アンドロイドが知りたいこと

ばやし せいず

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16.渚

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 自然の家で入所式にゅうしょしきませると、まずは昼食の時間になった。

 六年生全員で、ぞろぞろと食堂へ移動する。私は太陽くんとすばるくんのもとへった。

学級委員がっきゅういいんって、自然の家の職員さんのお手伝いをするんだよね? 私も手伝うよ!」

 学級委員の二人を手伝えば、太陽くんと過ごせる時間も増える。私はそう考えた。

「え? 大丈夫だよ。僕たち二人でなんとかなるから、月渚はゆっくりしていて」
「そうそう。おまえがいても邪魔じゃまだしな~」
「邪魔? どうして? 二人より三人のほうが効率が良いと思うけどな……」
月渚るなちゃ~ん! こんなところにいたの? 探しちゃったわ~」

 ぱたぱたと駆けてきたのは、春野先生だった。

「月渚ちゃんの控室ひかえしつを案内するわよ~。今のうちに休憩きゅうけいしておきましょう」

 そうだった。
 給食の時間に保健室で休憩をするように、臨海学校中も控室で「アン活」することになっているんだった。

臨海学校りんかいがっこうでも、昼休憩は別々なんだな」
「月渚、臨海学校はまだまだこれからだから、休めるうちに休んでおいたほうがいいよ」

 ちょっとくらいなら大丈夫、と言いたいところだったけど……。

「うん、わかった。ありがとう」

 ここは引き下がるしかない。
 臨海学校中に体が動かなくなったら大変だ。春野先生だって忙しいんだから、迷惑をかけられない。普段よりマメに充電じゅうでんをして、潤滑油じゅんかつゆを飲まなくては。
 太陽くんたちのお手伝いをする作戦は、失敗に終わった。

「ルナちゃん用の控室はこっちよ~」

 私は太陽くんたちと別れ、春野先生に連れられて通路のおくへ進む。
 一度建物を出て、連絡路を通り、また別の建物に入った。廊下のずっと奥に畳敷たたみじきの部屋があって、ここが私の控室となるらしい。

 中には荷物がいっぱいあって、物置のような空間になっている。出入り口のドアの近くには、クーラーボックスや救急セットも置かれていた。これは養護ようごの春野先生が使うものみたい。

 控室は狭いけれど、みんなが訪れるような場所ではないし、厚いカーテンもある。
 ここなら隠れてアン活ができそう。

 私はポシェットからコードを出して、さっそく充電を始めた。
 みんながお昼ごはんを食べ終わったら一緒に海に行く。それまでにアン活を終わらせなくちゃ。

「潤滑油の缶はこのダンボールの中よ。必要になったらここから出してね」

 部屋のすみのダンボールを春野先生が開けて見せてくれた。

「それじゃあ、私は食事の見守りをしなくちゃだから、食堂に行くわね~」
「はい。ありがとうございました」
「なにかあったら食堂まで……、あらっ」

 春野先生はシャッとカーテンを開けてしまった。

「ちょ、ちょっとなにしてるんですかっ!」

 私は大慌おおあわてで背中からのびた充電コードを引っこ抜く。もし誰かにこんな姿すがたを見られたら、人間ではないことがすぐにばれてしまう。

「大丈夫よ。誰もいないわ。ルナちゃんも見て!」

 のんきに笑う春野先生が窓の外を指さした。私は立ち上がって、夏の日差しでまばゆい外をのぞく。

「わあ……っ!」

 砂浜すなはまの先に、海が広がっていた。これからみんなが遊びに行く海だ。今はまだ誰の姿も無い。
 バスからながめる海とは迫力はくりょくが違った。波がきらきらとお日様を反射はんしゃさせている。

特等席とくとうせきね~」

 春野先生も、うっとりと海をながめている。

およいでみたいなあ……」

 私は思わずつぶたいた。あの波の中にやだよえたら、どんなに気持ちいいだろう。
 海水は冷たいのかな。
 温かいのかな。
 波のきらきらを、手ですくうことはできるのかな。
 あこがれるけど、あのなぎさで足をらすことすら、私にはできない。

(月渚、ごめんね)

 海に入って、すいすい泳ぎたかったよね。
 代わりに泳げたらよかったんだけど、でも、この体じゃできないんだ……。

「先生も泳げたらよかったんだけどなあ」

 春野先生はつまらなそうにほおふくらませている。

「先生は泳いじゃいけないんですか?」
「泳ぐのが苦手なのよお。泳げない代わりに、みんな監視かんし救護きゅうごにつとめるわ」
「泳げない大人も存在そんざいするんですね」

 私はまじまじと春野先生を見つめてしまった。

「たくさんいるわよ~。得意なことと不得意なことがある。それが人間ってものよ」
「そういうものですか」

 私はぱちぱちまばたきした。
 人間について、まだまだ学ぶことがありそうだ。
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