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6.神様が光を撒く

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「う、ううっ……」
「もうちょっとです! 男なんですから根性見せてください!」

 私たちは部屋を抜け出し、夜の庭を駆け、……そして、木登りをしていた。
 部屋にあったリネンやら毛布やらを身体中に巻き付けてきたけれど、やはり寒い。びゅうっと風が吹きつけると身震いが起きる。

 だって、せっかくの流星群だ。部屋から眺めるだけなんて勿体ない。

 私は枝をまたぎ、足元で幹にしがみついている旦那様の手をとろうとした。


――私には一切触れるなよ。


 耳元で冷たい言葉がよみがえる。
 しかし彼は手を取ってくれた。骨ばった、温かい手だった。

「お、おまえ、嫁入り前だろう。いくらなんでもその体勢は……」

 彼は手が触れ合ったことよりも、私の大股開きが気になるようだった。

「旦那様に嫁入りするわけではありませんから! あっ、星!」
「今は木登りに集中してくれ!」

 やっと一番太い枝にたどり着いた。二人で並んで座る。

「下りる時はどうするんだ……」

 旦那様は怖気づいている。誤って落ちたら怪我をするどころか、最悪死ぬだろうなという高さだ。

「下じゃなくて、上を見てくださいよ」
「……」

 彼は息を呑んだ。満天の星空に幾筋もの光の線が走っていく。

「お願いし放題ですね」
「そうだな……」
「何を願います?」
「……みにくい顔と言ってしまったことを許してもらえるようにと。……クロエ、おまえに要らぬことを言ってしまった。申し訳なく思っている」
「そうですね。『出会った女の中でおまえが一番美しい』と言ってくれたら許しましょうか」
「……おまえがいちばんうつくしい」
「棒読みじゃないですか。……ま、いいです」

 特別に許してあげることにした。
 神様が光を撒くこの空に免じて。

「気になっていたのだが……、そのリボンは?」
「ああ。別に、リボンを巻いて女らしくしたいわけじゃないですよ。……お守りみたいなものです」
「大切なものなのか」
「リボン自体は別に。姉からのお下がりです」
 お下がりというのは嘘で、本当は失敬したものだ。
「腕に巻くことに意味があるんですよ」
「そうか……」
「あ、二個も流れました!」

 はしゃいだ声を出し、私はまた彼の顔を上に向かせた。
 



 次の日の夜、侍女としてのお勉強を終え自分のベッドに戻ると、枕元に何か置かれていた。

「……わあ」

 夜空を思わせる濃い青の、上等なリボンだった。
(なんだ。意外と気が利くんじゃない)
 贈り主の顔を思い浮かべ、自然と顔がほころんだ。
 





 また次の日の夕方。
 お屋敷のホールをざわつかせる事件が発生した。

「旦那様! エルマンガルド様! クロエは器量は良いようですが、この火傷の痕を隠していました! 旦那様に抱かれるのも拒否したとか!」

 おい、まじか? という気持ちで私はアリスの咆哮ほうこうを聞いていた。
 敵を討った後みたいな顔の彼女は、左手で私の右腕を高く持ち上げている。
 彼女の右手には、不意打ちで解かれてしまった青いリボンがぶら下がっていた。

 つまり今、私の火傷の痕がさらけ出されている状態だった。

「……!」
 エルマンガルド様の横で、旦那様が目を見開いている。
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