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第Ⅲ章
第68話 直日神の惟神の解析
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昨日は護と二人で眠った。
久しぶりだったし繋がりたかったけど、我慢した。もし直桜の中にまだ流離の毒が残っていたとして、それが護に悪影響を与えるのが怖かった。
護は直桜を包み込んで眠ってくれた。
朝、起きて、キスをして、朝食を食べる。
いつも通りの朝をなぞって、解析部に向かう。
移動中は護がずっと手を握っていてくれた。
「何があっても、俺は直桜を手放しませんから。だから、怖がらなくていいんです。直桜は一人じゃないから、俺がいつだって、傍にいるから」
エレベーターの中で護が直桜を抱き締めた。
護の一人称が俺に変わっている。護も緊張しているのだと思った。
同時に、自分が怯えているのだと気が付いた。
何が怖いのか、わからない。だけど何故か、夢の内容に触れたら、戻ってこれないような気がして、怖かった。
同じ怖さを護も感じているのだろうと思った。
解析部に着くと、すぐに解析対象を収める呪物室に案内された。
大きなベッドに護と直桜が隣り合って臥床する。
「保輔の時とは、違うんだね」
円が頷く。その顔はいつもより緊張して見えた。
隣にいた智颯が前に出て直桜と護の手を握った。
ゆっくりと智颯の神力が流れ込んで来た。
「今回は、僕の神力を触媒にして解析を行います。お二人の体に僕の神力を満たします」
智颯の神力は温かかった。
「神力を流すの、上手になったね、智颯」
つい二ヶ月前までは、神力の流し方がわからないと言っていた。そんな智颯に神力の流し方をレクチャーしたこともあった。
(懐かしいな。もう随分、昔のこと、みたいだ)
智颯の神力が心地よくて眠くなる。
「智颯君の神力は、温かいですね。とても安心します」
護が直桜と同じことを思ってくれたのが、嬉しかった。
智颯が直桜と護を眺めて、口を開いた。
「直桜様、僕は、集落にいた頃から直桜様が好きでした。流離と同じで、憧れの兄様ってだけじゃない。直桜様が13課に来てくれたら、僕がバディになって、恋人になって、直桜様を幸せにしたかった」
ウトウトし始めていた直桜は、懸命に目を開こうとした。
しかし、眠くて目が開かない。智颯の顔が見られない。返事をしたいのに、声が出せない。
「化野さんがいる場所には、僕がいたかった。最初は化野さんを恨んだりもしました。だけど今は、直桜様の隣に化野さんがいてくれて良かったって、素直に思うんです。化野さんは直桜様に必要な人で、化野さんでなければ、直桜様は救えないんだって」
「智颯君……」
小さく零れた護の声は、色んな感情を含んで聞こえた。安堵のような嬉しいような声に直桜の方が安心した。
「僕も今は直桜様の力になれるくらい強くなりました。僕も円も藤埜室長も他の皆も、直桜様の仲間です。直桜様はもう、集落にいた頃みたいに一人じゃないから、直桜様を待っている仲間は、たくさんいるから、だから諦めないで、直桜様のまま、戻ってきてください」
智颯の声が震えている。
どうしてそんなに悲しそうな声で、そんなことを言うのか、わからなかった。
涙を拭ってあげたいのに、手が重くて動かない。
「化野さん、直桜様をよろしくお願いします」
「大丈夫ですよ、智颯君。直桜は私が、絶対に連れて帰ってきます」
護の手が、智颯の涙を拭った気配がした。
直桜が出来なくても、護がしてくれる。それはとても安心できて嬉しい。
(俺はここにいるのに、どうして智颯も護も、戻って来いとか連れ帰るとか、いうのかな)
智颯の神力が全身を満たして、眠気が増していく。
何かを言いたくて、直桜は必死に口を開いた。
「智颯……、俺がもし、戻って、来なかったら、俺を殺して、直日と護を、助けて、ね」
何故、自分がそんなことを口走ったのか、自分でもわからなかった。
しかし、ぼんやりと、今ここに自分はいないのだと思っていた。
久しぶりだったし繋がりたかったけど、我慢した。もし直桜の中にまだ流離の毒が残っていたとして、それが護に悪影響を与えるのが怖かった。
護は直桜を包み込んで眠ってくれた。
朝、起きて、キスをして、朝食を食べる。
いつも通りの朝をなぞって、解析部に向かう。
移動中は護がずっと手を握っていてくれた。
「何があっても、俺は直桜を手放しませんから。だから、怖がらなくていいんです。直桜は一人じゃないから、俺がいつだって、傍にいるから」
エレベーターの中で護が直桜を抱き締めた。
護の一人称が俺に変わっている。護も緊張しているのだと思った。
同時に、自分が怯えているのだと気が付いた。
何が怖いのか、わからない。だけど何故か、夢の内容に触れたら、戻ってこれないような気がして、怖かった。
同じ怖さを護も感じているのだろうと思った。
解析部に着くと、すぐに解析対象を収める呪物室に案内された。
大きなベッドに護と直桜が隣り合って臥床する。
「保輔の時とは、違うんだね」
円が頷く。その顔はいつもより緊張して見えた。
隣にいた智颯が前に出て直桜と護の手を握った。
ゆっくりと智颯の神力が流れ込んで来た。
「今回は、僕の神力を触媒にして解析を行います。お二人の体に僕の神力を満たします」
智颯の神力は温かかった。
「神力を流すの、上手になったね、智颯」
つい二ヶ月前までは、神力の流し方がわからないと言っていた。そんな智颯に神力の流し方をレクチャーしたこともあった。
(懐かしいな。もう随分、昔のこと、みたいだ)
智颯の神力が心地よくて眠くなる。
「智颯君の神力は、温かいですね。とても安心します」
護が直桜と同じことを思ってくれたのが、嬉しかった。
智颯が直桜と護を眺めて、口を開いた。
「直桜様、僕は、集落にいた頃から直桜様が好きでした。流離と同じで、憧れの兄様ってだけじゃない。直桜様が13課に来てくれたら、僕がバディになって、恋人になって、直桜様を幸せにしたかった」
ウトウトし始めていた直桜は、懸命に目を開こうとした。
しかし、眠くて目が開かない。智颯の顔が見られない。返事をしたいのに、声が出せない。
「化野さんがいる場所には、僕がいたかった。最初は化野さんを恨んだりもしました。だけど今は、直桜様の隣に化野さんがいてくれて良かったって、素直に思うんです。化野さんは直桜様に必要な人で、化野さんでなければ、直桜様は救えないんだって」
「智颯君……」
小さく零れた護の声は、色んな感情を含んで聞こえた。安堵のような嬉しいような声に直桜の方が安心した。
「僕も今は直桜様の力になれるくらい強くなりました。僕も円も藤埜室長も他の皆も、直桜様の仲間です。直桜様はもう、集落にいた頃みたいに一人じゃないから、直桜様を待っている仲間は、たくさんいるから、だから諦めないで、直桜様のまま、戻ってきてください」
智颯の声が震えている。
どうしてそんなに悲しそうな声で、そんなことを言うのか、わからなかった。
涙を拭ってあげたいのに、手が重くて動かない。
「化野さん、直桜様をよろしくお願いします」
「大丈夫ですよ、智颯君。直桜は私が、絶対に連れて帰ってきます」
護の手が、智颯の涙を拭った気配がした。
直桜が出来なくても、護がしてくれる。それはとても安心できて嬉しい。
(俺はここにいるのに、どうして智颯も護も、戻って来いとか連れ帰るとか、いうのかな)
智颯の神力が全身を満たして、眠気が増していく。
何かを言いたくて、直桜は必死に口を開いた。
「智颯……、俺がもし、戻って、来なかったら、俺を殺して、直日と護を、助けて、ね」
何故、自分がそんなことを口走ったのか、自分でもわからなかった。
しかし、ぼんやりと、今ここに自分はいないのだと思っていた。
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