チルドレン

サマエル

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16話

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 第4章 邂逅(かいこう)



「お父さん」
 私は言った。今は母と父家族三人でピクニックをしているのだ。その中で私はお父さんにいった。

「高い高いして」
 お父さんは嬉しそう(うれしそう)な顔をしていった。
「じゃあやるか」

「あらあらアイリスはお父さんが好きね」
「やるぞ」
「うん」
 お父さんが私の体を持ち上げる。

「たかーい、たかーい」
 それに私はキャキャっと笑う。懐かしい(なつかしい)夢だ。
 いや、ちょっと待てよ!私、お父さんとは会ってないじゃん!
 それで一気に覚醒(かくせい)の時を迎えた(むかえた)。



「う」
 視界が霞む(かすむ)。私は目をしばしばさせて辺りを見渡した。
「ここは?」

私は体を見た。体にぴったりと合うタイツスーツ。他にはここは洞穴(ほらあな)のように周りが岩に囲まれている。ここはどこだ?

「キガ、ツイタカ」
 私は反射的にびくりと体を縮こまさせて(ちぢこまさせて)、声のした方を見た。そこにはあの緑色の魔力10000のベリアル型がいた。

「あなた!」
 そう、叫んだ瞬間。私は不思議(ふしぎ)さを覚えた。そうだ、私はロック型にさらわれて、しかも腹に強打を受けたのに今はどこも痛くない。どうしてだ?

 まさか。
 私はマジマジとベリアル型を見た。

「もしかして、あなたが回復してくれたの?」
「ソウダ」
 片言(かたこと)の発音がおかしい言葉だったが、どこか純朴(じゅんぼく)さのある声だった。
 私は居住まい(いずまい)を正した。

「私の名前はアイリス。助けてくれてありがとうございました」
 私は深々とお辞儀(おじぎ)をした。それにモンスターは。
「キニ、スルナ」
「あなたがロック型、あの鳥のモンスターから私を助けてくれたのね?」
「ソウダ」

 改めて見渡すとここは洞穴(ほらあな)だった。中央に火が燃えている。多分、魔力の火だろう。
 私がじっとしていると、ベリアル型が聞いてきた。
「アツイカ?」
「え?」
「イヤ、ヒ、ガ、アツカッタラ、イッテクレ」
「気遣って(きづかって)くれるの?」

 ちょっとと言うかかなりの衝撃(しょうげき)だった。今まで女性をレイプしまくるモンスターが女性を気遣って(きづかって)くれるなんて、なんか信じられない。
 ベリアル型は犬のドクロの顔の瞳が全くない顔で聞いてくる。

「ドウシタ?」
「あなたは私を襲わないの?」
 それに彼は丁寧(ていねい)とも取れる声を漏らした。

「ドウイエバ、イインダ?」
「どう言うことなの?ゆっくりでもいいから説明して?」
 それにベリアル型が素直に頷いた(うなずいた)。

「ウン。オレタチ、ミンナ、イッショジャ、ナインダ」
「それは女性を襲う(おそう)奴もいればそうでない奴もいると言うこと?」

「ソウ、ナル。ダイタイ、オソワナイヤツ、ズットモリニイテ、アクマノ、テツダイヲシテイル」
「悪魔」

 噂(うわさ)では聞いたことがある。モンスターの中で森の森深くにいて、人間や天使と同じように知性があり、そして、いつか魔王の元、世界を滅ぼすために行動する悪の化身。

 俗説にはモンスターが女性をさらうのも、モンスターが女性を犯すと言うよりかは、女性を魔王の生贄(いけにえ)としてモンスターを扱っていると言うのは噂(うわさ)では聞いたことがある。
「悪魔の手伝いって、女性を拐かす(かどわかす)ためにモンスターをけしかけているの?」
 それにベリアル型は動きが止まった。
私は訝しげな表情をした。だめだ。表情がないからよくわからない。

