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第Ⅱ章

第56話 【R18】術が解けたら

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※反魂儀呪単独潜入編:清人目線※



 ベッドに入って眠るという行為を数回繰り返した、恐らく夜に、眠る清人のベッドに槐が潜り込んで来た。
 気配に気が付いて、振り返る。

「久し振り、初日振りだねぇ。俺とは詰まんなかったのかと思ったじゃん」

 腕を伸ばすと、槐が清人を抱き締めた。

「なかなか来られなかっただけだよ。清人なら毎晩でも抱きたい」
「へぇ。リーダー様は忙しいんだ」

 ちゅっと音を立てて、触れるだけのキスをする。

「そろそろ俺に聞きたいことができたんじゃないかと思ってさ」
「教えてくれんの? シてからでもいいけど?」

 口付けて、舌を軽く絡める。

「欲しい情報を得てからじゃないと、集中できないだろ?」
「そんなの忘れるくらい、抱き潰してくれたらいいんじゃないの?」

 槐がニヤリとして、清人の唇に吸い付く。
 舌を絡めて吸い上げると、水音を立てて離した。

「稜巳の居場所なら、聞けば教えるって先に話しておいたのに、俺には全然聞いてこないね。自力で見付けたかった?」

 熱く硬い股間を清人の股間に押し付ける。
 槐の指が、清人の後ろの口を撫で上げた。

「集中できてねぇのはどっちよ? お前こそ、話さねぇとヤる気にならねぇんじゃねぇの?」

 槐の股間に手を伸ばし、熱くなった前を服の上から扱いた。

「俺に稜巳を見付けさせて、さっさと封印を解かせろってお達しでも下ったか?」

 清人は槐を見上げた。
 槐が表情を変えずに清人を見下ろしている。
 
「反魂儀呪のリーダーは八張槐、巫子様は枉津楓。そのバックにいるのは、誰だ? お前らを表に出して裏で糸引いてる奴がいるんだろ?」
「勿論、いるよ。けど、今の清人にはまだ、教えられないな」

 槐が清人の首を食み、噛み付く。
 ビリっとした痛みが走った。

「俺のことが大好きな清人は、俺や楓が駒にされてる可哀想な傀儡に思えたんだろ? 楓とも何かを話していたようだしね」

 槐の手が、ゆっくりと清人の前を撫でる。
 腰がピクリと跳ねた。

「何でもお見通しなんだねぇ。だったら、槐は納得して反魂儀呪のリーダーってお人形、演じてるワケ? お前がそこまで尽くす価値が、裏にいる人間にはあるんだな?」

 股間に伸ばそうとした清人の手を槐が握って止めた。
 顔を伸ばして、槐の唇を噛む。じんわりと血の匂いがした。

「俺は今、言霊術でお前を慕ってる。けどな、術が解けた後、きれいさっぱりどうでも良くなるとも思ってねぇよ。直桜が楓を友達って呼ぶように、俺もお前をきっと、友人とは違う特別だとは、思うだろうぜ」

 噛み付いた唇から流れる血に吸い付く。
 槐の手が、清人の顔を撫でた。

「だから、お人形の俺を可哀想に思うんだ? 可哀想な俺を助けてあげたいとか、考えてる?」
「いいや、そこまでは思わねぇよ。どっちにしろ自分で選んだ場所だろ。お前みてぇなヤツがただの人形でいるとも考えらんねぇしな」

 槐が意外そうな顔をした。

「俺は槐が好きだし、今、隣にいてすげぇ嬉しい。けど、術が解けたら、そんな気持ちはなくなって、きっと13課に戻る。どうせ槐は、そこまで織り込み済みだろ」

 槐は黙ったまま表情を止めた。

「だから、どうしようもなくなったら、俺んとこに来い。誰にも頼らずに命捨てるのだけは無しだ。これは、今じゃなきゃ、できねぇ話だろ」

 槐が清人の首筋に付いた噛み跡をなぞった。

「今だから思う気持ちだよ。術が解ければ、偽りの恋情は掻き消える」
「ああ、そうだよ。今だから思うんだ。術が解けた未来の俺も、助けを求めてきた槐をきっと見捨てねぇよ。恋情は消えても繋がった体の感触は覚えてる」

