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29.さみしい

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 二日目の夜。
 肝試きもだめしは、やっぱり中止になった。
 波も心配だし、肝試しをやる予定だった場所で事故が起きてしまったからだ。

 その代わり、キャンプファイヤーだけは予定通りに行われることになった。
 元々は校庭として使われていた広場に、六年生たちが集合する。
 もうすっかり日も暮れかけている。いつもだったら家に帰らなければいけない時間。それなのにみんなで外に集まっているということが、なんだか不思議だった。

 キャンプファイヤーにたいまつで点火する係は、本当は太陽くんがやる予定だった。
 だけど……。

「しょうがないよね。きっと太陽くんの家族が迎えに来て、もう家に帰ったんじゃないかな?」
「代わりは誰がやるんだろうね?」

 一組のみんながそんな噂話をする中、レクリエーション係が前に出る。

「それでは、今からキャンプファイヤーを点火します。……点火をするのは、一組の学級委員、天野太陽くんです!」

 六年生のほぼ全員が「おおっ」と声を上げた。
 私もびっくりして、目が真ん丸になる。
 たいまつを持って建物の陰から登場したのは、本当に、太陽くんだった。

「太陽く~んっ!」
「太陽っ! おかえりーっ!」

 一組のみんながさけんで、広場が大盛り上がり。
 全員、太陽くんのことが心配でたまらなかったんだ。

「恥ずかしいよ」

 炎に顔を照らされた太陽くんが笑う。病院から帰ってきて、すっかり元気になったみたいだ。

「よかったー。うち、本当に心配で……」

 樹里じゅりちゃんも恵奈えなちゃんも花鈴かりんちゃんも、笑いながら泣いている。
 私もほっとしていた。
 春野先生の「大丈夫」という言葉は、気休めなんかじゃなかったんだ。

 太陽くんと自然の家のスタッフの人が協力してキャンプファイヤーに火をつけた。組まれたまきが燃えていく。夜の屋外で見る火は、とてもきれいだった。

 私たちは手をつないで大きなを作り、キャンプファイヤーを囲んで一緒にマイムマイムをおどった。
 学校で練習したときは、みんなずかしそうだったけれど、夏の夜空の下でやるマイムマイムは、すごく盛り上がった。

 最後にみんなで歌うのは「遠き山に日は落ちて」。
 きれいだけどさみしい曲で、臨海学校りんかいがっこうは明日で終わりだということを実感した。
 胸のあたりがざわざわとする。
 「苦しい」とも、「胸騒むなさわぎ」ともちがう、不思議な感覚があった。

「あー、なんかさみしくなってきた」

 歌い終わって、誰かが言った。

(そっか、これって『さみしい』なんだ……)

 消されていくキャンプファイヤーの火をながめながら、私は「さみしい」という気持ちを覚えた。
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