「?カドワカス。ナゼ?」
「イヤだって、悪魔は世界を滅ぼすために行動しているんでしょう。そして一番のボス、魔王のために生贄(いけにえ)を……………」

 それにベリアル型は被り(かぶり)を振った。
「オレ、オマエノ、イウコトガ、ワカラナイ。タダ、アクマタチハ、ニンゲンノ、メス、ヤ、エルフタチヲ、タスケテイルンダ」
「え?」

 今まで聞いていた話と違う。今までは魔王が世界を征服するために弱いモンスターたちを作って、悪魔たちが配下(はいか)として色々動くんじゃなかったのか?
「オレ、オマエノ、カンガエガワカラナイ。ハナシガ、クイチガッテイル、ヨウダ」
 いや。

 これはあくまでも噂(うわさ)話。実際に帝国の中で悪魔や魔王を実際に見たと言う人はいない。その真偽を確かめる冒険者はたまにいるけど、誰もがその存在(そんざい)を見たことはない。
 そうよね。噂(うわさ)話が本当なら、そもそもモンスターの彼が私を助けてくれる方がおかしいよね。

「ごめん!」
 私は彼に頭を下げた。
「なんか私たちいろいろあなたたちのことを勘(かん)違い(ちがい)してたみたい。変な誤解してごめんね。考えれば人にもいろんなタイプの人がいるからさ、人類ってだけでは本当は括る(くくる)のは難しいよね」

 そう言って、私はナハハと笑った。
 しかし、ベリアル型は被り(かぶり)を振った。

「イヤ、イインダ。ジッサイニ、オレタチノ、ドウゾク、ノナカニハ、メスニタイシテ、ヒドイコトヲ、オコナッテキタ。ダカラ、ヒナンサレテモ、イインダ」
「でも!」
 私は言の葉(ことのは)を継なぐ(つなぐ)。

「あなたはいい人じゃない!」
「ナラ、オネガイ、イイカ?」
「う、うん」
 一体、何をお願いするんだろう?瞳(ひとみ)がないからわからないし、彼が悪い人ではないにしても、その禍々しい(まがまがしい)体型と強すぎるオーラから、私は少したじろいだ。

「オレ、オネガイ。シッテホシイ」
「何を?」
「オレタチノ、コトヲ」

「うん」
「オレタチノ、ジュミョウ、マリョクデキマル」
「うん」
 それは知っている。サラさんから聞いたことだ。

「オレタチ、ミンナ、チセイガアル。デモ、ゲンジツ、ザンコク。ナガクイキルモノモ、イレバ、スグ、シヌヤツモイル」
「うん」

 なんとなくわかって来た。というよりサラさんから聞かされたこととほとんど同じだ。しかし、彼から改めて聞かされると、なんだろう、前に聞いていたときとは違う。

「ダケド、ホントウ、ザンコクナノハ、イノチノ、ミジカサデハナイ。ミンナ、リビドーモッテイル、ミジカクシヌヤツ、ソレガツヨイ」

「だからか。だからモンスターたちは女性を襲う(おそう)のね?そして、魔力が高い、寿命が長いモンスターは女性を襲わないんだ」
 それに彼はコクリと頷いた(うなずいた)。

「ソウダ、ホトンドノ、ツヨイナカマ、メスオソワナイ」
「なるほどなるほど」

「オレタチヲ、ニクムナトハイワナイ。オレデモ、ショッチュウメスヲ、オソイタイ、ガンボウガアル。タブン、ヨワイヤツラハ、セイヨク、ツヨスギテ、ドウニモナラナイホド、リビドー、タマッテイル」
「分かったわ」
 私は彼の話を遮った(さえぎった)。

あなたの話、分かったわ」
「ソウカ」

 なんだろうな。サラさんから聞いた時には本当にどうしようもない奴ら(やつら)だと思ったけど、今聞いてみると彼らの悲しみがわかった気がした。
 不思議(ふしぎ)だな。
 ふと、そんなことを考える。

