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第Ⅱ章
第69話 【R15】もういらない
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※表現として明記していませんが性交の描写があります。ご注意ください。
行基に案内された部屋で、直桜は一人、ベッドにごろ寝していた。
忍と護は行基の所に行って外している。
「瀬田さん、ちょっといいか?」
ドアをノックする音がした。武流の声だ。
「いいよ、どうしたの?」
ベッドから起き上がり、扉を開く。
「ちょっと付き合ってほしい。一緒に来てくれ」
真剣な表情の武流を眺めて、頷いた。
集魂会の根城は一風変わった作りになっている。洞窟の中をくりぬいたように通路があり、部屋がある。
「ここって関東圏じゃないよね? どの辺りなの?」
これほど広い洞窟は日本の中でもそうはないだろうと思った。
「九州の高千穂だよ。行基の法力や黒介の飛行で移動は簡単だから、拠点はどこでもいいんだ。来る人間は大変だろうけど、ウチの鍵さえ持っていれば迎えに行ける」
武流が暗い洞穴のような道を進んでいく。
廊下と呼んでいいかわからないが、部屋を繋ぐ道には所々、火が灯っている。これも行基の法力なのだろう。
歩いている途中にも幾つか扉があった。部屋がたくさんあるというのは本当らしい。
「何で高千穂? 誰かの所縁の地とか?」
行基は確か大阪出身だったはずだし、黒介なら熊野だ。茨は大江山だと言っていた。
「特に、そういうのはねぇな。ここは霊験が高いから行基が法力を維持しやすいんだってさ。妖怪の奴らにもいい場所らしいぜ」
なるほど納得だった。
大地や岩などの自然物から流れてくる気が、とても心地いい。それは直桜も感じるところだ。
「これだけの空間を維持するのは大変だろうから、そういう場所が必要かもね。行基一人でやってるんだろ?」
部屋の中を生活できる空間に維持しているのは行基の法力なんだろう。行基がいなかった数年間はどうしていたのか気になるところだ。
その辺りも、紗月がサポートしていたのかもしれない。
「ああ、そうだよ。俺たちは行基にばっかり、負担をかけっぱなしだ」
小さな声で答えた武流の横顔を後ろから覗き見る。
明るくさっぱりした印象の武流に似つかわしくない表情をしていた。
緩いカーブを曲がった先に、また部屋があった。
仄暗い灯りが灯る部屋は、扉が中途半端に開いている。
近付くにつれ、声が聞こえてきた。
「ぁっ、ぅん……もっと、もっと、深くして」
蜜白の声だ。どう聞いても喘いでいる。
「ぁぁ、蜜、蜜、中、きもちぃ……」
ざわり、と心臓が嫌な音を立てた。
足が勝手に部屋の扉に向かう。
「もっと、蜜の奥まで、入りたい、蜜……ぃぃっ」
扉の向こうの大きなベッドの上に、人がいる。
蕩けた顔で縋り付く蜜白に覆いかぶさるのは、見慣れた背中だ。
「俺も……ぃぃっ、きもちぃ、護、もっと攻めて、もっと」
「可愛い、蜜……、愛してるよ、蜜……」
別の男に愛の言葉を吐いて腰を振る恋人は、直桜の知らない男に見えた。
心臓が拍動を速める。
唇と指が温度を失って、小刻みに震える。
声を出したいのに、言葉が出てこない。
その間も、護は愛おしそうに蜜白を抱いている。
腰が動く度に、卑猥な水音が部屋の中に響いている。
蜜白の目が、扉の方に向いた。
一瞬、目が合った気がした。
「ねぇ、護。直桜と、どっちが気持ちいい? バレたら、どうする?」
明らかに直桜を意識した挑発的な発言だ。
わかっていても、拳が震える。
「蜜が、いい。蜜が、気持ちいい。直桜はもう、いらない。蜜が、好きだ。俺に集中して、俺のことだけ、考えて、蜜……」
護が強引に蜜の唇を塞いだ。
「ぁんっ、ぅん……、いらないなんて、酷い人だね、ぁは、ふふ」
蜜が護の唇に噛み付いて、腰を大きく振った。
怒りとも落胆ともとれない感情が直桜の中に擡げてくる。
(ダメだ、反応するな。違う、これは、ちがう。フェロモンのせいで、本音じゃなくて。あれはきっと、本当の護じゃなくて)
言い聞かせるのに、感情は勝手に昂って、殺意にも似た興奮が頭を支配する。
腕に突然、不自然な重さを感じた。
太い鎖が直桜の腕を拘束している。
「悪ぃ、瀬田さん。こうでもしないと、アンタの隙を作れないと思った」
武流が鎖を引いて、直桜の腕を後ろ手に縛りあげた。
「術式を霊現化した呪具、封じの鎖だね。反魂儀呪の巫子様からのプレゼント?」
自分でも驚くほど冷ややかな声が出た。