 槐の首元に吸い付く。されたのと同じ強さで、噛んだ。

「……応接室の地下。封印が解け切れていない角ある蛇は光を嫌う。暗く湿り気のある場所でないと妖力を維持できない。優士に言霊を託された清人でないと、封印は解けない」
「解呪にデメリットは?」
「特にないよ、稜巳自身にはね。反魂儀呪にいた優士が何故、自ら封印を解かなかったのか。何故、回りくどい真似をして清人に言霊を託したのか。よく考えてから、解呪するんだね」
「解呪者の方にデメリットがあんのかよ。てか、その辺、知ってんなら教えてくんない? 稜巳の封印、解呪させたいんだろ?」

 槐が小さく両手を上げた。

「俺にもわからないんだ。ブラフじゃないよ。わかってたらとっくに解呪している。優士に呪詛を掛けて解呪させる方法は詰んだし、正直にお手上げなんだよ」

 槐が話すと嘘くさい台詞だが、どうも嘘ではないらしい。
 惟神になってから、相手の嘘が気の揺らぎでわかるようになった。
 直桜が相手の言葉の真意を見抜くのは神力だ。直桜に関しては生まれた時から備わっている力だし、無自覚なんだろう。
 それを警戒しているのか、槐や楓は嘘を吐かない。はぐらかすか話さないかの二択だ。

「重田さんに呪詛が掛からなかったのは、なんで?」
「楓が封印術を掛けた後に、次の呪詛が掛かった時点で自害する言霊を自分に掛けてた。言霊術って怖いよね。優士に解呪させる方法は詰んだけど、そのお陰で清人がここに来てくれたから、結果的には良かったかな」

 槐が爽やかに笑って清人に唇を寄せる。
 優士の決意は命懸けだということだ。全く笑えない。

「そもそも槐が稜巳の封印を解きたいのは、何でだよ。角ある蛇に、今更、価値なんかあんの?」
「答えは大体、わかるだろ。反魂香自体が妖怪だけど、寿命が短くてね。千年以上生きる角ある蛇が反魂香を取り込んでくれてるなら、使い勝手がいいんだよ」

 槐の答えは清人の予想通りだった。

(やっぱり、そこか。久我山あやめが集落から持ち去った反魂香は使い切ったか、残りが少ないんだろうな)

 妖怪とはいえ、所詮は香だ。無限に使える訳ではない。
 反魂儀呪が焦っているのは、間違いなさそうだ。
 
(解呪しない重田さんに業を煮やしてあんな真似、させたワケか。重田さんの言霊術に槐の呪力を混ぜれば解呪できたかもしれねぇのに)

 何年も解呪を試みたはずの優士の言霊だけでは、恐らく稜巳の封印は解けない。だからこそ、優士は枉津日神の惟神である清人に言霊を託した。
 穢れや呪いは清浄と混じれば時にキーになる。護の解毒術と同じだ。

(反魂儀呪の力を借りて解呪する気は、重田さんには初めからなかったってことか。……大人しく槐と一緒に解呪していれば良かったのに。反魂香があれば、リーダーとしての槐の威厳を保ってやれる……)

 そこまで考えて、はっとした。
 自分の思考が槐に傾き始めている。槐の思惑通りに動かない優士に苛立ちさえ覚えている。

(確かに、言霊術、怖ぇわ。この状態が長く続くのは、良くねぇな)

 気が付かない間にじわじわと思考が塗り替えられていく恐怖を実感した。

(重田さんの言霊を思い出せ。反魂儀呪から稜巳を取り返すために、俺は一人でここに来たんだろうが。稜巳の封印を解けば、重田さんにかかった楓の術を直桜が、解呪、できる。……厄介だ。それは、槐のために、ならない……)