 サラさんから聞かされた時には、それは異常な出来事だと思っていたけど、でも今、この状況、私を助けたモンスターが、自分よりも悲惨(ひさん)な同族の弁明(べんめい)を設けていると、なんか不思議(ふしぎ)と許せる気になって来た。おそらくこのベリアル型の存在(そんざい)が大きい、と思う。
 彼は暖炉のそばに行って、焼いてあったヤマメを私に突き出した。

「クウカ?」
「うん」
 私は素直に受け取った。
「あ、でも、トイレが………」
「チョットマッテロ」

 彼の手が私のお腹を当てた。
「う!これは!?」
「コレデ、ハイセツブツノ、シンパイハナイ」

 私のお腹に強烈な魔力を感じる。多分刻印(こくいん)だ。何がとはわからないが多分腸(ちょう)の中から出た排泄物(はいせつぶつ)を消去してくれるものだ。
 そう彼が触った腹の中から、しっかりとした生命の潮流(ちょうりゅう)としか言いようがない感覚(かんかく)を感じた。

 私はリサーチの魔術をかけた。やはり彼が施したのは生命の刻印(こくいん)で腸の外に出た排泄物(はいせつぶつ)を全て消去する魔術刻印(こくいん)だ。いや、魔法か。彼は全く無意識のうちに魔法を加工した魔術のように扱うことができるのだ。
 すごい。

 私はただただそう思った。魔法を自在に魔術のように扱う。と言うよりも人間たちでは、魔法がモンスターより弱いために魔術理論が発達したのだ。
 なぜ彼が自然に魔術を扱えるのかわからないが、私はただただ彼の技術に感服(かんぷく)した。

「タベナイ、ノカ?」
 瞳なき空洞がこちらを見ている。
「あ、うん。食べるね」
 そして、私はムシャムシャとヤマメを食べ始めた。ちょっと焦げていたが美味しかった。

「うん。おいしい」
 私は笑顔で彼に言った。彼は頷いた(うなずいた)。
「あ、ところでさ」
「ナンダ」

「二つ言ってもいいかな?」
「イクツ、デモ、イエバイイゾ」
「まず、女性をメスという呼び方やめてくれない?」
 それに彼は困惑(こんわく)したように首を傾げた。
「ナゼ?ドチラモ、オナジイミダト、オモウ」

「いや、だってメスだって言われたらさ、私たち動物見たいじゃん?」
「ドウブツ、デハ、ナイノカ?」

「違うの!私たち人間は神に選ばれた種族なんだから!他の動物とは違うの!それに私たち知性を持っているでしょう?他の動物は知性持ってないじゃん!」

「ウン。ソレハワカル。デモ、シュゾクゴトニ、イイテン、ワルイテン、ガアルト、オモウ。オレタチハ、サカナノヨウニ、オヨゲナイシ、トリノヨウニ、ジユウニ、ハバタケナイ。チセイガ、アルカラトイッテ、ニンゲンダケガ、オナジドウブツ、ノナカデ、トクベツシスル、ノハワカラナイ」

「いやだからね。私たちの知性は神様によって与えられたものなの。今の女神様を生み出した創造神によって与えられたの。だから、私たちは特別なのよ」
 しかし、私の説得も彼は今一歩わかっていない様子だった。

「ダッタラナンデ、ソウゾウシン、ニンゲンノツゴウノイイ、セカイツクラナカッタ?」
「え?」
 どう言うこと?

「ヨノナカノドウブツ、ニンゲンニオンケイヲ、モタラスモノバカリジャナイ。ナカニハ、ドクヲモツモノモイルシ、ニンゲンガ、タベヨウト、シナイドウブツ、ダッテイル。
ナラ、ナゼ、ソウゾウシン、ソレヲウミダシタ?ニンゲンガ、トクベツナラ、ニンゲンノ、ツゴウノヨイ、セカイヲ、ウミダスコトモ、デキタハズダ」

「そ、それは………」
私は黙った。それに反論(はんろん)できない。

そこまで厳密(げんみつ)に世界のことを考えていなかった。ただ牧師の受け売りでそう聞いて周りも疑って(うたがって)いないからそれが正しいんだろうな、と思っただけで、特にそれを厳密(げんみつ)に考えなかった。
そうやって固まっていると彼が声をかけた。

