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26.ふざけている場合じゃない
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「え、あれって太陽くんじゃない?」
「なんで泳いでんだろ? おーい!」
樹里ちゃんたちも太陽くんを見つけて、大きい声で呼ぶ。
太陽くんはこっちに向かって大きく手を振っている。みんなは笑いながら「おーい、おーい」と太陽くんを呼んだ。
でも、様子がおかしいことにだんだんと気が付いて、みんなで顔を見合わせた。
そもそも、遊泳の時間じゃないのに太陽くんが一人で海に入っているなんて、どう考えてもおかしい。太陽くんのふざけた姿なんて、一度も見たことが無い。
「どうした? なんかあったのか?」
昴くんが興味津々に駆けてきた。
「……太陽?」
「太陽くん、なんで一人で泳いでるのかな?」
昴くんの顔がさあっと青ざめた。
「溺れてる……!」
みんなの「えっ?」という声が揃った。
「た、助けなきゃ!」
「うちが行く! 私だって泳げるし!」
樹里ちゃんが靴を脱ごうとした。
「だめだ!」
昴くんが樹里ちゃんに向かって怒鳴るように叫ぶ。
「子どもが泳いで助けるなんて無理だ! みんなで先生を呼んできて!」
「う、うん!」
樹里ちゃんたちは先生たちのほうへ走っていく。
昴くんは樹里ちゃんたちとは全く逆の方向、建物へ走り出した。
「昴くんっ!?」
「月渚は太陽を見てて!」
訊き返す間もなく、昴くんは走って行ってしまう。
(と、とにかく太陽くんを見ていなくちゃ!)
私は立ち上がれない様子の瀬戸さんを置いて大急ぎで堤防に上り、神社のほうへ駆ける。
「太陽くんっ! 今、助けが来るからね!」
聞こえているかどうかはわからなくても、私は必死で呼びかけた。
太陽くんはずっと手を振っている。だけど、だんだんと動きが弱くなっていく。
夏なのに、背中のあたりがすうっと冷たくなっていくのを感じた。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう……っ!)
体を濡らせない私は太陽くんをただ見守ることしかできない。
「月渚ぁっ!」
昴くんが戻って来た。
「……な、なんでそんなもの!?」
建物から戻って来た昴くんはなんと、クーラーボックスを抱えていた。
たった今必要なものとは、とても思えなかった。昴くんはクーラーボックスを地面に下ろす。中からなにか取り出すのかと思いきや、ふたを開けることもせず、なんと……!
「うおりゃああああああああああっ!」
海に放り投げてしまった。
投げられたクーラーボックスは私たちと太陽くんの真ん中あたりにドボンと落ちた。
「くそーっ!」
昴くんは悔しそうに地面をだんっと踏み鳴らした。
「す、昴くんっ! こんなときに……」
「ふざけている場合じゃない」と言いかけて、私ははっと気が付く。
クーラーボックスは海の中に沈まず、ぷかぷかと浮いている。私はようやく、昴くんがなにをしようとしていたのかわかった。
昴くんは、クーラーボックスを浮き輪の代わりにしようと思ったんだ!
「太陽くんはっ!?」
樹里ちゃんたち、そして春野先生と冴島先生が駆け付けてきてくれた。
春野先生もクーラーボックスを持っていた。春野先生もきっと、浮き輪代わりにできることを知っていたに違いない。
でもまた的を外したら、このクーラーボックスまでもが無駄になってしまう。
「……貸してください! 私が投げます!」
春野先生からクーラーボックスを奪い、両腕で高く掲げる。
太陽くんに向き直った。
どのくらいの力加減で、どのように投げればいいか。
私は人工知能を使って一瞬で計算を終えた。
腕を振りかぶり、思いきり投げる!
「いっけえええええええええっ!!」
クーラーボックスは空中に弧を描くようにとんでいき「どぼん!」と海に落ちた。
太陽くんの目の前だ!