「先にちゃんと教えとく。化野さんは蜜のフェロモンにやられてるだけだ。口から流し込むとダイレクトに脳に届いて、ほとんど洗脳状態になる。本人の意志じゃない」
直桜の質問には答えずに、武流が必死に訴える。
後悔が滲む武流の表情を見ても何も感じない。
自分は今、自分でもわからないくらいに怒っているんだろうと思う。
「なんで、こんな真似を? って一応、聞こうか。答えは、わかってるけど。言訳する機会くらいは、与えてやるよ」
直桜の冷めた声に、武流が体を震わせた。
「俺たちは、集魂会は反魂儀呪に逆らえねぇ。優には巫子様の術が掛かったまんまだ。稜巳だってまだ向こうの手の内だ。言われた通りにするしかねぇ」
「なんて命令されてるの?」
直桜の短い質問に、武流が答えた。
「アンタ等がここに来たら、足止めするよう言われてる」
「妖怪は? 武流や碓氷さんよりは役に立つのが、いるんじゃないの?」
黒介や茨程度では、確かに敵じゃない。
だが、もっとマシな戦闘向きの妖怪がいるものだと思っていた。
「優が起こした爆破の時、13課の惟神に狩られて減った。それに、反魂儀呪にも、何人か殺されてる。見せしめにするみたいに。これ以上、仲間を失いたくねぇ」
武流の顔が泣きそうに歪んだ。
反魂儀呪は集魂会の戦力を削った上で利用しているようだ。使い潰して捨てるつもりなんだろう。
(反魂儀呪に食い物にされて、理研に良いように使われて、何のためにあるんだろうな、集魂会。同情する気にもならない。どうでも、いいや)
武流が意を決したように顔を上げた。
「封じの鎖を使えば、神力は封じられるんだろ。今の瀬田さんになら俺のフェロモンが通用する」
武流が直桜の腰を抱き、顔を寄せた。
恐らく歳は下なんだろうが、直桜より背が高く体躯が良いので、体を覆われるような姿勢になる。
「数日でいいから、ここでじっとしててくれよ。その間は、何も考えられないくらい気持ち良くしてやるから」
武流が直桜の唇を吸った。
流れ込んでくる甘い香りで噎せ返りそうになる。
股間がじんわり熱くなり、硬さを増した。
舌を絡めながら、直桜の勃起した男根に、武流が自分のモノを押し付ける。
されるがまま動かない直桜を、武流が見下ろした。
直桜と目が合った武流が、びくりと体を震えさせた。
「お前は、俺を抱きたいの?」
武流が顔を離して直桜を見詰める。
「神力を封じても、瀬田さんには効果ないのかよ」
「いいや、多少はあったよ。勃ったし、体は反応した」
やんわりと武流の体を押し戻した。
勃起した男根はすっかり萎えていた。
行基に案内された部屋で、直桜は一人、ベッドにごろ寝していた。
忍と護は行基の所に行って外している。
「瀬田さん、ちょっといいか?」
ドアをノックする音がした。武流の声だ。
「いいよ、どうしたの?」
ベッドから起き上がり、扉を開く。
「ちょっと付き合ってほしい。一緒に来てくれ」
真剣な表情の武流を眺めて、頷いた。
集魂会の根城は一風変わった作りになっている。洞窟の中をくりぬいたように通路があり、部屋がある。
「ここって関東圏じゃないよね? どの辺りなの?」
これほど広い洞窟は日本の中でもそうはないだろうと思った。
「九州の高千穂だよ。行基の法力や黒介の飛行で移動は簡単だから、拠点はどこでもいいんだ。来る人間は大変だろうけど、ウチの鍵さえ持っていれば迎えに行ける」
武流が暗い洞穴のような道を進んでいく。
廊下と呼んでいいかわからないが、部屋を繋ぐ道には所々、火が灯っている。これも行基の法力なのだろう。
歩いている途中にも幾つか扉があった。部屋がたくさんあるというのは本当らしい。
「何で高千穂? 誰かの所縁の地とか?」
行基は確か大阪出身だったはずだし、黒介なら熊野だ。茨は大江山だと言っていた。
「特に、そういうのはねぇな。ここは霊験が高いから行基が法力を維持しやすいんだってさ。妖怪の奴らにもいい場所らしいぜ」
なるほど納得だった。
大地や岩などの自然物から流れてくる気が、とても心地いい。それは直桜も感じるところだ。
「これだけの空間を維持するのは大変だろうから、そういう場所が必要かもね。行基一人でやってるんだろ?」
部屋の中を生活できる空間に維持しているのは行基の法力なんだろう。行基がいなかった数年間はどうしていたのか気になるところだ。
その辺りも、紗月がサポートしていたのかもしれない。
「ああ、そうだよ。俺たちは行基にばっかり、負担をかけっぱなしだ」
小さな声で答えた武流の横顔を後ろから覗き見る。
明るくさっぱりした印象の武流に似つかわしくない表情をしていた。
緩いカーブを曲がった先に、また部屋があった。
仄暗い灯りが灯る部屋は、扉が中途半端に開いている。