 思考が混乱する。何が間違っているのか、わからなくなってくる。
 清人の思考を遮るように、槐が清人の耳たぶを食んだ。

「独り言、丸聞こえだけど、大丈夫? とりあえず清人の質問が済んだなら、俺の話は終わりだし、シようか」

 食まれた耳がジリジリ熱い。
 聞こえる声も、触れる肌も、総てが愛おしくて、おかしくなりそうだ。

(今日は、変だ。いつもより、槐が好きな自分を抑えられない。こんな気持ちでシたら、感情が、溢れて、おかしくなる)

「悪ぃ、今日は、やっぱり……っ!」

 槐が清人の唇を覆うように口付けた。
 話そうとする清人の口に、無理やりに舌を差し込み、絡めとる。
 息ができない程、深く犯され、声すら漏らせない。

「っ、っっ!」

 槐にしがみ付く。
 股間を押し付けられて、一度萎えたモノがまた硬く滾った。
 後ろの口に指を入れられ、執拗に擦られる。
 散々、愛撫に慣らされた体は、指だけで簡単に絶頂した。

「ぁ、は、はぁ……」

 ようやく唇が離れて、清人は大きく息を吸った。
 達した余韻と酸欠で蕩けた顔を、槐が満足そうに見詰めた。

「言霊術が解けた時、清人が俺をどう思うのか。今からそれが、楽しみで仕方ないんだ。俺に愛されて、俺を愛していた自分を、正気の清人はどう受け止めるんだろうね」

 清人の腰をずらして後ろの口に槐が自分の滾った先を押し付ける。
 それだけで、快感が腰から背筋に昇る。
 少しずつ押し付けて、清人の中を押し広げながら入ってくる。

(ほらやっぱり、コイツはいつでもずっと、抱き方まで優しいんだ)

 強引に感じる仕草でも清人の体を傷付けることはない。
 総てが清人の快感に繋がる。

「んっ、ぁ、ぁんっ」

 清人の良い所を擦りながら、根元まで飲み込んだ清人の最奥を突く。
 奥の壁を突きまくった先が、その奥にハマった。

「ぁっ! ヤ、まて、ソレダメっ」
「ハマったまま動かすと、気持ちいいだろ」

 槐が小刻みに腰を動かす。
 腹の奥に何度も今までにない快楽が続いて、意識がぼやける。

「ぁ、ぁ、ぁー……」
「あれ? また飛んじゃうかな」

 ハマった中に何度も突っ込まれているような感覚で、頭の芯まで気持ちがいい。
 体がびくびくと震えて、いつの間にか腹の上が精液塗れになっていた。

「清人の奥に出すよ。清人、聞いてる?」
「聞いて、る、きもちぃ、ぁ、ぁ」
「もう少し、動くよ」

 さっきより強めに捻じ込まれて、体が強張る。
 槐の顔にも、いつもより余裕がない。

「ぁ、ぁぁっ……ぁぁ!」

 喘ぎしか漏らせなくなった口に、槐が指を突っ込んだ。
 舌に乗った熱すら嬉しくて、舐めとろうと動く。
 清人の顔を見降ろす槐が歪に笑んだ。

「はぁ、清人…………、愛してるよ、清人。俺を殺したいほど憎む清人を早く愛でたいよ。術が解けたらちゃんと俺を憎めるように、準備を始めようね」

 ツッコまれた槐の指が清人の舌を弄んで喉の奥まで犯す。
 嗚咽を繰り返し涙目になる清人を見下して、槐が愉悦の笑みを浮かべた。
 その笑みが快楽に歪む。
 腹の中が熱くなって、意識が飛びそうになった瞬間。

「術が解けても俺が欲しい清人のままでいられるように、今はドロドロに溶けるくらい、俺を愛していいからね」

 耳の奥で、槐の声が脳の中に木霊したのを感じた。
 心が震えるほど嬉しくなりながら、途切れた意識は快楽に飲まれて沈んでいった。
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