「よしっ! 月渚、ナイスッ!」
昴くんがガッツポーズを決める。
太陽くんは何度か手を滑らせながらも、クーラーボックスにしがみついてくれた。
海に浮かんでいる太陽くんに、クロールで近づいていく人影があった。よく見ると、冴島先生だった。
すごく速い。テレビで観る、オリンピック選手のような泳ぎぶりに見えた。
「冴島先生っ! 太陽くんを助けてーっ!」
樹里ちゃんがわあっと泣き始める。
冴島先生はとうとう太陽くんの元にたどりついた。
「よ、よかった……!」
ブーンと、大きなモーター音が聞こえてくる。
太陽くんと冴島先生の元にボートが近づいていた……。
「なんで泳いでんだろ? おーい!」
樹里ちゃんたちも太陽くんを見つけて、大きい声で呼ぶ。
太陽くんはこっちに向かって大きく手を振っている。みんなは笑いながら「おーい、おーい」と太陽くんを呼んだ。
でも、様子がおかしいことにだんだんと気が付いて、みんなで顔を見合わせた。
そもそも、遊泳の時間じゃないのに太陽くんが一人で海に入っているなんて、どう考えてもおかしい。太陽くんのふざけた姿なんて、一度も見たことが無い。
「どうした? なんかあったのか?」
昴くんが興味津々に駆けてきた。
「……太陽?」
「太陽くん、なんで一人で泳いでるのかな?」
昴くんの顔がさあっと青ざめた。
「溺れてる……!」
みんなの「えっ?」という声が揃った。
「た、助けなきゃ!」
「うちが行く! 私だって泳げるし!」
樹里ちゃんが靴を脱ごうとした。
「だめだ!」
昴くんが樹里ちゃんに向かって怒鳴るように叫ぶ。
「子どもが泳いで助けるなんて無理だ! みんなで先生を呼んできて!」
「う、うん!」
樹里ちゃんたちは先生たちのほうへ走っていく。
昴くんは樹里ちゃんたちとは全く逆の方向、建物へ走り出した。
「昴くんっ!?」
「月渚は太陽を見てて!」
訊き返す間もなく、昴くんは走って行ってしまう。
(と、とにかく太陽くんを見ていなくちゃ!)
私は立ち上がれない様子の瀬戸さんを置いて大急ぎで堤防に上り、神社のほうへ駆ける。
「太陽くんっ! 今、助けが来るからね!」
聞こえているかどうかはわからなくても、私は必死で呼びかけた。
太陽くんはずっと手を振っている。だけど、だんだんと動きが弱くなっていく。
夏なのに、背中のあたりがすうっと冷たくなっていくのを感じた。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう……っ!)
体を濡らせない私は太陽くんをただ見守ることしかできない。
「月渚ぁっ!」
昴くんが戻って来た。
「……な、なんでそんなもの!?」
建物から戻って来た昴くんはなんと、クーラーボックスを抱えていた。
たった今必要なものとは、とても思えなかった。昴くんはクーラーボックスを地面に下ろす。中からなにか取り出すのかと思いきや、ふたを開けることもせず、なんと……!
「うおりゃああああああああああっ!」
海に放り投げてしまった。
投げられたクーラーボックスは私たちと太陽くんの真ん中あたりにドボンと落ちた。
「くそーっ!」
昴くんは悔しそうに地面をだんっと踏み鳴らした。
「す、昴くんっ! こんなときに……」
「ふざけている場合じゃない」と言いかけて、私ははっと気が付く。
クーラーボックスは海の中に沈まず、ぷかぷかと浮いている。私はようやく、昴くんがなにをしようとしていたのかわかった。
昴くんは、クーラーボックスを浮き輪の代わりにしようと思ったんだ!
「太陽くんはっ!?」
樹里ちゃんたち、そして春野先生と冴島先生が駆け付けてきてくれた。
春野先生もクーラーボックスを持っていた。春野先生もきっと、浮き輪代わりにできることを知っていたに違いない。
でもまた的を外したら、このクーラーボックスまでもが無駄になってしまう。
「……貸してください! 私が投げます!」
春野先生からクーラーボックスを奪い、両腕で高く掲げる。
太陽くんに向き直った。
どのくらいの力加減で、どのように投げればいいか。
私は人工知能を使って一瞬で計算を終えた。
腕を振りかぶり、思いきり投げる!
「いっけえええええええええっ!!」
クーラーボックスは空中に弧を描くようにとんでいき「どぼん!」と海に落ちた。
太陽くんの目の前だ!
「よしっ! 月渚、ナイスッ!」
昴くんがガッツポーズを決める。
太陽くんは何度か手を滑らせながらも、クーラーボックスにしがみついてくれた。
海に浮かんでいる太陽くんに、クロールで近づいていく人影があった。よく見ると、冴島先生だった。
すごく速い。テレビで観る、オリンピック選手のような泳ぎぶりに見えた。
「冴島先生っ! 太陽くんを助けてーっ!」
樹里ちゃんがわあっと泣き始める。
冴島先生はとうとう太陽くんの元にたどりついた。
「よ、よかった……!」
ブーンと、大きなモーター音が聞こえてくる。
太陽くんと冴島先生の元にボートが近づいていた……。
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