29 / 36
29.さみしい
しおりを挟む
二日目の夜。
肝試しは、やっぱり中止になった。
波も心配だし、肝試しをやる予定だった場所で事故が起きてしまったからだ。
その代わり、キャンプファイヤーだけは予定通りに行われることになった。
元々は校庭として使われていた広場に、六年生たちが集合する。
もうすっかり日も暮れかけている。いつもだったら家に帰らなければいけない時間。それなのにみんなで外に集まっているということが、なんだか不思議だった。
キャンプファイヤーにたいまつで点火する係は、本当は太陽くんがやる予定だった。
だけど……。
「しょうがないよね。きっと太陽くんの家族が迎えに来て、もう家に帰ったんじゃないかな?」
「代わりは誰がやるんだろうね?」
一組のみんながそんな噂話をする中、レクリエーション係が前に出る。
「それでは、今からキャンプファイヤーを点火します。……点火をするのは、一組の学級委員、天野太陽くんです!」
六年生のほぼ全員が「おおっ」と声を上げた。
私もびっくりして、目が真ん丸になる。
たいまつを持って建物の陰から登場したのは、本当に、太陽くんだった。
「太陽く~んっ!」
「太陽っ! おかえりーっ!」
一組のみんなが叫んで、広場が大盛り上がり。
全員、太陽くんのことが心配でたまらなかったんだ。
「恥ずかしいよ」
炎に顔を照らされた太陽くんが笑う。病院から帰ってきて、すっかり元気になったみたいだ。
「よかったー。うち、本当に心配で……」
樹里ちゃんも恵奈ちゃんも花鈴ちゃんも、笑いながら泣いている。
私もほっとしていた。
春野先生の「大丈夫」という言葉は、気休めなんかじゃなかったんだ。
太陽くんと自然の家のスタッフの人が協力してキャンプファイヤーに火をつけた。組まれた薪が燃えていく。夜の屋外で見る火は、とてもきれいだった。
私たちは手を繋いで大きな環を作り、キャンプファイヤーを囲んで一緒にマイムマイムを踊った。
学校で練習したときは、みんな恥ずかしそうだったけれど、夏の夜空の下でやるマイムマイムは、すごく盛り上がった。
最後にみんなで歌うのは「遠き山に日は落ちて」。
きれいだけどさみしい曲で、臨海学校は明日で終わりだということを実感した。
胸のあたりがざわざわとする。
「苦しい」とも、「胸騒ぎ」とも違う、不思議な感覚があった。
「あー、なんかさみしくなってきた」
歌い終わって、誰かが言った。
(そっか、これって『さみしい』なんだ……)
消されていくキャンプファイヤーの火を眺めながら、私は「さみしい」という気持ちを覚えた。
肝試しは、やっぱり中止になった。
波も心配だし、肝試しをやる予定だった場所で事故が起きてしまったからだ。
その代わり、キャンプファイヤーだけは予定通りに行われることになった。
元々は校庭として使われていた広場に、六年生たちが集合する。
もうすっかり日も暮れかけている。いつもだったら家に帰らなければいけない時間。それなのにみんなで外に集まっているということが、なんだか不思議だった。
キャンプファイヤーにたいまつで点火する係は、本当は太陽くんがやる予定だった。
だけど……。
「しょうがないよね。きっと太陽くんの家族が迎えに来て、もう家に帰ったんじゃないかな?」
「代わりは誰がやるんだろうね?」
一組のみんながそんな噂話をする中、レクリエーション係が前に出る。
「それでは、今からキャンプファイヤーを点火します。……点火をするのは、一組の学級委員、天野太陽くんです!」
六年生のほぼ全員が「おおっ」と声を上げた。
私もびっくりして、目が真ん丸になる。
たいまつを持って建物の陰から登場したのは、本当に、太陽くんだった。
「太陽く~んっ!」
「太陽っ! おかえりーっ!」
一組のみんなが叫んで、広場が大盛り上がり。
全員、太陽くんのことが心配でたまらなかったんだ。
「恥ずかしいよ」
炎に顔を照らされた太陽くんが笑う。病院から帰ってきて、すっかり元気になったみたいだ。
「よかったー。うち、本当に心配で……」
樹里ちゃんも恵奈ちゃんも花鈴ちゃんも、笑いながら泣いている。
私もほっとしていた。
春野先生の「大丈夫」という言葉は、気休めなんかじゃなかったんだ。
太陽くんと自然の家のスタッフの人が協力してキャンプファイヤーに火をつけた。組まれた薪が燃えていく。夜の屋外で見る火は、とてもきれいだった。
私たちは手を繋いで大きな環を作り、キャンプファイヤーを囲んで一緒にマイムマイムを踊った。
学校で練習したときは、みんな恥ずかしそうだったけれど、夏の夜空の下でやるマイムマイムは、すごく盛り上がった。
最後にみんなで歌うのは「遠き山に日は落ちて」。
きれいだけどさみしい曲で、臨海学校は明日で終わりだということを実感した。
胸のあたりがざわざわとする。
「苦しい」とも、「胸騒ぎ」とも違う、不思議な感覚があった。
「あー、なんかさみしくなってきた」
歌い終わって、誰かが言った。
(そっか、これって『さみしい』なんだ……)
消されていくキャンプファイヤーの火を眺めながら、私は「さみしい」という気持ちを覚えた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
スペクターズ・ガーデンにようこそ
一花カナウ
児童書・童話
結衣には【スペクター】と呼ばれる奇妙な隣人たちの姿が見えている。
そんな秘密をきっかけに友だちになった葉子は結衣にとって一番の親友で、とっても大好きで憧れの存在だ。
しかし、中学二年に上がりクラスが分かれてしまったのをきっかけに、二人の関係が変わり始める……。
なお、当作品はhttps://ncode.syosetu.com/n2504t/ を大幅に改稿したものになります。
改稿版はアルファポリスでの公開後にカクヨム、ノベルアップ+でも公開します。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
化け猫ミッケと黒い天使
ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。
そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。
彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。
次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。
そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。
月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。
辺境の隅っこ暮らしが一転して、えらいこっちゃの毎日を送るハメに。
第三の天剣を手に北の地より帰還したチヨコ。
のんびりする暇もなく、今度は西へと向かうことになる。
新たな登場人物たちが絡んできて、チヨコの周囲はてんやわんや。
迷走するチヨコの明日はどっちだ!
天剣と少女の冒険譚。
剣の母シリーズ第三部、ここに開幕!
お次の舞台は、西の隣国。
平原と戦士の集う地にてチヨコを待つ、ひとつの出会い。
それはとても小さい波紋。
けれどもこの出会いが、後に世界をおおきく揺るがすことになる。
人の業が産み出した古代の遺物、蘇る災厄、燃える都……。
天剣という強大なチカラを預かる自身のあり方に悩みながらも、少しずつ前へと進むチヨコ。
旅路の果てに彼女は何を得るのか。
※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部と第二部
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」
からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。
あわせてどうぞ、ご賞味あれ。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ミズルチと〈竜骨の化石〉
珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。
一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。
ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。
カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる