154 / 251
第Ⅱ章
第81話 忍び寄る影
しおりを挟む
窓のない真っ暗な部屋で、伊吹保輔はパソコン画面に向かっていた。
昼でも夜でも暗い室内はパソコン画面以外に灯りはない。
部屋の中にはタイピングの音だけが響く。
「なかなか、ええのが見つからんなぁ」
思わず零れた言葉は、愚痴でも悲観でもない。只の感想だ。
メールに気が付いて、保輔は作業を中断した。
内容を確認すると、ニヤリと口端を上げた。
「何やよぅ知らんけど、予想よりおもろい感じになったやん」
早速、メールの内容を打ち直して、別の相手に送信した。
「人殺しの神様ね。リーダーが喜びそうなネタやんなぁ」
メールで中断した作業を再開する。
「どれどれぇっと。警察庁公安部特殊係13課。強者揃いって聞くしなぁ。最初から最強狙うほど阿保ちゃうし。簡単そうなん、一人くらいいてへんのかいな」
ぼやきながらハッキングした職員データを流し見る。
そもそもが個人の雑なプロフィールに簡易な表現で能力が掲載されているだけのデータだ。さほど参考になるとも、思えないが。
しばらく眺めた先の、怪異対策担当のページで、スクロールする指を止めた。
「あれれ、ここに、ええのがおるやん」
ざっと経歴をさらう。
若く経験は浅そうだが、肩書は悪くない。何より、狙い通りの惟神だ。
添付されている写真を見るに、真面目な優等生と言ったところか。
こういったテンプレは堕としやすい。
通っている高校まで保輔にとって都合がいい。
思わず笑みが浮いた。
理想のカモを見付けたと思った。
「峪口智颯、か。可愛い顔してんの好みやし、ええなぁ。やる気出てきたわ」
硬い表情をした眼鏡の奥の、欲情剥き出しの顔を見てみたい。
「気持ち悦くしたったら、どないな顔するんかなぁ。情けなく喘ぐんやろなぁ」
綺麗な顔がどんなふうに歪むのか、安易に想像できて、笑えた。
久しぶりに保輔の心が躍った。
「ヤス、お客さん、来てるよ。さっさと対応してよ」
美鈴が扉を開けて、気怠い声で呼んだ。
黒かった部屋に淡い光が溢れる。
目が眩んで、思わず顔を顰めた。
「待たしときぃや。アイツ等、欲の塊やさけ、何時間でも待つで」
「いつまでもいられんのは気色悪いから、ヤることヤらせて、さっさと帰してっていってんの」
美鈴の不機嫌な声に、保輔は重い腰を上げた。
「ハイハイ、しゃーないなぁ。面倒でも仕事やもんねぇ。お金くれる人にはええ顔しとかんとなぁ」
気乗りしない仕事でも、それが明日の目的に繋がるのなら、仕方がない。
部屋を出て、狭い廊下を歩き出す。
さっき見た智颯の顔を反芻して、笑みが零れた。
「あん子はきっと、こないな汚い仕事は好かんのやろなぁ。穢れを知らずに育ったお坊ちゃんて感じや。あぁ、ぐちゃぐちゃに汚して、啼かせてみたいなぁ」
どろどろな悦楽を覚え込ませて、汚い欲に塗れさせてみたい。
抜け出せなくなるほどに。
自分から穢れを望むほどに、壊したい。
「さぁて。智颯君と、どないして遊ぼうかなぁ」
考えると笑いが止まらない。
躍る胸を抑えて、保輔は近い未来に想いを馳せた。
Next⇒『仄暗い灯が迷子の二人を包むまで・第Ⅲ章』
昼でも夜でも暗い室内はパソコン画面以外に灯りはない。
部屋の中にはタイピングの音だけが響く。
「なかなか、ええのが見つからんなぁ」
思わず零れた言葉は、愚痴でも悲観でもない。只の感想だ。
メールに気が付いて、保輔は作業を中断した。
内容を確認すると、ニヤリと口端を上げた。
「何やよぅ知らんけど、予想よりおもろい感じになったやん」
早速、メールの内容を打ち直して、別の相手に送信した。
「人殺しの神様ね。リーダーが喜びそうなネタやんなぁ」
メールで中断した作業を再開する。
「どれどれぇっと。警察庁公安部特殊係13課。強者揃いって聞くしなぁ。最初から最強狙うほど阿保ちゃうし。簡単そうなん、一人くらいいてへんのかいな」
ぼやきながらハッキングした職員データを流し見る。
そもそもが個人の雑なプロフィールに簡易な表現で能力が掲載されているだけのデータだ。さほど参考になるとも、思えないが。
