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第八章 写楽落葉
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大童山の土俵入りは大判の三枚組に仕立て上げた。出来栄えを確かめた重三郎は大喜びだった。
「やっぱり、お喜乃の絵は中見だな。威力が違わぁ。男の格好をさせてまで本物を観に行かせた甲斐があったってぇもんよ。大童山は、間違いなく写楽が一番だ、違ぇねぇ」
重三郎が膝を打って、にんまりと笑む。
「いやいや、まだ他の絵師の絵を見てもいねぇのに、わからねぇだろ。早計だぜ」
水を差した長喜に向かい、重三郎が舌打ちした。
「見るまでも、ねぇや。俺ぁ、他の絵師の絵を知ってんだ。これ以上に気魄を込めて描ける絵師なんざぁ、いねぇよ」
重三郎が満足そうに喜乃の絵に見入った。
「見立の練習をしていたから、中見も前より巧く描けるようになったんだと思うの。顔見世では、蔦重さんに迷惑を掛けてしまったし。土俵入りは、何としても巧く描きたかったの」
喜乃が申し訳さそうな顔をする。重三郎が喜乃に目の先を向けた。
「評判を気にしていんのなら、何も悪かねぇぜ。写楽の絵は、好きと嫌いが、はっきりと分かれる。嫌いな奴は去っていく。好きな奴は残る。そうやって、絵師の人気は本物になっていくんだ。気にするねぇ」
重三郎が喜乃の肩を叩く。
「むしろ写楽ってぇ絵師を、俺がわかっていなかった。仕事の振り方を間違ったのは、俺だ。謝るのは、俺のほうだ」
頭を下げる重三郎に、喜乃が慌てる。
「蔦重さんのせいじゃぁないわ。私の力不足だもの。それこそ、感謝してもしきれないと思っています。自分の不得手が分かって、何を努力すればいいか、道筋が立ちました」
ぺこりと頭を下げる喜乃に、重三郎が眉を下げて笑った。
「どこまでも前向きだなぁ、お喜乃は。言うまでもねぇだろうが、見立の練習は続けとけよ。次は年明けの初春興行だ。三座とも、中見で描いてもらうぜ。初春から桟敷で絵を描けんのは、楽しみだろ」
喜乃の目が輝いた。
「とても楽しみだけど、見立じゃなくって、いいの? 中見で描いて、いいの?」
重三郎が頷いた。
「見立は、もう少し上手くなってから機会を作る。今は、中見で勝負だ。あとは、これまで腐らず描き続けてきた、お喜乃への褒美、だな。初春は絵だけでなく、芝居も楽しんで来い。桟敷に座るんだ。長喜と一緒に、着飾って行ってきな」
喜乃の顔に嬉しさが溢れる。喜乃が長喜に目を向ける。
長喜は重三郎と同じように頷いた。
「蔦重さんの注文も、しっかと熟して、読売の揶揄にも腐らずに描いてきたんだ。正月くれぇは甘えて、芝居を楽しんで来ようぜ」
喜乃の目の輝きが増した。
「蔦重さん、ありがとうございます。好きな絵を売りに出せるだけでも嬉しいのに、御褒美まで貰えるなんて、思わなかった。最上の絵を描いて、楽しんできます」
喜乃の素直な感謝に、重三郎が照れたように笑う。
長喜の心にも発憤が沸き上がる。同時に、浮かれた気持ちに、なっていた。
「やっぱり、お喜乃の絵は中見だな。威力が違わぁ。男の格好をさせてまで本物を観に行かせた甲斐があったってぇもんよ。大童山は、間違いなく写楽が一番だ、違ぇねぇ」
重三郎が膝を打って、にんまりと笑む。
「いやいや、まだ他の絵師の絵を見てもいねぇのに、わからねぇだろ。早計だぜ」
水を差した長喜に向かい、重三郎が舌打ちした。
「見るまでも、ねぇや。俺ぁ、他の絵師の絵を知ってんだ。これ以上に気魄を込めて描ける絵師なんざぁ、いねぇよ」
重三郎が満足そうに喜乃の絵に見入った。
「見立の練習をしていたから、中見も前より巧く描けるようになったんだと思うの。顔見世では、蔦重さんに迷惑を掛けてしまったし。土俵入りは、何としても巧く描きたかったの」
喜乃が申し訳さそうな顔をする。重三郎が喜乃に目の先を向けた。
「評判を気にしていんのなら、何も悪かねぇぜ。写楽の絵は、好きと嫌いが、はっきりと分かれる。嫌いな奴は去っていく。好きな奴は残る。そうやって、絵師の人気は本物になっていくんだ。気にするねぇ」
重三郎が喜乃の肩を叩く。
「むしろ写楽ってぇ絵師を、俺がわかっていなかった。仕事の振り方を間違ったのは、俺だ。謝るのは、俺のほうだ」
頭を下げる重三郎に、喜乃が慌てる。
「蔦重さんのせいじゃぁないわ。私の力不足だもの。それこそ、感謝してもしきれないと思っています。自分の不得手が分かって、何を努力すればいいか、道筋が立ちました」
ぺこりと頭を下げる喜乃に、重三郎が眉を下げて笑った。
「どこまでも前向きだなぁ、お喜乃は。言うまでもねぇだろうが、見立の練習は続けとけよ。次は年明けの初春興行だ。三座とも、中見で描いてもらうぜ。初春から桟敷で絵を描けんのは、楽しみだろ」
喜乃の目が輝いた。
「とても楽しみだけど、見立じゃなくって、いいの? 中見で描いて、いいの?」
重三郎が頷いた。
「見立は、もう少し上手くなってから機会を作る。今は、中見で勝負だ。あとは、これまで腐らず描き続けてきた、お喜乃への褒美、だな。初春は絵だけでなく、芝居も楽しんで来い。桟敷に座るんだ。長喜と一緒に、着飾って行ってきな」
喜乃の顔に嬉しさが溢れる。喜乃が長喜に目を向ける。
長喜は重三郎と同じように頷いた。
「蔦重さんの注文も、しっかと熟して、読売の揶揄にも腐らずに描いてきたんだ。正月くれぇは甘えて、芝居を楽しんで来ようぜ」
喜乃の目の輝きが増した。
「蔦重さん、ありがとうございます。好きな絵を売りに出せるだけでも嬉しいのに、御褒美まで貰えるなんて、思わなかった。最上の絵を描いて、楽しんできます」
喜乃の素直な感謝に、重三郎が照れたように笑う。
長喜の心にも発憤が沸き上がる。同時に、浮かれた気持ちに、なっていた。
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