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第Ⅱ章

第18話 瀬田直桜VS化野護①

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 十二階に着くと、ジャージ姿の護が血相を変えて直桜に駆け寄った。

「直桜、大変です。もう十月です」
「え? うん、そうだね」
「神無月、いえ、神在月ですよ!」
「ん? ……あぁ、そういう心配か……」

 前に護に、「十月になったら出雲の神様の宴に参加する」という話をした。護も鬼神になったので、今年は一緒に参加だと話した気がする。

「旧暦合わせだから、半月くらい後だよ」
「あ、そうなんですか。それは良かった」

 護が、ほっと胸を撫で降ろしている。
 真面目なんだな、とつくづく思う。

「一カ月間、ずっと続く宴だから、どこかで参加すれば問題ないし、ずっといなくていいし、割と自由だから、心配ないよ」

 安心する護を尻目に、後ろにいる清人を振り返る。

「それはそうと、今年は清人も参加だよ。惟神になったんだから」
「えぇ⁉ そうなの? まぁ、そうか。怪異対策担当の惟神、十月は交代で行ってたもんな」

 驚きながらも納得している。
 事情を知っているから納得も早いなと思う。

「忍は、行かないの?」
「俺は神様じゃないから、行かないが?」

 むしろ「何故聞く?」みたいな顔をされてしまった。

「いやだって、最早、神様より神様みたいな人だと思うんだけど」

 神在月の神様の宴は、神力の大きさに関わらず総ての神とそれに準ずる妖怪や仙人も参加する。千三百年もの間、生きている役行者が参加しても何も不思議ではない。

「俺はあくまで人だし、俺が抜けたら13課が困るだろう」

 そう言われてしまうと、何も言えない。

(大国主命は忍が来れば喜ぶだろうけど、確かに13課は困ったことになるかもな)

 そうこう話しながらも、忍が何かを準備している。

「直桜は霊現体を作れるな? 苦手そうな言い回しだったが、もし実際の武器が良ければ、この中から好きな獲物を選べ」

 忍との訓練初日に対戦した時、目の前で日本刀を霊現化したのを思い出した。直桜が霊現化したことがある武器は、今のところ日本刀だけだ。
 大きな漆塗りの棺のような箱の中に、日本刀や薙刀や槍がごっちゃりと入っていた。箱に寄り、じっと中身を見詰める。武器の一つ一つを手に取って、感触を確かめた。

「この中に俺に向いてる武器、なさそうだから、新しい武器を作ってみるよ」
「そうか。じゃぁ、武器の準備ができたら始める。今日は直桜と化野で、一戦交えてもらう」
「えっ⁉」

 忍の言葉に一番驚いたのは、護だった。

「相棒の力を知るには、ぶつけ合うのが早い。それぞれに後衛は俺と藤埜で付くから、今日は直桜も前衛だ」
「わかった」

 素直に頷く。
 中々に乱暴な趣向だと思うが、説得力はある。
 しかし、護は決心できない様子だ。

「練習とはいえ、直桜を攻撃するのは……」

 惟神の眷族としての配慮というよりは、恋人に対する遠慮に見えた。

「後衛、選んでもいい? いいなら俺、清人にお願いしたいんだけど」

 清人を振り返る。
 直桜の意図を理解したのか、頷いてくれた。

「そうだなぁ。その方が、良いかもな」

 清人の目が忍に向く。
 同じような顔で、忍が頷いた。

「なら、俺が化野の後衛に付こう。互いに本気でやり合え。ここは警察庁だ。死にさえしなければ、回復師をすぐに呼べる」

 洒落にならないアドバイスというか注意をされて、護の目が余計に迷っている。

(言葉で何を言っても護は迷うだろうから、俺の方から本気で殴りに行くしかないよな)

 それでも、今の直桜では実力的に護の本気を引き出せないだろう。だが、長い間、護とバディを組んでいた清人なら、元バディの癖も弱点も心得ているはずだ。

 一先ず、チームに分かれての打ち合わせになった。

「護は手甲鉤を使ってくるはずだ。直桜は、どんな武器にする?」
「俺は、これ、使ってみようと思うんだけど」

 手の上に武器を霊現化する。
 清人の目が光った。

「いいね。面白そうだ。空中戦もイケるな。接近戦は、苦手か?」
「そうだね。一応、日本刀は扱えるし霊現化も出来るけど。正直、苦手だよ」
「まぁ、護と力で押し合って勝てる訳がないからな。直桜なら負けはねぇだろうけど」

 清人の言う「負けはない」は勝負ではなく、護が直桜を傷付けないために先に白旗を上げるという意味だろう。直桜も同じように思った。

「護に本気を出させたいから、俺も本気でいく。例の水玉をさ、神力で……」

 清人に耳打ちする。

「……で、雷はこうして、ね」

 手の中の武器を清人に見せる。
 清人がニヤリと笑んだ。

「悪くねぇな。護みたいな術者には効果的だろ。直桜も性格悪くなったねぇ」
「俺、元から性格悪いよ。護に初対面で言われてるからね」

 面接で初めて会った時の護のプロポーズは「どんなに性格が悪くても愛し抜いてみせます」だった。
 護は一体、直桜の何処に惚れてくれたのだろうと、直桜自身が思う。

(それでも今は、こんな風に一緒にいるんだから、不思議だな)

 不意に護たちの方を振り返る。
 護と忍は既に配置に付いていた。

「向こうは既に準備万端なようだぞ。こっちも行くか」
「うん。清人、よろしくね」

 拳を差し出す。

「おうよ、任せとけ。全力でサポートしてやる。この一週間の訓練の成果、護に全部ぶつけてやれ」

 清人の拳が直桜の拳に合わさった。

「勿論。俺の力、知ってほしいからね。勝ちに行くよ」

 合わせた拳を振り切って、直桜は前衛の配置に付いた。
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