仄暗い灯が迷子の二人を包むまで

霞花怜

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第Ⅱ章

第46話 地下七階の呪法解析室

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 直桜たちは地下七階の呪法解析室に向かっていた。
 以前、封印された枉津日神の解呪のために訪れたのは五階だった。今回は大掛かりな解析が必要なため、より精密な仕事のできる分析官が担当しているらしい。
 移動中に忍が説明してくれた。

「五階は基本、朽木と垣井が詰めて外部と接触する場所だ。六階は回復室と解剖室。本格的な解析は七階で行っている」

 惟神を殺す毒に侵された直桜が運ばれた場所は、回復室がある六階だった。

「回復室って呪法解析室の一部なんだね。要が回復師だから?」
「ああ、そうだな。朽木は医師免許も持っているし、術師としても回復特化だ。だが、専門は解剖や解析でな。二つの室長を兼ねている」
「なるほどねぇ」

 一見して繋がりがないように思ったが、そういう説明なら納得できる。
 不意に紗月の顔が目に入った。
 浮かない表情、というより、何かを噛み締めているように見えた。

(13課に所属を決めた途端に清人がこんなことになったんだから、無理ないか。俺の言葉の説得力、なくなっちゃったな)

 自分は13課に事件を運ぶ禍の元だと話した紗月を、半ば強引に理屈で説得したのは、直桜だ。

「別に今回は、紗月のせいってわけじゃないから、自分が悪いなんて考えないでよね」

 直桜の言葉に紗月が振り返る。
 小さく笑って頷いた顔は、紗月らしくない表情だった。

「行基の御霊が、戻ってきてたんだね」

 紗月の呟きに、思わず返事をしそうになって、口を噤んだ。
 直桜と護の顔を眺めて、紗月が納得の表情をした。

「ああ、答えなくていいよ。なにか約束したんでしょ。破ったら、下手したらもう会ってもらえなくなるからね」

 紗月の言葉に、直桜は首を傾げた。

「約束って、そこまで縛りがあるの? てか、紗月、詳しいね」
「そりゃ詳しいよ。十年前、いや、集魂会に召喚されたのは、正確には十一年前なのかな。あの時、行基を入滅させたのは、私だからね」

 昔を思い出すような紗月の顔は、やはり曇っている。

「何か貰ったでしょ? 約束を破ると、あれが壊れる」
「……そうなんだ」

 蛇の根付が付いた木札を、行基は鍵だと言っていた。

(約束破ったら木札が壊れるなんて、言ってなかったよな。やっぱり、食えない坊さんだ)

 行基は決して悪い人には思えなかったし、集魂会の面々も噂ほど好戦的な武闘派にも思えなかった。
 噂と自分の目で見た事実の乖離が、やけに引っ掛かる。

(けどまだ、判断できるほどの材料がない。やっぱりもう一度、集魂会に行かないと)

 思考を巡らせているうちに、七階の解析室に着いていた。
 エレベーターを降りてすぐに、重厚そうな自動扉が現れた。
 忍が扉に手を翳すと、簡単に開いた。

「ここは機密情報の坩堝だ。秘密保持のために、扉はあらかじめ登録された霊力にしか反応しない」
「え? じゃぁ、俺は入れない?」

 直桜がこの場所に来るのは初めてだ。
 忍が首を振った。

「13課に正式に所属した時点で登録されるから、直桜は問題ない。紗月は入れないかもしれないな」
「何で? 紗月も13課に正式に所属が決まっただろ」

 忍と共に扉を潜ろうとした紗月が弾かれて、自動ドアの手前で足を止めた。

「正式所属の手続きが、恐らく間に合っていない。何せ午前中に合意をとったばかりだ。すまんな、紗月」

 言われてみれば、そうだった。
 清人の件ですっかり忘れていたが、紗月が13課所属の手続きを行ったのは、つい数時間前だ。

「仕方ないね。十三階で大人しく待ってるよ」

 紗月が三人に向かい、手を振る。

「くれぐれも大人しく待っていろよ」
「はいはい、わかってるって」

 忍に釘を刺されて、紗月が困った顔をした。
 自動ドアが閉まり、忍が次の扉に手を掛けた。

「紗月ほどの人でもダメなんだね」

 アルバイトとはいえ、てっきり正職員並みの扱いなのだと思っていた。

「正職員の中でも、ここに入れる人間は限られる。どれだけ功績を上げていても、信用とは別の話だ」

 忍の言葉はまるで、紗月自身を拒んでいるように聞こえた。
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