「ワカッタ。ジャアコウシヨウ。オレガニンゲン、ノメスヲメス、トヨバナイノハアイリス、キミガ、ソウ、ノゾマナイカラオレ、ハメストヨバナイ」
 グスッ。

「アイリス!ダイジョウブカ!?」
 私は被り(かぶり)を振るう。
「うん。大丈夫。あなたってとっても良い人だなぁ、って思ったの」
「イイヒト?」

 彼はよくわからなさげだった。
「オレ、ジブンガ、イイヒトカ、ワカラナイ。イワレタコトナイ」

「あなた。ご両親はいるの?それはそうそう、あなたの名前を聞かないと。話せるってことは誰かに教わったんでしょう?」
 それに彼は被り(かぶり)を振った。

「オレ、ナマエナイ」
「え!?」
「ソシテ、リョウシン、モイナイ。モリニウマレテタ。ゲンゴハ、キヅケバ、シュウトクシテイタ」
「え!ええ!?」

 衝撃(しょうげき)だった。だが、考えてみれば不思議(ふしぎ)なことではないかもしれない。普通に両親から子供が生まれるのも、言語を両親や先生に教わるのも全て人間のことだ。
 逆に鹿(しか)の赤ん坊なんかは生まれた段階から歩ける。人間の赤ん坊とは大きく違う。

 人間を中心に考えていたから、人間としては当たり前だと思っていたことも別の種族からすれば常識外だったかも。言語も先天的に身につけることができる種族がいても不思議(ふしぎ)ではない。
 実際にモンスターについてはわかっていないことも多いし。
 ま、でも。

「なら、決まりね。あなたの名前を決めましょう」
「オレ、ノ、ナマエ?」
「私が決めていい?」
 そう笑顔で行ったら彼はコクリと頷いた(うなずいた)。

「あなたの名前はレバントでどうかしら?」
「レバン、ト?」
 彼は不思議(ふしぎ)そうに言った。そして、レバント、レバントと繰り返す。
「ウン。ナンカ、シックリコナイ、ナマエノ、ユライアル?」

「それは私の父の名前よ」
「アイリスノ、チチノ?」
「そうお父様の名前。あなたにぴったりだわ。とっても優しい(やさしい)し、いつも私のことを気にしてくれるし、ぴったりだわ」
 そう言うとレバントはぴくりともしなかった。

「オレ、ヤサシイカ?」
「優しい(やさしい)わよ。とっても」
「ヤサシイッテ、ホメコトバ、カ?」

「うーん。優しい(やさしい)男性が好きじゃない女性もいるけどね。私は好きだな。優しい(やさしい)男性」
「ソウカ」
 それっきりレバントは黙った。

 うーん。表情がないと何考えているかわからないで困るな。
 突然、レバントを立ち上がった。その体からオーラが発せられる。
 それは圧倒的で、レバントが悪いモンスターではないと思っても、思わず吐き気がするほどの圧倒的な力。私ではどうあがいてもレバントには太刀打ちできない。

 それはすぐ終わった。オーラの本流が止み、レバントがこちらに振り返る。その手に持っていたのは…。
「毛布」
「ニンゲン、コレカブッテネル。キオクサレテイタ、ジョウホウデシッタ。ダガ、ジツブツ、ミテイナイ、ツクルノ、クロウシタ」
「あ、ありがとう」
 私は毛布を受け取って。途端に眠気が出てくる。

「ネルトイイ。オレ、ミハッテイル」
「ありがとう」
 私は笑顔で行って毛布をかぶった。
 普通に考えればモンスターの横で寝るなんて正気じゃなかったが、やろうと思えばレバントは私をいくらでも犯せる。

 しかし、彼にそうした気配がなく。彼と話してみて本当にいい人だと持ったから私は安心して横になった。
 ふぁーあ。本当にいい人よね、レバント。モンスターにするのがもったいないくらい。

 そしてお父様のことを思い出す。
 お父様。
 しばらくして私は眠りに落ちた。

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