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32.家族水入らず
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夏休みが終わった。
月渚らしくできているのかどうかわからないまま、二学期は過ぎ、とうとう三学期になった。
六年生の三学期は大忙しだ。だって、二か月後に卒業式を控えているんだから。
アルバムに載せる作文を書いたり、一人ひとりに贈る寄せ書きを作ったり。卒業式の予行練習だって始まる。
四時間目が終わり、私はいつも通り保健室に向かおうとした。
ピンポンパンポンとスピーカーが鳴ったのは、そのときだった。
『六年一組の小暮月渚さん、職員室に来てください。くり返します。六年一組の小暮月渚さん、職員室に来てください……』
(なんだろう?)
放送は春野先生の声だった。
でも、来てくださいと言われたのは保健室ではなくて職員室。
廊下を歩きながら、私はなんだか嫌な予感がしてきた。ざあざあという音が聞こえて、窓の外を見る。
天気予報では一日中曇りだったのに、いつの間にか冷たそうな雨が降り始めていた。
職員室のドアを開ける。春野先生が私を待っていた。
先生の顔は不安そうだ。なにがあったのだろう。
「小暮さんのお父さんからよ」
「お父さんから……?」
渡してもらった電話の受話器を、おそるおそる耳に当てる。
『もしもし』
「お父さん……?」
『ルナ、よく聞くんだよ』
お父さんの声は震えていた。
『……月渚が、あの子が目を覚ましたんだ』
職員室の窓は全てしっかり閉じられている。
それなのに、強くなった雨の音が室内にまでしっかりと聞こえていた。
*
私は学校を早退して、迎えに来てくれたお父さんの車で病院へ向かった。
学校から病院までは一時間ほどかかった。
「月渚! 月渚ぁっ……!」
病院の個室で、空子さんが泣き叫んでいる。
私はドアの前に立って、ベッドに寝ている女の子を眺めた。
彼女はなにからなにまで私にそっくりだ。
少し明るい髪の色も同じ。
白い肌も同じ。
まぶたの二重の幅も同じ。
小暮月渚。
私は彼女を初めて見た。
「……」
月渚は薄く目を開けて、ぼんやりと自分のお母さんを見つめている。唇を動かそうとしているけど、上手く言葉が出ないみたいだった。
「月渚、大丈夫だよ」
お父さんが、月渚の頭を優しく撫でている。
「だんだんと意識もはっきりしてくると思います」
白衣を着たお医者さんが説明する。
お父さんとお母さんと月渚の三人に。
「よかった……」
「月渚に好物を作って食べさせてあげたいんですが、いいですか?」
空子さんに、お医者さんは首を振る。
「今すぐには無理です。様子を見ましょう」
空子さんは頷き、また涙を流した。
そして私を振り返る。
「家族だけにしてもらえるかしら」
静かに、そしてはっきりと言われ、私は一人で病室を出た。
ピピピ、と体の中でアラームが鳴る。体に異常があるときに鳴る音だ。
今は、「そろそろ充電をしなさい」、「そろそろ燃料を補給しなさい」と私に知らせている。
廊下の端に、ソファの並ぶ休憩スペースを見つけてそこに腰かけた。
周りに人気が無いことを確かめて、私はこっそり充電を始める。充電コードは手提げの中のブランケットで隠した。
休憩スペースには自動販売機もあるけれど、私が飲めるものはひとつも無い。
水もお茶もジュースもだめ。人間が美味しそうに口にするものは、何一つ飲めない。
トートバッグから白い缶を取り出した。中の潤滑油を飲み終わると、やっとアラームが消えた。
私はスマホを取り出して、すぐそこの病室にいるお父さんにメッセージを送る。
『先に帰ります』
せっかくの家族水入らずを、邪魔したくなかった。
月渚らしくできているのかどうかわからないまま、二学期は過ぎ、とうとう三学期になった。
六年生の三学期は大忙しだ。だって、二か月後に卒業式を控えているんだから。
アルバムに載せる作文を書いたり、一人ひとりに贈る寄せ書きを作ったり。卒業式の予行練習だって始まる。
四時間目が終わり、私はいつも通り保健室に向かおうとした。
ピンポンパンポンとスピーカーが鳴ったのは、そのときだった。
『六年一組の小暮月渚さん、職員室に来てください。くり返します。六年一組の小暮月渚さん、職員室に来てください……』
(なんだろう?)
放送は春野先生の声だった。
でも、来てくださいと言われたのは保健室ではなくて職員室。
廊下を歩きながら、私はなんだか嫌な予感がしてきた。ざあざあという音が聞こえて、窓の外を見る。
天気予報では一日中曇りだったのに、いつの間にか冷たそうな雨が降り始めていた。
職員室のドアを開ける。春野先生が私を待っていた。
先生の顔は不安そうだ。なにがあったのだろう。
「小暮さんのお父さんからよ」
「お父さんから……?」
渡してもらった電話の受話器を、おそるおそる耳に当てる。
『もしもし』
「お父さん……?」
『ルナ、よく聞くんだよ』
お父さんの声は震えていた。
『……月渚が、あの子が目を覚ましたんだ』
職員室の窓は全てしっかり閉じられている。
それなのに、強くなった雨の音が室内にまでしっかりと聞こえていた。
*
私は学校を早退して、迎えに来てくれたお父さんの車で病院へ向かった。
学校から病院までは一時間ほどかかった。
「月渚! 月渚ぁっ……!」
病院の個室で、空子さんが泣き叫んでいる。
私はドアの前に立って、ベッドに寝ている女の子を眺めた。
彼女はなにからなにまで私にそっくりだ。
少し明るい髪の色も同じ。
白い肌も同じ。
まぶたの二重の幅も同じ。
小暮月渚。
私は彼女を初めて見た。
「……」
月渚は薄く目を開けて、ぼんやりと自分のお母さんを見つめている。唇を動かそうとしているけど、上手く言葉が出ないみたいだった。
「月渚、大丈夫だよ」
お父さんが、月渚の頭を優しく撫でている。
「だんだんと意識もはっきりしてくると思います」
白衣を着たお医者さんが説明する。
お父さんとお母さんと月渚の三人に。
「よかった……」
「月渚に好物を作って食べさせてあげたいんですが、いいですか?」
空子さんに、お医者さんは首を振る。
「今すぐには無理です。様子を見ましょう」
空子さんは頷き、また涙を流した。
そして私を振り返る。
「家族だけにしてもらえるかしら」
静かに、そしてはっきりと言われ、私は一人で病室を出た。
ピピピ、と体の中でアラームが鳴る。体に異常があるときに鳴る音だ。
今は、「そろそろ充電をしなさい」、「そろそろ燃料を補給しなさい」と私に知らせている。
廊下の端に、ソファの並ぶ休憩スペースを見つけてそこに腰かけた。
周りに人気が無いことを確かめて、私はこっそり充電を始める。充電コードは手提げの中のブランケットで隠した。
休憩スペースには自動販売機もあるけれど、私が飲めるものはひとつも無い。
水もお茶もジュースもだめ。人間が美味しそうに口にするものは、何一つ飲めない。
トートバッグから白い缶を取り出した。中の潤滑油を飲み終わると、やっとアラームが消えた。
私はスマホを取り出して、すぐそこの病室にいるお父さんにメッセージを送る。
『先に帰ります』
せっかくの家族水入らずを、邪魔したくなかった。
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