しばらく眺めた先の、怪異対策担当のページで、スクロールする指を止めた。
「あれれ、ここに、ええのがおるやん」
ざっと経歴をさらう。
若く経験は浅そうだが、肩書は悪くない。何より、狙い通りの惟神だ。
添付されている写真を見るに、真面目な優等生と言ったところか。
こういったテンプレは堕としやすい。
通っている高校まで保輔にとって都合がいい。
思わず笑みが浮いた。
理想のカモを見付けたと思った。
「峪口智颯、か。可愛い顔してんの好みやし、ええなぁ。やる気出てきたわ」
硬い表情をした眼鏡の奥の、欲情剥き出しの顔を見てみたい。
「気持ち悦くしたったら、どないな顔するんかなぁ。情けなく喘ぐんやろなぁ」
綺麗な顔がどんなふうに歪むのか、安易に想像できて、笑えた。
久しぶりに保輔の心が躍った。
「ヤス、お客さん、来てるよ。さっさと対応してよ」
美鈴が扉を開けて、気怠い声で呼んだ。
黒かった部屋に淡い光が溢れる。
目が眩んで、思わず顔を顰めた。
「待たしときぃや。アイツ等、欲の塊やさけ、何時間でも待つで」
「いつまでもいられんのは気色悪いから、ヤることヤらせて、さっさと帰してっていってんの」
美鈴の不機嫌な声に、保輔は重い腰を上げた。
「ハイハイ、しゃーないなぁ。面倒でも仕事やもんねぇ。お金くれる人にはええ顔しとかんとなぁ」
気乗りしない仕事でも、それが明日の目的に繋がるのなら、仕方がない。
部屋を出て、狭い廊下を歩き出す。
さっき見た智颯の顔を反芻して、笑みが零れた。
「あん子はきっと、こないな汚い仕事は好かんのやろなぁ。穢れを知らずに育ったお坊ちゃんて感じや。あぁ、ぐちゃぐちゃに汚して、啼かせてみたいなぁ」
どろどろな悦楽を覚え込ませて、汚い欲に塗れさせてみたい。
抜け出せなくなるほどに。
自分から穢れを望むほどに、壊したい。
「さぁて。智颯君と、どないして遊ぼうかなぁ」
考えると笑いが止まらない。
躍る胸を抑えて、保輔は近い未来に想いを馳せた。
Next⇒『仄暗い灯が迷子の二人を包むまで・第Ⅲ章』
3
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
騎士エリオット視点を含め全10話。
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。
身代わりオメガの純情
夕夏
BL
宿無しの少年エレインは、靴磨きで生計を立てている。彼はある日、死んでしまったレドフォード伯爵家の次男アルフレッドに成り代わり嫁ぐことを伯爵家の執事トーマスに提案され、困惑する。しかし知り合いの死を機に、「アルフレッド」に成り代わることを承諾する。
バース性がわからないまま、オメガのふりをしてバーレント伯爵エドワードと婚約したエレイン。オメガであることを偽装するために、媚薬を飲み、香水を使うも、エドワードにはあっさりと看破されてしまう。はじめは自分に興味を示さないかと思われていたエドワードから思いもよらない贈り物を渡され、エレインは喜ぶと同時に自分がアルフレッドに成り代わっていることを恥じる。エレインは良心の呵責と幸せの板挟みにあいながら、夜会や春祭りでエドワードと心を通わせていく。
陛下の前で婚約破棄!………でも実は……(笑)
ミクリ21
BL
陛下を祝う誕生パーティーにて。
僕の婚約者のセレンが、僕に婚約破棄だと言い出した。
隣には、婚約者の僕ではなく元平民少女のアイルがいる。
僕を断罪するセレンに、僕は涙を流す。
でも、実はこれには訳がある。
知らないのは、アイルだけ………。
さぁ、楽しい楽しい劇の始まりさ〜♪
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。
実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので!
おじいちゃんと孫じゃないよ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる