ち上がるように促され、エリスは差し伸べられた手に傷痕だらけの手を重ねた。
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