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第Ⅱ章

第77話 情報を聞き出せ

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 護の空間術で移動してきた直桜と忍、それに優士が降り立った場所は、英里のカフェの跡地だ。
 解析室に拘束していた優士から、清人に掛けた言霊が解除された気配を察知した瞬間に、楓の封印術を解いた。
 解析室には智颯も詰めていたから、惟神二人掛かりでの浄化ができた。
 浄化の速さにドン引きしていた円が、引きながらも仕事をしてくれた。護の空間術の座標を円が正確に定めてくれたお陰で、早く移動ができた。

 降り立った周囲を見回す。
 不自然に切り取られた建物が中途半端に残っている。土を抉り取った半地下のような場所に、槐と楓がいた。二人と距離を取って清人と稜巳を抱いた紗月、それに梛木が立っている。
 様子から察するに、言霊術が解けた清人は無事、自我が戻っているようだ。

 稜巳の封印は既に解け、紗月の手の中にいた。
 感じる妖力は弱々しいが、命に係わるレベルではなさそうだ。
 辺りを見回した優士が、紗月に抱かれた稜巳の姿を見付けた。

「稜巳……、稜巳!」

 駆け寄ると、優士が紗月ごと稜巳を抱き締めた。

「ごめんな、長い間、一人にして、ごめん」

 稜巳の手が優士の指を握った。小指と小指を絡めあった。

「一人じゃなかったよ。近くに英里がいた。優士の声も聞こえた。行基の気も感じた。寂しく、なかったよ」

 稜巳が自分の小指で優士の小指をきゅっと握る。
 優士の目から涙が流れた。

「そうか。英里が、いたんだな。これからは、もっと近くで俺と一緒に暮らそう。稜巳がいないと悲しいから、一緒にいてほしいんだ」
「優士が悲しいと私も悲しいよ。これからは、もっと近くで声を聴いたり、触れたりできるね。また一緒に寝られる?」
「眠れるよ。絵本を読んで、歌を歌って、一緒に寝ような」

 涙を流す優士に稜巳が腕を伸ばす。
 その姿はまるで、稜巳が優士を抱いて慰めているようだった。

(ちゃんと全部、終わってた。さすが紗月と梛木。忍の指示に従って正解だったな)

 集魂会では稜巳と清人の奪還に向かうと話していた忍だったが、東京に戻ってすぐに向かったのは、呪法解析室だった。
 円のモニタリングで優士を二十四時間体制で監視していた。
 
 改めて、直桜と護は槐と楓に向き合った。
 今回の直桜と護には、わざわざここに来た目的がある。

「槐でも陽人の霊銃は回避できなかったんだ。紗月が撃ったのなら、当然か」

 槐の状態を目視で確認する。
 霊力も呪力も封じられた状態だけでなく、他にも何かが仕込まれていそうだった。

「ちょっと本気すぎるね、陽人らしくない。ここで死んじゃったら、この後はどうするんだろうね」
「死んでないよ。霊銃に込められるだけ霊力込めただけ。この程度で、あの陽人が死ぬわけないだろ」

 すっとぼけた発言をする槐に、呆れて言葉を返す。
 確かに直桜も、倒れている陽人を発見した時は慌てたから、あまり言えた立場ではないが。

「稜巳は俺たちで保護する。集魂会は13課に付いた。金輪際、手出しはさせない。今回は、俺たちの勝ちだよ」

 槐が直桜を見上げた。

「そうだね、今回はさすがに負けを認めるしかないかな。そんなことより俺は、直桜の成長を感じられて、嬉しかったよ」

 そう話す槐の表情はやけに満足げで、なんだか気味が悪い。

「気枯れをやったね。集落を出てからは初めてだろう。久しぶりに吸った命の味は、どうだった? 忘れられないほどの甘露だと、昔の直桜は話していたけど。その味を思い出せたかな」

 槐の探る目が確信的な笑みを灯す。
 昔の自分が槐に何を話したのかなんて、覚えていない。
 けれど、感覚で覚えている。知りたくもない覚えていたくもない命の味は、やはり美味だったと。

(大丈夫、予定調和だ。むしろ槐から話を振ってきたこの状況は、都合がいい)

 表情が変わらないように気を付けながら、直桜は槐を見下ろした。

「お前に話す義理はないよ。かなり遠くで起こった些細な事件を、良く知ってるね」

 敢えて何でもないことのように話した。
 そんな直桜を眺めて、槐が楽しそうに笑う。

「些細、か。そうだね。直桜にとっては些細な規模だろう。お前が本気になれば、日本中の人間を一瞬で殺せるんだから」

 思わず息を飲んでしまった。
 立て直して言葉を投じるより早く、槐が口を開いた。

「また無意識だったんだろ? いまだに自分の意志では出来ないんだね。でも、使ってしまうんだ。自分の力が恐ろしいね、直桜」

 槐の言葉に誘導されて、気枯れをした時の自分を思い出してしまう。
 自分の意志で行使できない、始まったら止まれない。
 災禍の子、禍の種。久我山あやめが自分をそう呼んだのは、気枯れも関係あるんだろうか。

「あまりに詳しすぎますね。情報源は理研から送られた人々でしょうか?」

 護が直桜の腰を抱き、引き寄せた。
 その目は槐に向いている。

「そうだよ。bugsは反魂儀呪の味方だからね。bugsがどうやって集魂会を動かしたのかは知らないけど。スパイでも置いてるのかな」

 あっさり暴露されて、護が顔を顰めた。

「bugsの話を聞きたかったんだろ、教えてあげるよ。今回は、俺もちょっと気分が良くてね。直桜の気枯れのきっかけは護だろ。止めたのも護だ。つまり護が、直桜のスイッチだ」

 槐が護を指さして、ニタリと笑んだ。

「お前たち二人がバディで恋人同士で、本当に良かったよ。護がいないと生きられない直桜は、護をきっかけに理を壊し、人を殺す。恐ろしいね、直桜」

 直桜と護二人揃って初めて槐に会った時に交わした会話を思い出した。
 あの時も、槐は今と同じ話をしていた。

「初めから、俺の気枯れが、狙いだったのか? 俺に気枯れをさせるために、bugsを仕向けて、あんな……」

 蜜白を抱く護の姿が脳裏を掠める。
 あれが槐の思惑の先にあったと考えると、胸が悪くなる。

「直桜はもう、あんな術は使わない。俺が使わせない。直桜を、人殺しになどさせない!」

 直桜を後ろに庇って護が前に出た。
 そんな護を眺めて、槐が笑んだ。

「護は、そのままでいいよ。そんな護だから、直桜は気枯れを使うんだからね。二人は本当に、俺が望んだ二人になってくれたよ」

 至極嬉しそうに槐が笑う。
 そんな槐を前に、護が絶句していた。

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