近付くにつれ、声が聞こえてきた。
「ぁっ、ぅん……もっと、もっと、深くして」
蜜白の声だ。どう聞いても喘いでいる。
「ぁぁ、蜜、蜜、中、きもちぃ……」
ざわり、と心臓が嫌な音を立てた。
足が勝手に部屋の扉に向かう。
「もっと、蜜の奥まで、入りたい、蜜……ぃぃっ」
扉の向こうの大きなベッドの上に、人がいる。
蕩けた顔で縋り付く蜜白に覆いかぶさるのは、見慣れた背中だ。
「俺も……ぃぃっ、きもちぃ、護、もっと攻めて、もっと」
「可愛い、蜜……、愛してるよ、蜜……」
別の男に愛の言葉を吐いて腰を振る恋人は、直桜の知らない男に見えた。
心臓が拍動を速める。
唇と指が温度を失って、小刻みに震える。
声を出したいのに、言葉が出てこない。
その間も、護は愛おしそうに蜜白を抱いている。
腰が動く度に、卑猥な水音が部屋の中に響いている。
蜜白の目が、扉の方に向いた。
一瞬、目が合った気がした。
「ねぇ、護。直桜と、どっちが気持ちいい? バレたら、どうする?」
明らかに直桜を意識した挑発的な発言だ。
わかっていても、拳が震える。
「蜜が、いい。蜜が、気持ちいい。直桜はもう、いらない。蜜が、好きだ。俺に集中して、俺のことだけ、考えて、蜜……」
護が強引に蜜の唇を塞いだ。
「ぁんっ、ぅん……、いらないなんて、酷い人だね、ぁは、ふふ」
蜜が護の唇に噛み付いて、腰を大きく振った。
怒りとも落胆ともとれない感情が直桜の中に擡げてくる。
(ダメだ、反応するな。違う、これは、ちがう。フェロモンのせいで、本音じゃなくて。あれはきっと、本当の護じゃなくて)
言い聞かせるのに、感情は勝手に昂って、殺意にも似た興奮が頭を支配する。
腕に突然、不自然な重さを感じた。
太い鎖が直桜の腕を拘束している。
「悪ぃ、瀬田さん。こうでもしないと、アンタの隙を作れないと思った」
武流が鎖を引いて、直桜の腕を後ろ手に縛りあげた。
「術式を霊現化した呪具、封じの鎖だね。反魂儀呪の巫子様からのプレゼント?」
自分でも驚くほど冷ややかな声が出た。
「先にちゃんと教えとく。化野さんは蜜のフェロモンにやられてるだけだ。口から流し込むとダイレクトに脳に届いて、ほとんど洗脳状態になる。本人の意志じゃない」
直桜の質問には答えずに、武流が必死に訴える。
後悔が滲む武流の表情を見ても何も感じない。
自分は今、自分でもわからないくらいに怒っているんだろうと思う。
「なんで、こんな真似を? って一応、聞こうか。答えは、わかってるけど。言訳する機会くらいは、与えてやるよ」
直桜の冷めた声に、武流が体を震わせた。
「俺たちは、集魂会は反魂儀呪に逆らえねぇ。優には巫子様の術が掛かったまんまだ。稜巳だってまだ向こうの手の内だ。言われた通りにするしかねぇ」
「なんて命令されてるの?」
直桜の短い質問に、武流が答えた。
「アンタ等がここに来たら、足止めするよう言われてる」
「妖怪は? 武流や碓氷さんよりは役に立つのが、いるんじゃないの?」
黒介や茨程度では、確かに敵じゃない。
だが、もっとマシな戦闘向きの妖怪がいるものだと思っていた。
「優が起こした爆破の時、13課の惟神に狩られて減った。それに、反魂儀呪にも、何人か殺されてる。見せしめにするみたいに。これ以上、仲間を失いたくねぇ」
武流の顔が泣きそうに歪んだ。
反魂儀呪は集魂会の戦力を削った上で利用しているようだ。使い潰して捨てるつもりなんだろう。
(反魂儀呪に食い物にされて、理研に良いように使われて、何のためにあるんだろうな、集魂会。同情する気にもならない。どうでも、いいや)
武流が意を決したように顔を上げた。
「封じの鎖を使えば、神力は封じられるんだろ。今の瀬田さんになら俺のフェロモンが通用する」
武流が直桜の腰を抱き、顔を寄せた。
恐らく歳は下なんだろうが、直桜より背が高く体躯が良いので、体を覆われるような姿勢になる。
「数日でいいから、ここでじっとしててくれよ。その間は、何も考えられないくらい気持ち良くしてやるから」
武流が直桜の唇を吸った。
流れ込んでくる甘い香りで噎せ返りそうになる。
股間がじんわり熱くなり、硬さを増した。
舌を絡めながら、直桜の勃起した男根に、武流が自分のモノを押し付ける。
されるがまま動かない直桜を、武流が見下ろした。
直桜と目が合った武流が、びくりと体を震えさせた。
「お前は、俺を抱きたいの?」
武流が顔を離して直桜を見詰める。
「神力を封じても、瀬田さんには効果ないのかよ」
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